第17話なんか災害級の魔物が弱いんだが?

「「「「「「「ええええええええ!?」」」」」」」


その場にいた全員から驚きの声があがる。


それはそうだろう、実は俺も驚いている。


「アルベルト様……? 今の技は、いったい……」


「…………」


レオンに突っ込まれる。


いや、技じゃなくて、とんでもなく力が出ていて、正直俺も驚いた。


5mを超える体躯を持つキングタイガー。推定10tはある化け物を俺の剣で圧し返した。


身体強化(小)の威力か?


だが、こんなでかい魔物を簡単に圧し返すことができるなんて。


やっぱり、なんとなく気がついていたけれど、通常の身体強化(小)のレベルを超えている。強すぎだ。これでは神級の身体強化魔法をも凌ぐ。しかも、このスキルは魔法詠唱不要なのだ。


スライムからもらえるスキルは3種類ある。魔物から簒奪者によってもらうもの、対戦した人間から簒奪者によってもらうもの、そしてスライム自身の習得したものをもらうもの。


このうち、魔物やスライム固有のスキルの発動は一瞬だ。呪文詠唱など必要ない。


しかし。


今はそんなことを思案している場合じゃない。


冒険者の側に駆け寄り、声をかける。


「大丈夫ですか? 意識はありますか?」


「…………は、はい」


意識はある。しかし、この場に放置できない。キングタイガーとの戦いに巻き込まれる。


「失礼!!」


俺は彼女を抱き上げると、戦場から離脱して、クリスの元へ戻った。


「クリス、この人を頼む。それと前線の人に治癒魔法を!「


「わかったわ。任せて頂戴!」


俺は女性の冒険者をクリスに委ねると、再び戦場に戻った。


一旦、身体を横へ倒されたキングタイガーは怒りの咆哮を上げる。その咆哮はついさっきまでなら、足がすくんでしまっていただろう。


だが、今の俺なら!


「こ、この野郎っ……! よくもミラを!!」


他の冒険者が怒りに震える。俺は彼らの元へ行き。

「俺が時間を稼ぎます。俺の仲間に光魔法、治癒の神級魔法が使える者がいます。あなた達は他の倒れている冒険者を彼女の元に連れて行って、回復して戦線を立て直して下さい!」


「ば、バカな!!」


その冒険者は大きく目を見開いた。


「あなたが只者じゃないのはわかります! ですがいくらなんでもこいつ相手に、ひとりでは無謀です!」


「……他に方法がありません。もう、誰も無傷な人は残っていないでしょう? その腕の傷を抱えてそのまま戦うのですか? そんな……肉が出てしまっているのに?」


彼の腕は魔物にやられたのだろう。大きな怪我をしていた。肉を抉られていた。


とても戦いを続けられる状況じゃない。


「……あ、ああ」


冒険者は諦めたように嘆息する。


「……君の言う通りだ。だが、命を大切にしろよ。約束しろ?」


「ああ。約束する。俺だって死ぬ覚悟までしていない。何とかしばらく時間を稼ぐ!」


「……頼む」


冒険者はその場を離れようとした時、俺の方を向いて、問うた。


「教えてくれ。勇敢な少年。君の名は?」


「アルです。アルベルト・ベルナドッテ」


俺の名を聞いて、冒険者は大きく目を見開く。


「アルベルト・ベルナドッテ ……


そうか。あの賢者の……俺はクラウス 」


そしてさっと身をひるがえすと、最後にこう言った。


「俺にはわかる。誰がなんと言おうが、君は立派な戦士だ。頼む……生きて帰還してくれ」


そして、彼らは仲間たちを助けてクリスのもとに集まって行った。


「……ちょっと、頑張ってみるか」


「グオオオオオオッ!!」


俺が前線に戻ると、キングタイガーは俺の剣の一閃のダメージがから回復したのか、素早い動きで、再び俺に襲いかかる。


剣で受け流すも、流石災害SS級! そのスピードは現実離れしている。身体強化魔法無しでは太刀打ちできない。


だが、幸い、身体強化(小)のおかげで俺の方が早いし、その動きは遅く見える。


何度目かの魔物の突撃に俺はサイドステップでかわすが、突然軌道を変えるキングタイガー。


流石に一筋縄では行かないか。


ドゴォン! と。


魔物にへし折られた木材が宙に飛び、地面に打ち倒される。あんな攻撃喰らったら、体中の骨がバキバキに折れること間違いない。


「マジか……?」


一人で戦うとは言ったものの。魔物の破壊力に思わず嘆息する。


とんでもない破壊力が目の前で繰り広げられる。


訂正だ。再びなぎ倒された巨木を見て、あんなの喰らったら、骨がバキバキどころじゃなくて、確実に一撃で死ぬ。防御力をあげてくれる仲間もいない。


更に追い討ちが俺に迫る。流石に圧されている。さっきから逃げてばかりで、俺も焦った。


そのおかげで隙ができてしまった。俺はキングタイガーの突撃を真正面から剣で受けるはめになった。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!!」


渾身の力を振り絞り、キングタイガーの牙突を受け止める。だが。


『ベキベキベキベキ、バキン』


なんと俺の剣が折れた。


「しまったぁ!」


俺は慌てて、横に全力で逃げる。だが。


キングタイガーの突撃のその先には治療中のクリスや冒険者達が!


