第58話【覚醒】汎用魔法で勝つのだが

飛んで来たカールの深淵魔法を光の汎用魔法で迎撃するが。


「――ッ!?」


予め、かなりの威力とみて、手持ちの光球の全てを迎撃に回したが。


「――クッ!!」


俺の光の汎用魔法は全て叩き落された。


「ふ……ふは、ふははははははは!!」


高笑いするカール。


普通限界突破とか主人公側に起こることだろ?


私の戦闘力は5万です!


とか、言って。


限界突破した主人公にぶっちめられる。


とか。


それが普通だろ?


なのに、ちょっと追い詰められたって都合よく覚醒する悪者って何なの?


逆の立場になると、追い込んでからの、新たな力が手に入るとか、やられる側からすればたまったもんじゃない。


俺がやられているんだが?


俺、どう考えても主人公サイドなんだが。


とは言っても、俺には勝ち筋が見えていた。


他でもない。カールの深淵魔法で。


スキル事態の深淵覚醒化は今の俺の力じゃ無理だ。


だが、魔法だけなら?


俺には魔法解析のスキルがある。


見せてもらった、深淵魔法の魔法陣。


その90%はただの神級魔法と同じということ。


そして汎用魔法も神級魔法も90%同じ。ただ、汎用魔法の方が単純なだけ。


「死ね、死ね、殺さないと、殺さないと、気が紛れん! だから、殺そう……」


なんだ?


カールの様子がおかしい。


「敵、敵だ。殺さないと、殺さないと……」


そうか、深淵覚醒が禁忌とされる所以。


深淵覚醒した魔法使いは全て討伐されている。


深淵覚醒した者の研究記録は公開されていない。


真の覚醒を果たした者の記録は公開されているのに。


つまり、深淵覚醒した者は自我がおかしくなるのだろう。


カールは既に人ではなくなっていた。


「殺さないと、殺さなければ。殺せば殺すころ殺したい、殺せころころころころころ……」


俺は光の上級魔法でこの事態を打破するつもりだった。


汎用魔法の数倍の威力の上級魔法、それに比べて神級と同様のコスパの悪い魔力消費の詠唱時間の長い深淵魔法。


勝つのは上級魔法。手数と魔力消費量で、カールは魔力切れで決着。


だが、俺は持久戦でカールに勝つつもりはなくなった。


この男には根本的なことをわからせる必要がある。


故に。


その傲慢なプライドの根本を基底からへし折らなければならない。


努力し、進化する者と才能に胡坐をかいた者の差を教えてやらなければならない。


理性が残っているうちに。 人であるうちに。早く。


そんな中で、俺が唱えたのは。


「何だと――!?」


「う、そ……」


カールも味方のクリスまでが驚いた。


何故なら、俺が唱えたのは。


「光は闇の中で輝け 終わりの時は来たれり――


覚醒汎用闇魔法『闇の呪詛【ダーク・デサピア】』


汎用闇魔法は魔法解析で解析済だ。


そして、カールの深淵魔法も。


深淵魔法の威力は覚醒魔法の半分にも満たないと言われている。


その理由が分かった。


深淵魔法は魔力抵抗の軽減化、魔力増幅器の効率化、そして神からの力を受け取る入力段のインピーダンスの低下。


これをやっている。だが、一つ明らかに誤っている点がある。


それは神からの力を得る魔法陣に刻まれるルーン文字。


そこには闇なら当然、闇の神ハデスの名が刻まれるべき。


だが。


カールの魔法陣には破壊神ヘルの名が刻まれていた。


深淵覚醒魔法と真の覚醒魔法の違い。


それはおそらく、戴く神を間違えているから。


すなわち、深淵魔法の要領で、汎用魔法の効率化を行い、神の名を正しいハデスとすれば。


汎用魔法は深淵魔法を超えるハズ。すなわち覚醒汎用魔法。


俺の覚醒魔法が完成する。


「『闇の呪詛【ダーク・デサピア】!!!』」


慌ててカールが深淵魔法を発動する。


「『流刑の神々【セブンス・ペイン】!!』」


カールの魔法とちょうど中間点で激突する。


俺の魔法とカールの魔法は拮抗していた。


そして、カールは自身が不利なことを悟ったようだ。


途端に焦ったのか、魔法を連発し、時には例の聖剣で切りつけてきた。


「往生際が悪いぞ! いい加減諦めろ! 私に勝つことなどありえないのだ!」


「ふざけるな! 生まれながらに何もかも決められる? そんなことは認めない! 俺は証明してやる。人は努力で差を埋めることができる! 汎用魔法で、深淵魔法を超える!!」


「クッ!?」


何度かカールと魔法を撃ち会う。


そして、確実に差が互角だったはずの攻防が、俺に有利に傾いて来た。


ドンドン俺の魔法は効率的なっている。


魔法を詠唱する度に魔力抵抗の軽減化、魔力増幅器の効率化、そして神からの力を受け取る入力段のインピーダンスの低下。


魔法の問題点を把握し、改善案を考え実践する。新たな技術と発想を取り入れて、戦いの中で進化する。


冒険者達、凡人には当たり前の行動。


応用と進化。


生まれた時から上限が決まっている才能魔法。強い才能魔法を持つ者がそこに満足してしまうが上、ありえないモノこそが人の本質。才能魔法が人から人らしさを奪った。


そう、無限の可能性を。


そして、最後の闇の汎用魔法を唱える。


「……やめろ……」


カールはわからせられたようだ。


俺が汎用魔法でカールの深淵魔法を超えた、ということを。


「やめろ、無礼者! 身の程を知れ! 最強の魔法は私のモノだ! お前如きが使っていいものじゃ――」


「残念だが、人は努力によって、どんな魔法でも唱えることができるんだよ!!」


「やめろッ! 発動するな! 最強の魔法を――私から奪うな――――――ぁッ!!」


カールの懇願を含んだ絶叫。当然……無視だ。

俺はあっさり簡単な1節の魔法を唱えた。


「光は闇の中で輝け 終わりの時は来たれり『闇の呪詛【ダーク・デサピア】!!!』」

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