第20話 Bomber《爆弾魔》

 今日のいばらさんのスケジュールは、歌番組とバラエティ番組とラジオ番組。 


 メイクさんと衣装さんの力によって、いばらさんはうるわしのセクシー女王様へと変貌へんぼうげた。


 本当に同一人物か? と、疑いたくなる大変身。


 女王様に変身したいばらさんは、別人のような堂々とした立ち振る舞いを見せる。


 歌番組では、妖艶ようえんに舞い踊り、高らかに歌い上げる姿は、圧倒あっとうした。


 バラエティ番組では、女王様に芸人達がヘコヘコびへつらうのが鉄板ネタらしかった。


 ソロラジオでは、視聴者のお便りに女王様が上から目線で応える設定になっていた。


 どれも人気番組らしく、人気の高さが分かる。


 私と橙太郎だいだいたろうはスタジオの隅っこで、いばらさんの華麗かれいなる活躍かつやくを見届けた。


 特に何事も起こらず、全ての収録が無事終了。


 純粋に、いばらさんの活躍を楽しんでしまった。


 こんなに楽しいなら、ずっと警護けいごしていたいと思うほど充実した一日だった。



 仕事が終わると、いばらさんとマネージャーさんと共に芸能事務所へ戻った。


 事務所には、山のようにファンレターやプレゼントが毎日届くそうだ。


「刑事部鑑識課かんしきか」の鑑識官かんしきかんが、ひとつひとつ中身をあらためている。


「ありました!」


 プレゼントを調べていた鑑識官かんしきかんのひとりが、声を上げた。


 橙太郎だいだいたろうがすぐに、いばらさんをかばうように立ちはだかる。


 しかし、 箱の中には未完成の爆発物もどきがひとつ入っていただけだった。


 鑑識官かんしきかんに話を聞くと、立て続けに爆発物らしきものが見つかっているらしい。


 何故、容疑者ようぎしゃは不完全な爆発物を送り続けているのか。


 容疑者ようぎしゃは、爆発物作りが下手なのか。


 それとも、危害を与える気は一切いっさいなく、脅迫きょうはくしたいだけなのか。


 愉快犯ゆかいはん(世間を騒がせて、その反響を楽しむ犯罪)なのか。


 それとも、何か他に意図いとがあるのか。


 プレゼントには、メッセージのようなものは何もない。


 鑑識官かんしきかん達は、「まるで子供のイタズラだ」と顔をしかめている。


 容疑者ようぎしゃは何が目的で、未完成の爆発物を送り続けているのか。


 可能性は、いくらでも考えられる。


 一番問題なのは、爆発物がだんだんと本格化してきていることだ。


 爆発物が完成したら、被害はどれほどのものになるのだろう。


 あと少しで、爆発物は完成するかもしれない。


 それとも、完成させる気はないのか。


 何を持って、「危険」と判断するべきか。


 考えすぎて、訳分かんなくなってきた。


 ふいに、鑑識官かんしきかんの言葉を思い出す。


 ――まるで子供のイタズラだ。


 もしかしたら、容疑者は子供なのかもしれない。


 現在は情報化社会で、爆発物の知識は簡単に手に入れられるようになった。


 中学生程度の化学知識と材料さえあれば、誰でも爆発物は製造可能と言われている。


 材料の化学物質は、薬局やホームセンター、インターネットなどで簡単に買える。


 それを見た子供が、見よう見まねで自作したのかもしれない。


 いばら蒼衣あおい標的ターゲットにしたのは、何故か?


 愉快犯ゆかいはんならば、人気アイドルをねらった方が話題性わだいせいが高い。


 事務所は、インターネットで調べればすぐ分かる。


 だから事務所に、自作の爆発物を送り付けたんじゃないだろうか。


 そう考えれば、辻褄つじつま(合うべきところが合う)は合う気がする。


 辻褄つじつまは合っても、根本的なことが間違っていたら意味ないけど。


 犯行動機はんこうどうきはどうあれ、脅迫きょうはく行為は、刑法第222条に定められている「脅迫罪きょうはくざい」に該当がいとうする。


脅迫罪きょうはくざい」とは、相手の生命・身体・自由・名誉・財産に対し、害を加えることを告知した時に成立する可能性のある犯罪。


 人を脅迫きょうはくした者は、2年以下の懲役ちょうえき、または30万円以下の罰金ばっきんしょする。


 爆発物については、「爆発物取締罰則とりしまりばっそく」という法律がある。


 本罰則が規定きていする犯罪のうち、第一条から第五条、および第九条に規定きていする類型るいけい――


 ・爆発物使用罪


 ・爆発物使用未遂みすい


 ・爆発物使用予備罪


 ・爆発物使用脅迫きょうはく


 ・爆発物教唆きょうさ(ある事を起こすよう教え、そそのかすこと)罪


 ・爆発物煽動せんどう(気持ちをあおって、行動を起こすように仕向ける)罪


 ・爆発物共謀きょうぼう(共同して、悪事をたくらむ)罪


 ・爆発物使用幇助ほうじょ(手助けする)罪


 ・爆発物犯罪者蔵匿ぞうとく(犯罪者を隠す)罪


 ・爆発物隠避いんぴ(犯人の発見や逮捕を妨げる行為)罪


 ――は、「公共危険罪」として位置づけられる。


 基本となる「犯罪類型」である第一条「爆発物使用罪」は死刑、または無期懲役むきちょうえき


 しくは7年以上の懲役ちょうえき、または禁錮きんこと、いちじるしく重い。


 禁固きんことは、独房どくぼうの中で自由に動くことは許されず、起床から就寝まで監視かんしされ、不用意ふよういに動くと刑務官けいむかんから厳しく叱責しっせきされる長期刑ちょうきけい


 未遂みすいだった場合は、第二条「爆発物使用未遂みすい罪」により無期懲役むきちょうえきしくは5年以上の懲役ちょうえき、または禁錮きんこしょされる。


 また、製造・輸入・所持しょじ・注文をした者や、第一条「爆発物使用罪」の罪を犯そうとして脅迫きょうはく教唆きょうさ扇動せんどう共謀きょうぼうにとどまった者は3年以上10年以下の懲役ちょうえき、または禁錮きんこしょされる。


 それだけ、爆発物を取りあつかった犯罪は罪が重いということだ。

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