第63話魔族の四天王に勝てそうなのだが?
「ぐはっ……!?」
血を吐いたか? 俺の身体は、目玉が集まって形勢された短剣によって貫かれていた。幸い、急所は外れている。スピードを重視した為か、かなりな無理があったのか、それほどたくさんの短剣はこなかったので、致命傷とはならなかった。もちろん貫かれた場所が心臓や頭なら今頃俺の命はなかっただろう。ただ言える事は、間違いなく俺は重傷だ。
「くっ……!?」
苦痛で呻いてしまう。こんなに苦戦するのは初めてだ。最大出力の聖剣でも滅ぼす事ができないとは――
俺の身体は、短剣で貫かれた出血が止まらなず、動くたびにポタポタと地面に血の滴を垂らしていた。
まずい……! 回復しないと!
クリスが勇気を出して、俺の傍にかけよろうとする。
「駄目だ、クリス! 君まで危険になる!」
しかし、クリスは俺の傍に近づいてしまった。そして、それを見てみんな慌ててクリスを守ろうと。
しかし、俺の目は虚ろになっているし、身体はフラフラとし始めている。もう、限界だ。体力的にも、肉体的にも、精神的にも――何もかもが俺の限界を示していた。
「クリス様! あぶねー!」
精神力で目を何とか開けると、クリスと魔族の間ダニエルが入り、クリスをかばった。
ダニエルを魔族の短剣が襲う。
「ダ、ダニエル? お前?」
「へへ。アルべルト様の彼女さんでしょ? それに女の子が傷つくとこは、あっしゃ、見たくねえ」
「ば、馬鹿野郎……お前、そんなキャラじゃねえだろう?」
「――へ」
ダニエルは目を力なく崩れた。
くそ! 俺の力は聖剣をもってしても届かないのか?
「……旦那、これ、使ってくだせえ」
「馬鹿! お前、今それを外したら!」
ダニエルが俺に差し出したのは、身体強化と魔力強化の魔道具だった。
こんな重症を負っているときに、身体能力強化の魔道具を外したら。
「勝ってくだせえ。俺が見込んだ人だから」
「ああ、ああ、俺はお前の主人だ。お前が誇っていい主人になってやる」
ダニエルは喋らなくなった。最後の力を振り絞ってしまったんだろう。
身体強化の魔道具を外してしまったら、体力も1/5に下がってしまう。
当然、肉体の痛みも5倍に感じる。
俺はダニエルの魔道具を歯を食いしばって身に付けた。
途端、体力と魔力が向上してくるのが感じられる。
よし、行ける。歯を食いしばりながら、起き上がる。
「ク、クリス、ダニエルの治療を頼む」
「な、あなたの方が先よ! あなたの方が重症じゃない!」
「俺は自分で治す」
「えっ?」
クリスの治癒魔法は何度も見てきた。汎用光魔法は解析済だ。
当然、俺は光の治癒魔法を使える。
そして。
「神の霊が水の面を動さん『光の慈悲【ライト・ブレッシング】』!!」
覚醒汎用光魔法。
それは一瞬で、俺の身体を修復してくれた。
魔力の高まり。身体能力の高まり。
「そうか。最初からこうしていれば良かったんだな!」
俺もどこか魔道具を使うことに戸惑いがあった。
魔法学園でも、魔道具の使用は進められていなかった。
卑怯なモノと教えられた。冒険者達が当たり前のように使っているのを見ても、それは変わらなかった。
「……俺も王都の貴族のことを馬鹿にできないな」
俺は思わず自嘲気味に呟いた。
そう、俺は強力なハズレスキルを持つが故、魔道具を使おうとしなかった。
だが、それは間違いだった。
貴族が魔道具を忌避する理由は歴史だ。
闇堕ちした魔法使い。深淵覚醒してしまった魔法使いはいずれも魔道具の力に頼っていたとされる。
実際、カールも穢れた聖剣という魔道具の影響もあり、闇堕ちしたのかもしれない。
だが、俺は既に魔法だけは覚醒している。
故に魔道具を使っても、深淵覚醒を迎えることはない筈だ。
「…………な?」
俺は体力が戻り、視界が回復してくると、目を見張った。
レオンとクラウスがリーゼの汎用光付与魔法を受けて、魔族と対等に渡り合っている。
