第16話なんか災害級の魔物が強いんだが?
俺とクリス、そして冒険者のレオンは一緒に前線に向かうことになった。
クリスはレオンと一緒にいた、他の冒険者達に治癒の魔法を施した。
どうも、彼らは魔物との闘いで負傷し、一旦、後方に下がり、治癒を待っていたようだ。
順次前線の他の冒険者たちと入れ替わり、人的損失を最小限に抑える作戦だな。
「レオンさん。あの冒険者たちも、君と同じAランクなのか?」
「はい。そうです。前線では他のAランクの仲間が戦っています。俺達を含めて5パーティ参戦しています。それでも勝てない。Sランクの方がいれば……」
……なるほど。ディセルドルフの街の冒険者ギルドにはSランクの冒険者がいないのだ。
つまり、Sランクの災害級の魔物にAランクの冒険者多数で挑んでいるんだな。
レオンが街道封鎖の指揮をとっていたのは唯一無傷だったからだろう。
Aランクの冒険者多数でも勝てない魔物。
レオン達の本音はまさに――猫の手も借りたい状況だったのだ。
「常時3つのパーティが対戦していますが、今回の魔物は別格です。通常のキングタイガーより遥かに大きな個体です。あんな大きなのは見た事がない」
「……そこまで強敵なのか」
「はい。とはいえ、流石にAクラスの冒険者3パーティが討伐にあたっています。さすがにそう簡単には負けません。簡単に止めはさせませんが、相手は1体だけ、持久戦に持ち込んでいますから、街や王都の応援が来る前に決着がつくかもしれません」
果たしてそうだろうか?
たしかにAランク冒険者が3パーティも討伐にあたっているのだから定石通りだ……だが、俺は嫌な予感がして、胸騒ぎがしているのだが。
――そして嫌な予感は、たいていあたってしまうのだ。
前線に辿りつくと。
「ど……どうなってるんだ! これは!?」
レオンが当惑して唖然とした表情だ。そして重苦しい雰囲気を漂わせ、まるで一生の苦痛を一瞬で一度に受けて、その感覚に耐え切れなくなったかのような絶望的な表情へと変わる。
「そんな馬鹿な……! 俺達の精鋭でも勝てないというのか……!!」
――前線は、崩壊していた。
キングタイガーと6人の冒険者が戦っていた。だが、その周囲には10人以上の冒険者達が倒れていた。
Aランク冒険者たち3パーティがだ。
いずれ決着がつくというレオン達の予想は大きく外れていた。
持久戦に持ち込めば勝てる。
とんでもない誤算があった。
『キングタイガー』
虎の魔物で体調は5mは超える。その巨体は一目見ただけで、その恐怖は計り知れない。
正直、俺も足が震えているのを止めることができない。
何故これ程の大人数にも関わらず勝てないのか?
それは先程キングタイガーが使ったスキルで全てがわかった。
スキル【ヒール】
この大型の個体のキングタイガーは通常持たない筈の治癒のスキル、【ヒール】を獲得していたのだ。持久戦は悪手だった。相手も回復するのであれば、成り立たない戦術だ。
「くっ……!! クリスティーナ様、アルベルト様、あなた達は直ちに撤退してください。このことを至急、王都へ報告してください! この魔物はSランクじゃない! SSランクだ!」
死を決意した顔のレオン。
俺達の撤退の時間を稼ぐため、自身は犠牲となろうというのか?
なんと立派な冒険者か? だが、俺には彼の意見に賛成しかねた。
――ここで戦わなければ男じゃない。
「しかし、レオンさん、あなたまで犠牲になるなんて!」
「他に方法がない。誰かが足止めして、王都の救援を呼ばないと! 気持ちは嬉しいが、わかってくれ!!」
彼の判断は正しい。戦線は崩壊した。すでにAクラス冒険者たちは全滅寸前だ。
無傷のレオンが参戦して、時間を稼ぎ、俺達が王都まで救援を呼びに行く、最悪転移の魔法を使ってでも対処すべき魔物だ。
そうなんだが。
俺の身体強化(小)、それに火の神級魔法。それにクリスの光の神級魔法。
普通に考えると十分な戦力だ。だが、Aクラス冒険者達が10人以上で勝てない魔物。SS級の魔物にどこまで通用するかわからない。
領での魔物狩りで騎士団長ベルンハルトさんから学んだこと。
指揮官は時に残酷な命令を出さなけれならない。多くの命のために少数の命を犠牲にする。
なんて残酷なんだろう?
俺は領ではそうした場面には出くわさなかった。だが、前線の論理は理解している。
指揮官であるレオンが判断したこと。
理に叶った判断。
やむを得ないのだ。
このままでは街か王都にSS級の魔物が突然襲来しかねない。
戦う術を知らない市民や領民が多数犠牲になることを考えたら、この犠牲は……
俺が苦渋の決断をしようとしたところ。
「た、助けて! 死にたくない!」
その時、突然声が聞こえた。
Aランクの女性の冒険者だった。
疲労が蓄積したところを魔物の一撃を受け、倒れていて、悲痛な声をあげる。
「やだ……死にたくない……助けて……誰かぁ!!」
キングタイガーがその機会を見逃す筈がなかった。
傷つき、心が折れたその冒険者にその牙を食い込ませんと迫って来る。
理性ではわかっていた。レオンの言う通りにすべきだ。
撤退して救援を呼びに行くべきだ。
この場の全員が全滅すれば、むしろ被害が広がる。
でも、俺は我慢できなかった。
それは理性ではなく、本能の発露、人の仲間を助けたい!
刹那。
俺は気が付くと動いていた。
「ああああああああああああっっ!!」
身体強化(小)のスキルは自動起動していた。
戦場を最大速度で駆け抜け、剣を抜く。
そして、剣の一閃。
「冥王破妖斬!!」
領の騎士団長ベルンハルトさん直伝で俺の剣の技!
5m以上の体躯のキングタイガーを圧し返すほど力が俺にあるはずはなかった。
無謀と勇気は違う。わかってはいた。だけど、俺にはこの人を見殺しになんてできなかった。
わかってはいたが。
だが。
「ググォォォォォオ!!」
巨大な体躯を持つキングタイガーが俺の剣に押し負けて……大きく仰け反って、そこから崩れ落ちるように横に倒れた。
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