ハズレスキルがぶっ壊れなんだが? ~才能がないと実家を追放された少年、実は世界最強の魔法使いでした。俺の才能に気付いて今さら戻って来いと言われてもな~
第49話ハズレスキル膝カックンは結構役にたつのだが?
第49話ハズレスキル膝カックンは結構役にたつのだが?
「それで、私がはっきり言って何だと言うのだ? そして貴様。名は? 爵位は?」
王族主催のパーティである。彼がいるのは不思議でも何でもない。しかし、パーティの始まりの際のアンネ王女殿下の祝辞で、第一王子カールは残念ながら不在。急遽魔物討伐に向かったと聞いた。だからこの愚かな貴族も安心して、第一王子への暴言など吐いたのだろう。
もっとも、不在でも一歩間違えれば不敬罪と取られかねない。
どんな事情があるのか、突然パーティーの会場に姿を現した第一王子カール。
彼は最初クリスを睨んで歩いていたが、声を発すると、例の伯爵に視線を変えた。
「はっ、はい! アタナス・フーシェと申します! 伯爵の地位を賜っております」
「そうか。で、貴様は今、何と言ったのだ?」
まずい。この王子、確実にこの伯爵を害するつもりだ。横柄に名を尋ねたが、その顔は冷静に見えるが、目が恐ろしく冷たい。心中、激怒しており、この伯爵への処罰を検討していることは間違いないだろう。
「もう一度聞く、お前は私のことを何と言ったのだ?」
「ひぃッ」
「まさかとは思うが、私の魔法がこの治癒しか脳のない女に負けると? 私が劣っていると? そう言ったのか?」
「め、めめめめ滅相もございません!」
顔色は悪くなり、冷や汗をだらだらと流し、首を激しくふり、狼狽する侯爵。
「ほう? この後に及んでシラを切るか。わかったそれはまあ良い。では、何故必死にこの女へ縁談など申し入れるのだ? この私が無価値と断罪した女だぞ? それを必死に妻として迎えようとする理由はなんだ? 私が無価値と判断した女に価値があると言うのか? 私が間違いを犯したとでも言うのか?」
「い、いえいえ、クリスティーナ様の美貌! 私はそこにまいってしまったのです。それだけです。決して、その強力な魔法に興味など!」
「クリスの魔法が強力だと?」
「い、いえ、私ごときからすれば、クリスティーナ様の治癒魔法も十分に強力な魔法。どうか、どうかご容赦をッ!!」
「まったく小賢しい。この女は価値があるどころか、害のある存在。 まあ、私と違いお前ら凡人には大局的に見る事などできぬのだろう。それを正しい道へ導いてやるのが私の役目か」
あくまでクリスは価値がない、それどころか害があるというカール。あの化け物を倒した功績をどう解釈すればそうなるのか?
この伯爵が言っていた、カールの婚約破棄が間違いだったと言うことは明白だ。ただそれをはっきり指摘することがはばかれる身分であるというだけである。
さすがに許すのだろう、これを咎めるなど器が小さいにもほどがある。
許しを期待して伯爵が恐縮していた顔を上げる。
「で、では……!」
「しかし!」
てっきり許しの言葉があると思った直後、カールの放った言葉は冷たく冷酷な韻を含んでいた。
「お前は過ちを犯した。目先のことに惑わされ、私の下した婚約破棄を間違いだったと言ったな!」
「ご、誤解でございます! 殿下が間違った判断をなさるはずなどございません!」
「いや言おうとした。言ったのだ。私が間違いを犯したと! 完璧な私が間違いを犯したと! お前は絶えず私の行動を疑い、常日頃から猜疑心に抱くようになっていたな!」
既に被害妄想である。この貴族は確かにカールの婚約破棄の決断ははっきり言って……と言ったが、そこから先は言ってない。カール自身がそう言っている。しかし、直後に言ったと断言し、更に話を身勝手に解釈する。
この愚かな伯爵は別にカールの行動を普段から疑いなどしてはいないだろう。それなら、そもそも発言に気を付けるだろう。単にバカなのだ、この伯爵は。
「で、殿下! 誤解です、誤解なのです、どうかお慈悲を──」
「追って沙汰を下す。連れて行──」
王子は最後まで言えなかった。何故なら、俺が終末の化け物を倒した後に手に入れたスキルの中の『膝カックン』を使って、王子の膝をカックンしたからである。
王子は突然姿勢を崩し、倒れそうになる。
「殿下! 大丈夫ですか?」
「な、何が? 一体?」
俺は白々しくカールのそばにより、気遣うフリをした。
犯人、俺なんだが。
「殿下、お疲れなのではないですか? 魔物討伐を早々に済ませて、わざわざ俺達のために来て頂いたと思われます。臣下として、感動致しました」
「お、お前は、あの時の?」
「はっ! 終末の化け物に止めを刺すことが出来ました。仲間の努力あってのことですが、殿下が見守って頂けたおかげです! いざとなったら、殿下に助けて頂けると解っていたので、思い切って戦うことが出来ました。全ては殿下の掌の上でのことと解っておりました」
「ほう、貴様、中々わかっておるではないか」
俺は心にもないことを連発したが、これも、この哀れな伯爵とクリスのためと割り切った。
「は! 殿下の魔法の力に比べたら。クリスの魔法など、タイタロス山を粉砕する位の力しかなく。殿下なら、それはそれはきっと、山脈ごと消し去ってしまわれるのでしょう」
「ク、クリスがタイタロス山を?」
「は、殿下は見ていらっしゃいました。クリスが迂闊にもせっかくの渾身の魔法を外してしまい、タイタロス山に命中させてしまったのです。殿下の言われる通り、まったくの未熟者」
俺は意地悪く、殿下があそこにいたことを強くみなに聞こえるように言った。
俺は知っているのだ。何故、この王子があの広場の貴賓席から一歩も動けなかったのか? そして、おそそうをしてしまったことも。
王子はかなり動揺した筈だ。広場でのことはこれ以上触れられたくないだろう。
「見上げたヤツだ。そこまでわかっておったか。貴様、名前は?」
「アルベルト・メクレンブルグ。今日はお招きありがとうございます」
俺は腰を折り曲げ貴族の礼で王子へ敬意を表わした。もちろん、心にもない。
「そうか、お前があの賢者の息子だったか……」
さすがにハズレスキルとは言わなかったが、苦虫を潰したような顔には言外に、そう思っていると見てとれる。
「よかろう。貴様に免じてその愚かな伯爵の罪は見逃してやろう。だが、以後気をつけろ」
気をつけろといい、王子が視線を向けたのは俺の方にだった。
この王子が俺に悪意を抱いたのは間違いないだろう。
しかし、さすがに使えないと思っていたハズレスキル膝カックンは結構役にたつのだが?
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