このままではクリスが!


俺は気が付くと、剣を捨てて、キングタイガーに殴りに行っていた。


「クリスに手を出すなー!!!!!」


『ゴキン』


かなり鈍い、大きな音がした。


「グァァァッ……!」


効いている。俺のグー、効いている。


俺は我を忘れて、再度渾身の力を込めて、キングタイガーの腹にパンチを放った。

キングタイガーは上へ、その巨体が持ち上がり、飛んだ。いや、俺が吹っ飛ばした。


ゴォォォォォォォォン!

俺は怯んだタイガーを更に殴る。


『ゴキン、ゴキン、ゴキン、ゴキン』


「う、嘘でしょ……!! なんで殴ってるだけなのにあんな音するの!」


「信じられん。硬いタイガーの皮より硬いのか? あの少年の拳は?」


レオンさんと俺が助けた女性冒険者が回復したのか、俺の戦いが見に入っていたようだ。


だが、このままでは千日手だ。何故なら、タイガーは。


「グアアアアアアアッ!!」


地響きをあげてタイガーがのたうち回るが、ヒールの魔法陣がタイガーの周りに見て取れると。


回復してしまった。散々蓄積した筈のダメージが一瞬で、回復。


恐るべき魔物。流石にSS災害級!


だが、殴ってダメなら! 魔法で行くしかない!


タイガーが治癒のスキルを使って回復している隙に俺は呪文詠唱に入る。


3節の神級魔法では時間がかかる、ここは1節の上級魔法でとりあえず足を止めるべきか。


俺は上級火魔法、【ファイヤー・ブレイズ】 を唱えた。

「燃え盛る火はその真価を我が身に示せ『炎の祝福【ファイヤー・ブレイズ】』」


1節だと、すぐに詠唱完了。危ない、やはりタイガーは回復して、こちらに必殺の牙突で突貫して来た。そこへ、カウンターで火の上級魔法を喰らわす。


火の魔法の光球がタイガーに吸い込まれた瞬間、大爆発がおこった。咆哮は聞こえないが、かなりのダメージが入ったはずだ。


勝機だ。俺は僅かな勝ち筋を拾った。このチャンスにクリスの光の神級攻撃魔法を打ち込めば。


時間がない。早く、止めをささないと! 再びキングタイガーは回復してしまう!


俺はクリスに向かって、大声で怒鳴った。


「クリス! 今しかない! 早くクリスの神級攻撃魔法を打ち込んでくれ!」


「…………」


だが、クリスは何故かポカンとした顔で、呆けていた。そばにいるレオンや他の冒険者も同様だ。


「何故だ? 早く、この好機に止めを刺さないと! いまのうち早く!」


「いや……あのね……」


クリスは自分のアホ毛をクルクル回しながら、何やら戸惑った表情で言う。


「攻撃するって……なにに?」


「は?」


なにを言ってるんだクリスは。


「決まってるだろ? キングタイガーに決まっているじゃないか!」


俺の必死の叫びも虚しく、クリスも冒険者達もスルーで、なぜか俺を見る目が生暖かい。


「……キングタイガーって、あそこで死んでいるヤツのこと? 私の出番無いんですけど?」


「へっ?」


改めてキングタイガーを見る。


立ち込める黒煙と降り注ぐ粉塵のなかで横たわるキングタイガー。


気のせいかな? 死んでいるような気がする。


あれ、一人で殺せるものなのか?


俺は鑑定の魔法でキングタイガーを見る。


『死んだ魔物(元キングタイガー)』


……いやいやいやいや、無理だから、あんなの一人で倒すとか。


「い、いや、これは、その、あのだな」


何故か知らんか、俺はバツが悪くなった、そして。


「おそらく、皆さんが作ったヤツの傷が急所になって、運よく魔法の当たり所が良くて……」


言い淀んでしまったが、ここでキチンと言わないと!


「だから、みんなが作ってくれた急所に運良くだな。俺のささやかな上級魔法があたっただけで、俺は運がいいだけのごっつぁんゴールを決めただけなんだ!」


「「「「「「「「「「そんな訳ないでしょうぉおおおおおおおおお」」」」」」」」」」


総勢十数人に一斉に突っ込まれた。

なんか災害級の魔物が弱いようない気がするのだが。

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