第26話 Singer《歌手》

 あの事件以降、私と香織かおりちゃんはLine友達となった。


 元超人気アイドルのいばら蒼衣あおいがLine友達なんて、今でも信じられない。


 香織かおりちゃんから毎日、Lineスタンプやメッセージや写真が送られてくる。


 生き生きとした女子高生生活を送っている様子が、Lineから伝わって来る。


 二度とやって来ない女子高生を、謳歌おうかして欲しいと思う。


 アイドルを辞めた後も、ボイストレーニングや歌のレッスンなどは欠かしていないらしい。


 大学進学へ向けて、受験勉強にもはげんでいるそうだ。




いばら蒼衣あおい電撃でんげき引退いんたい」から、約一年半後。


 香織かおりちゃんは、志望大学に無事合格。


 大学の門の前で撮ったらしい記念写真が、Lineに送られてきた。


 友達と一緒に自撮りした写真には、嬉しそうな笑顔を浮かべている香織かおりちゃんが映っていた。


 可愛いスタンプの後、メッセージが続いた。


『志望校、合格したよ! あのね、あたし、大学生になったら、芸能界に復帰するつもり。もちろん、アイドルじゃなくて歌手としてね』


「合格おめでとう! ついに、夢を叶えるんだね。私はこれからもずっと、香織かおりちゃんの活躍を応援し続けるから頑張ってねっ!」


『ありがとう、穂香ほのかちゃん。あたし、絶対芸能界に返り咲いて見せるから! 応援よろしくねっ!』


 その後、香織かおりちゃんは「Kaoriカオリ」名義で歌手デビュー。


 いばら蒼衣あおいのファン達は、見た目が全く違っていても声で同一人物だとすぐ気付いた。


 声だけで気付くって、ガチファンってスゴい。


 アイドルの頃と比べたら人気は落ちたものの、香織かおりちゃんは変わらぬ歌唱力で人気を確立かくりつ


 作られた女王様アイドルではない、自然体の香織ちゃんに好感度こうかんどはむしろ上がったと言われている。


 今後も、みんなから愛される歌手として活躍かつやくしていくことだろう。




 ある日、鈴木准教授じゅんきょうじゅがタロちゃんの様子を見に、しょへやって来た。


『やぁ、田中君。久し振り。君の活躍は、いつも興味深く観察させているよ』


「どうも、ご無沙汰ぶさたしております」


 タロちゃんに不具合ふぐあいがあったとかじゃなく、自分の渾身こんしん傑作けっさくであるロボットを定期的に見たくなるらしい。


 この機に、ずっと聞こうと思って聞きそびれていたことを聞いてみることにした。


 私は黒いメモリーカードを取り出して、鈴木准教授じゅんきょうじゅに問う。


「ずっと気になっていたのですが、この黒のメモリーカードには何のデータが入っているんですか?」


『ああ、このメモリーカードは……、はて? なんだったかな?」


 黒いメモリーカードを見ると、鈴木准教授じゅんきょうじゅあごに手を当てて、不思議そうな顔をした。


「『なんだったかな?』じゃないですよ。このメモリーカードも、鈴木准教授じゅんきょうじゅが作られた物なんですよね?」


『もちろん、これは私が作ったものだ。確か……、何かの試作品だったはずなんだが。それがなんだったか、思い出せん』


「えぇ~……?」


『もし、“加藤太郎君”にして、データが破損はそんしたり、誤作動ごさどうを起こしたりしてもらっては困る。仕方ない、一旦いったんこちらで預かろう』


「あ、はい。お願いします」


 そう言って、鈴木准教授じゅんきょうじゅが手のひらを差し出してきたので、黒いメモリーカードを渡した。


 その後、鈴木准教授からは、何の連絡もない。


 いったい、あのメモリーカードには何が入っていたのか。


 結局、黒いメモリーカードは用途不明ようとふめいのままだ。

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相棒のロボット刑事にフォールインラブしたけど、相手は無機物だから永遠にアウトオブ眼中だよねって話。 橋元 宏平 @Kouhei-K

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