そして。
「――量子崩壊」
先日完成したばかりのリーゼの汎用魔法最強の魔法。
銘は『量子崩壊』
古代書の物理学という学問の書籍に書いてあった物理現象をリーゼは汎用魔法で再現した。
それは、量子崩壊という物理現象を魔法で再現したもの。
その爆発量、エネルギーは神級魔法の数十倍。そして、リーゼは魔力5倍とダニエルのパーティ6倍のバフを受けている。
30倍の威力の人類最強の魔法、それをリーゼは魔族に放っていた。
「き、貴様ら! 人間がぁ、人間なのか? 本当にぃ?」
そう、リ-ゼ達は本当に人なのだろうか? 魔力の奔流はとても人の物とは思えない。ましてや、魔族はリーゼに怯えているのだ。こんな事ってな。
俺は自身に光の付与魔法を施した。
これで、俺の聖剣の威力は30倍以上になった。
俺はクリスにダニエルを委ねると、魔族に襲い掛かった。
「ぐわっ……!?」
音の速度を越え、空気を切り裂き、まるで雷鳴のような音を奏でて俺の剣が魔族に打ち込まれた。慌てて無数の目を防御の魔族の姿に変えて防ごうとするが、俺の速度に敵う筈もない。
ズカン!! と凄まじい音と共に、魔族の片手が切り裂かれて後に吹っ飛んだ。それは、人に斬られて生じた現象とは思えないようなものだった。魔族の腕をバラバラにしたその剣戟は魔族を突き抜け、後方の山にまるで大砲の弾丸が着弾したかの様な大きな破口を作ったのだ。
そして俺は陵辱を始めた。俺は魔族の顔面に拳をめり込ませた。そして、人のような形の鼻をゴキゴキとへし折り、鋭い牙の様な歯を欠けさせて――。
「ひっ……!? ふっ、ふぐっ……!」
「……これはフィッシャーの分」
俺は更に魔族を殴った。折れた歯や血しぶきを撒き散らしながら――
魔族のおぼろげだが整っていた顔は、見るも無残な顔になっていた。鼻は潰れ、歯は折れ、血まみれだ。
「や、止めて、止めてください」
魔族が涙を流して地面をのた打ち回るその姿は、人間を翻弄し上位の存在であることに何の疑問も持っていなかったモノとは思えないほどだ。
「……これはダニエルの分」
ドカン!! と凄まじい音と共に、魔族の身体は後に吹っ飛んだ。それは、人間に殴られて生じる現象とは思えないようなもので、それこそ女神様の天罰、天変地異級の隕石が着弾したかの様だった。
折れた骨や血しぶきを撒き散らしながら、魔族は再び地面に叩きつけられた。
「よ、よくも魔族であるこの私を殴り飛ばすとは……人間ごときがぁ! 人間風情がぁ……!!」
魔族は涙や血で顔を濡らし、鬼の様な形相で立ち上がる。だが、先ほどまでの余裕のある力に満ちた様な立ち方ではなく、プルプルと膝が笑っているのが見てとれた。まるで震えている小鹿のような頼りなさだ。
「人間風情がぁ! こ、殺してやる……! 生きてきたことを後悔させてやる! お前をズタズタに引き裂いてから、そこの女たちは何度も何度も凌辱してやる!!」
俺は魔族を見据えると、
「クリスやリーゼをどうするんだって?」
「ひっ、ひいいいいっ!?」
俺の身体全体が跳ねあがる。昇る龍のごとく、それは魔族の身体をその拳が腹部にめり込み、魔族の身体を遥か高く舞い上げていた。そして、ドン! と凄まじい音がした。魔族の身体はおかしな方向にねじ曲がり、正常な状態である筈がなかった。そして、その身体はいくつかの部分へと分割されて吹き飛んでいった。
「あ……あ、ぱ……」
魔族が奇妙な声で蠢く。そして、そこへ俺は近づき、聖剣を振り下ろした。俺が剣を振り下ろした地面は、真っ二つに割れ、地震の後にできた穴の様だった。
魔族の首が空に舞い、くるくると回った。魔族の最期だ。いや、既にヤツの命は風前の灯火だった。ただ、物理的に良くわかる形に俺がしただけだ。
こうして、俺は魔族に耐えがたい苦痛を与えて滅ぼした。
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