第17話 Reason《理由》
二階にある
ここなら玄関もしっかり見張れるし、
「タロちゃん、ちょっと失礼」
タロちゃんに、張り込み用の黄色いメモリーカードに
すると、タロちゃんの顔が一変して引き締まり、
私はヘッドホンを着けた耳に、意識を集中させる。
「タロちゃんは、
『女子高生の部屋を盗聴するなんて、最低ですね』
こちらをチラリとも見ないで、タロちゃんが冷たい口調で言った。
「違うって! これは、鈴木准教授がやれって言ったんだよっ? 張り込みの時に、絶対役立つってっ!」
『仮にも刑事が、盗聴なんて恥ずかしいと思わないんですか?』
「違うって言ってるでしょっ! それに『仮にも』って何っ? 仮にもってっ! 私は、
いくら訂正して怒鳴り付けても、
『そんなんだから、アンタは、いつまでも平刑事なんですよ』
「ホンット、可愛くないな! 黄色いタロちゃんはっ!」
『いい加減、黙って下さいよ』
狭い車内で指を突きつけながら、私は大声を張り上げた。
すると
生きているワケじゃないのに、その手には体温がある。
「これはロボットなんだ」と、頭では分かっているのに。
あまりにも人間らしいから無意識に「人間だ」と、
それにしても、
相変わらずの
張り込みだから、静かにしなきゃいけないことくらい、私だって分かってるけど。
他のメモリーカードとギャップが激しすぎて、どうにも調子が狂う。
そもそも、なんで性格が変わる設定にした?
例によって、鈴木
今回、また新たに新しいメモリーカードが二枚増えた。
使ってみるまで何が起きるか分からない、紫のメモリーカード。
オレンジのメモリーカードには、ダンディが入っていた。
紫は、どんな機能と性格が組み込まれているんだろう?
使いどころが、全く分からない。
とにかく、使ってみるまでのお楽しみ。
今は
っていうか、いつまで、私の口
そろそろ、手を離して欲しい。
どうにかして、
しかしその顔は、
『これ以上、ムダ口を叩かないって約束出来るなら、離してあげても良いですよ』
黄太郎に口を
そうしてようやく、
「ぷはっ! ふぃ~っ。ありがと、タロちゃん」
上手く呼吸が出来なかったので、私は大きく息を吐き出した。
すると、また再び口を
「――むぐっ?」
『全く、アンタは黙っていることが出来ないんですか? いい加減にして下さい』
口を
しばらくしてから、ようやく手を離してもらえた。
一晩中、
もしかすると容疑者は、
スーパーアイドルの
熱狂的なファンやストーカーだったら、同一人物だと気付くかもしれない。
気付いている上で、あえて事務所に脅迫状やプレゼントを贈っているとしたら?
「ねぇ、タロちゃん……あ」
助手席に座る
ついさっき、電池切れになって落ちちゃったんだ。
それにしても、本当に
誘われるように、タロちゃんの顔に手を伸ばす。
職人が
肌のシリコンの手触りが気持ちが良くて、ずっと触っていられる。
電源が落ちているから、人肌よりちょっと冷たい。
そのまま指を滑らせて、形の良い唇に触れる。
こんなこと、人間相手には出来ない。
唇だけ、やけに柔らかい。
反対側の手で自分の唇を触り比べてみるが、手触りに違いはない。
ふいに、「キスしてみたい」という欲求が湧き上がる。
電源が落ちている今だけは、ちょっとくらいは良いよね?
タロちゃんの顎に手を
「おはようっ!」
あとわずかというところで、上から
飛び上がるほどビックリして、車の天井に頭を強くぶつけてしまった。
「――ったぁいっ!」
痛む頭を押さえながら車から飛び出して、
「おはようございます、
「ちょっと! 何、その顔っ! ちゃんと見張りしてたのっ?」
部屋着姿の
「その顔」って、私は今どんな顔をしているのだろう?
耳まで熱いってことは、真っ赤かもしれない。
「ちゃ、ちゃんと一晩中、見張りしていましたっ!」
「ふんっ、どうだかっ!」
私も愛車に戻って、バックミラーで自分の顔を確認してみる。
「うわ……」
暑くもないのに、顔が真っ赤っかだ。
若い男女が
実際、タロちゃんにキスしようとしていたし。
ダメダメ、今は仕事中なんだから、気を引き締めよう。
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