第62話魔族の四天王がクソ強いのだが?

「ッ!?」


ズズズズズズズズッ


世界を震わすような地響きが、響き渡った。


見れば、例の白いローブを着た、見た目セシーリア女王の姿が歪み、ありえない魔力の翻弄の圧が俺達を襲っていた。

俺は思い知った。俺は亜人のため、平民のため、カールと対峙した。


だが、真の敵は彼ではなかった。


俺は思い知らされた。


こんなたかが人間同士の争いなど、無意味と思わせるものの存在を。


300年前の悪夢の再来。そう、人類の敵。世界の破壊者――――。


真の人類の敵――――それが魔族だと言うことを。


「グアアアアアアア……!!」


魔族は突然大声で叫んだ。それは人外の声だった。


何を言っているのかわからない。ただ、異形の声だという事はわかった。


魔族、それは人間や動物、いや、魔物とも違う異形の存在、魔族には生というものは感じられない。人も動物も、魔物でさえ、生きているという形をしている。だが、魔族だけは違う。魔族はその本性を曝出そうとしているのだ。


「なんだ、これ……?」


俺は疑問の声をあげてしまった。魔族はその姿を変化させ、理解できない物体となっていった。それは目玉…無数の目玉が俺達の前に現れた。


「アル、それがその魔族の本当の姿よ!」


魔族の本性、それは、本来、決してこの世に存在している筈もないもの。本来であれば、決してある筈のない異形のものなのだ。魔族以外の生きる者、例え魔物であったとして、生きているという事を理解できる形をしている。だが、魔族の本性には生き物として当たり前のそれがなかった。


「アル、気をつけて、嫌な予感がする。何なのあれ? っていうか、どうやって戦えばいいの?」


「クリス、俺もわからない。だけど――あれは、人類の敵だ。この世界から細胞の一片だって消し去ってやる」


「ア、アル様……怖いよ。お、お願い、無理はしないで……」


「リーゼ、何も心配するな……俺には聖剣がある。ライムの剣は聖剣だ」


「「「「「「「「聖剣!?」」」」」」」


「ああ、後で話す、俺はどうも300年前の勇者エルファシルの生まれ変わりらしい。そして、ライムの変化した剣が聖剣だ。300年前と同じな」


「じゃあ!」


「魔族相手でも?」


「勝てるのか?」


「ああ、当然だ。300年前も倒したんだからな!」


俺達のやり取りを聞いて、魔族の赤い目、無数にあるが中心の目の付近から声が聞こえた。


「さあ、人間よ。殺させてもらうぞ。魔族四天王の力……私の力を見るがいい!!」


「……」


決してこの世に存在してはいけないものがある。


本来であれば、決して存在していないもの。


それが魔族、俺達の根幹には恐怖というものが襲い掛かっていた。


それは、本来存在してはいけないモノへの恐怖だろう。


だが、それを心で殺して剣を構える。


「さあ、人間達よ。出来る限り苦痛を与えて殺してやろう。安心するがいい、女達は未だ使い道があるから、今は殺さない。使い終わったら、お前たちに殺させてやろう。肉体的な苦痛だけではつまらんからな。もちろんそれまで殺さんから安心しろ、もっとも早く殺してくれと懇願するだろうがな」


言っていることに反吐が出る。やはり、魔族と人が相容れることはありえないか。


こんな倫理観が壊れたヤツとは信頼関係を結ぶことなどできない。


300年前のカタをつけさせてもらうか。


「ライム、聖剣に!!」


「はい、ご主人様!」


ライムが剣化して、俺の手に収まる。何故か昔から使い慣れているような感触だ。


実際300年前に使っていたからか?


「パーティバフ30倍!」


「スキル30倍返し!!」


ダニエルがパーティバフ30倍のバフを、フィッシャーがスキル30倍返しを試そうと前へ出る。


「来いやー!!」


シュルシュルシュル! と唸りを上げてたくさんの目が集まり、一本の短剣のような触手になった。


それは、更にいくつにもに別れて、凄まじい勢いでフィッシャーを貫こうと迫っていた。


「ま、まさか……」


そして、複数の短剣がフィッシャーを貫いた。


「げふっ!?」


「フィッシャー!?」


俺は慌ててフィッシャーの元へ飛びこみ、フィッシャーを貫く短剣のような触手を切り裂いて後ろへ下がる。


「ほお、面白いスキルを持っているな。触手1本なら危なかったかもな」


「クリス、フィッシャーに治癒魔法を! みんな下がれ! 俺が先ず剣を交える!」


「わかった。アル」


「アル様頑張って」


「「承知」」


「へい、わかりやした」


俺は高速で移動し、魔族の目の一つを剣で粉砕していた。


簡単に粉砕できる目、だが、目は無数にある。


これがとてもダメージになっているとは思えん。


「ならば!」


魔族はたくさんの目を俺にに向かって襲い掛からせた来た。ギリギリギリ! 異音を奏でて襲い掛かってくる眼はかなりの数だったのだが、俺の剣の腕前によってたちまち数百がブツブツっと切り裂かれる。しかし、それは戦術を間違えていた。


「くっ!?」


「アル!?」


「アル様!」


切断された眼から毒々しい色の液体が飛び散り、その一部が俺の身体にかかった。すると、ジュワっという音と共に煙が上がり、俺の服が焼けただれてしまった。


「毒液か? 魔物にそういう類のものもいるけど、魔族の目玉おやじもまさにそうだったとはな!」


「アル! 気を付けて!」


「ああ、わかってるよ。クリス」


俺が斬りつけた目玉は数百にも及ぶのに、目玉たちは分裂、再生を繰り返し、再び先ほどとほぼ変わらない数になる。少し位の斬撃では、大したダメージを与えられないようだ。敵の数が圧倒的であり、しかも下手に反撃すればこちらの方が甚大なダメージを負うことになる。俺にはダメージを与える術がなく、回避に徹する。だが、いつまでもそんなことを続けていれば、俺の体力が底をついた時が敗北の時となる。


「それなら!!!!」


俺の叫びと共にゴウッと唸りを上げて、剣に激しい聖なる魔力が渦巻く。それは、魔族をもってしても目を見開き、恐怖するしかないものの筈だった。俺はありったけの光の魔素を集めると、聖剣にその力を注いだ。そして、俺の得意な剣の奥義。


「冥王破妖斬!!」


魔族は、その攻撃が自身にとって危険であることは理解していただろう。だが、理解していてもそれを避ける術はヤツにはなかった筈だ。俺の剣はヤツに逃げる場所等与えなかったのだ。周囲数百メートルがその影響範囲だ。そして、ヤツは少しでも防御する為だろう。目玉が集まり、再び魔族の姿へと変わる。そして、魔力を駆使して、魔法壁を作り、防御態勢を必死に整える。そんなヤツを俺の剣の奥義、冥王破妖斬の斬撃が聖なる光の魔素の奔流が飲み込む。


だが。


「人にしておくのは惜しいな――その程度で私を倒すことができると考えていたのであれば、甘すぎたな」


魔族の声の直後、金色の魔力が消えてった後には、一切ダメージを受けていない魔族の姿があった。いや、少し位はダメージ受けていると信じたいが、魔族はなお、そこに無傷であり続けていた。


「なんだと……」


そして、再び魔族が多数の目玉に姿を変えると、目玉が短剣の形に姿を変え、それは俺の身体を貫いた。

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