第22話冒険者になったのだが?

俺とクリス、リーゼは冒険者ギルドへ向かった。クリスの話によると、貴族とは言っても、冒険者ギルドに顔を出して、一緒に魔物討伐をした方がいいとのことだった。


それには俺も賛成だ。実は俺もベルナドッテの領で、冒険者になって魔物討伐を行っていた。現場の空気というか、彼らとの一体感は重要だと思う。それに領民の支持も上がる。


魔物はダンジョンから魔の森を通じて、人の住む世界に絶えず侵入してくる。どこの領にもダンジョンや魔の森が存在する。


その魔物を狩るのは冒険者だけの仕事ではない。むしろ、本来貴族の仕事だ。


流石に全ての魔物を貴族だけでは討伐できないから、冒険者達に金を支払い、代行してもらっているに過ぎない。だが、俺の父は賢者の身でありながら、自身の領には滅多に顔を出さない。


確かに実家の領には大した魔物は出ない。だが、時々強い魔物が出没することがある。


そんな時に、父がいれば簡単に討伐できていただろうに。だが、冒険者任せの実家の領では強い魔物の襲来によって、時々被害者を出していた。


「案内といっても、王都に比べるとささやかで、なにもない田舎なんですが」


俺達に街を案内してくれているのは、あの冒険者レオンだ。街で偶然出会って、案内してもらえることになった。彼も目的地が冒険者ギルドなので、ついでに、という感じだ。


「田舎だけど、景色もいいし、山菜や川や湖の魚が美味しいし……気に入ってもらえると嬉しいな」


「ありがとうございます。すごくいい街だと思います」


「リーゼ、川魚って食べたことないなー」


「リーゼは食べることばかりね」


4人でブラブラと街を散策する。口には出せないが、この領は発展が遅れている。


理由は察しがついていた。この街は巨大な魔の森に面していて、他の領より魔物の出現率が高い。自然に騎士団や冒険者にかかる費用負担は増える。


騎士団も冒険者のクエストの大半も貴族である領主が負担している。領民の安全を確保するには金がかかるのだ。


そして、領地の発展にも金がかかるものなのだ。


同じような規模の俺の実家の領は比較的安全な処だったから、発展が早かった。


イェスタさんは俺の領地経営の手腕をかってくれたが、どこまで俺の経験が生かせるものやら。


レオンはいくつかの街に施設を紹介してくれた。


街のショッピングモール。


飲食店街。


冒険者ギルドをはじめとするさまざまなギルド。


街の施政を担う行政府。


などなど。


そして、最終目的地、冒険者ギルド。俺もクリス、リーゼも既に冒険者登録をしている。


俺は訂正をしないとな。ベルドナット家を追放された身だから、家名は名乗れない。


貴族でもないから、それも訂正しないとな。


「今日はありがとう。俺たち、今日はクエスト情報だけ見て帰るよ」


流石に昨日災害級の魔物と戦ったばかりだし、俺は剣を折ってしまったし。


「どういたしまして、いつか、アルベルト様とパーティを組める日を楽しみにしてます」


「こちらこそ、Aクラスのレオンさんなら是非!」


というわけでレオンさんと別れると、とりあえず俺の冒険者登録情報修正することにした。


意外と思うかもしれないが、実はリーゼも冒険者の資格を持っている。


実家の領で連れていけとうるさいから、連れて行ったから、自然に冒険者の資格をとってた。


そんな感じでギルドの受付で手続きをしていると。


「見かけない人だな?」


「いや、さっきレオンさんと話していた……じゃ、あれが賢者のハズレスキルの息子か……?」


田舎の街ではあっても、さすがに冒険者ギルド。情報網は確からしい。俺の情報は瞬く間に広がったようだ。まあ俺の父 賢者ガブリエルは誰でも知っている存在だしな。


賢者ガブリエル・ベルナドッテ。希代の魔法使い、その実力は1人でSSS級冒険者のパーティに匹敵すると言われている。


「おい! お前! ひょっとして賢者のハズレスキルの息子じゃねぇか!?」


ふいに明らかに粗暴そうな男が俺達の間に割り込んできた。


遺憾だが、どう見ても紳士的な態度ではないな。


とはいえ、新参者として、とりあえずは気を使うか。


「ええ。俺は賢者の息子、いえ、息子でした」


「ぎゃははは! やっぱりな! その情けない顔! 確か王都で見かけたぜ!」


「…………」


はぁ。


王都から離れた街と言っても、賢者のハズレスキルの息子はこんなにも馬鹿にされて生きていかなければならないのか。父が高名な人間でなければな。突然、頭ごなしに見下されることもなかっただろうに。


「ちょっと。あんた馬鹿ぁ! 私のご主人様に何てこと言うの? フツーそんなこと言う? というかウケるんだけど? 人としてアルの方が立派よね。はぁ? その態度はないわ」


「そうね、歳相応の礼節をもった態度が取れないなんて、きっと惨めな人生を歩んで来たのね」


クリスとリーゼの方が俺より先に怒った。


だが男も引かない。


「はあ? なんだオメーら、ぶっ飛ばされたいのかよ!」


女の子になんて暴言を。まあ、クリスとリーゼも大概なのだが。


ふいに粗暴な男が俺に下卑た笑みを浮かべて。


「おい、お前、良く見たら上玉の女連れてるじゃねえか。俺と勝負しろ。俺が勝ったら、二人共俺の女な。うひょー! 俺、ついているぜ!」


俺はクリスとリーゼの方を向いて。


「どうやら話し合いが通じる相手じゃないな」


「そうね、この人、かなりの戦士(笑)みたいだから、身の程を教えてあげたら」


「アル様、ギタギタにしてください。こんなヤツの女とか、マジ無理!」


俺は先程購入したばかりの無銘の剣に手をかける、と、その時一人の男が割って入って来た。


「おい、お前、誰に喧嘩を売っているのか分かっているのか? そのお方は先日のSS災害級の魔物を一人で倒したかただ……不敬だろう」


「ふ、不敬……一人で災害級を? いや、そんな馬鹿な、ハズレスキルがそんな訳が……」


戸惑う粗暴な男、だが外野からは。


「あの人がうちのギルドのAクラスの精鋭が倒せなかった災害級の魔物から助けてくれたのか?」


「えっ!? あの人がなの? 良く見るとカッコいい! 素敵! 恋人になってくれないかな」


「マジで? あの災害級を倒したのがあの人か? そう言えば、一部の隙もねぇ!」


何故か謎のブームがやって来た。

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