出勤日8
8−1 阪神間協定行使
始末屋『よる』の社用車である年期の入ったフォルクスワーゲンゴルフに若葉マークを付けて43号線に向けて運転しているのは紅一点、崎田ゆかり。「免許取り立ての時はできる限り運転した方がいい」と赤松に言われ率先して運転を行っている。少し前のめりなのはまだ運転に緊張しているからなのか、これからの仕事へのやる気が空回りしているのか、それともそれら二つが合わさった物なのか、恐らくそのどちらでもなく三人での仕事にテンションを上げてるからだろうと赤松は予想。
赤松は後部座席で襲撃に使う武器の準備をはじめていた。ゆかりにはゴム弾を用いたショットガン。軟質のゴムにしているが、やたらに撃つので襲撃対象の失明程度は免れないかと自分はできるかぎりゆかりが暴れる前にテイザー銃を使って制圧しようと思っていた。宋にはロングマガジンのマシンピストル、そしてフレアガンを持たせる事にしよう。宋ならうまくやってくれるだろう。
絵画を強奪し始末すると言うがいまいち意味が分からない。十分な支払いがあるので文句を言う筋合いは自分にはない。しかし、改めて思う。この仕事は自分には合ってない。
43号線の同じ景色を見ながら、そろそろ西宮に入るなとその前に一服しておくかとポケットに手を突っ込むがタバコの箱がない。それに気が付いた宋が赤松の吸うロングピースを手渡す。宋は普段タバコを吸わないが、赤松の手持ちがない時にこうして気を遣わせる。
ごめんね。ありがとう。と赤松が千円札を差し出すので、宋はそれを受け取り財布に入れる。最初は受取を拒否していたが、代わりに給料に色がついていたので、受け取る事にしていた。
窓を開けて一服をする間に現場には到着した。しかし、異様な状況だと赤松も宋も、ゆかりですら気づいた。大谷記念美術館を中心に、明らかにまともじゃない連中が周囲に張っているじゃないか、赤松が口を開き“ひさしぶり、おたくもしごと?”と何度か仕事でぶつかったり、協力した殺し屋六麓HSの顔なじみに声をかけてみる。一瞬赤松をみて無視された事から仕事中なんだろう。これは厄介だ。六麓HSの連中はどれも厄介で仕事が骨になる。
だがしかし“おたくらの仲間?”と別の連中がいる事も指摘してみると、それには首を振って否定した。さて、これはどういう状況だろうか?
赤松はゆかりに車を少し臨港線寄りに停車させるように指示をする。敵の敵は味方。この場合、六麓HSが味方か、それとももう一組が味方か? あるいは両方敵か? 両方味方……だなんて平和な世界線はないだろうと、始末屋『よる』もこの均衡状態の原因の一つになろうと監視をする事にした。
「ボス、一石投じましょうよ!」
ゆかりがそういうが、それに赤松は笑って首を横に振る。こちらは三人しかいない。六麓HSはおそらく十人前後、第三勢力は5,6人。圧倒的に赤松達が不利だ。
生まれ持った鉄砲玉である彼女の気質は評価しているが、格上相手にも挑もうとする無謀さはどうにか是正できない物かと二本目のタバコを咥えながら考えてやめた。
赤松はとりあえず二人に武器を渡す。よほど運が悪くない限り大けがしても死にはしないだろうと装備させる。万が一殺してしまってもすぐとなりが芦屋だ。そこで息絶えたことにすればいい。それよりも厄介な事は赤松が本調子ではまだないという事。この状況で六麓HSが敵となり、白亜が襲ってきたら全滅は免れない。ここが西宮であるとかは考えない方がいいだろう。
ここは西宮市で、数キロ隣は芦屋市。いずれにしてもアウェイ。この場合自分達が先に動くのは一番の悪手だ。赤松は襲撃準備だけ二人に伝えて、六麓HSと第三勢力に関して動きを見る事を二人に指示し、当然ながらそれらからも新しい勢力、あるいはどちらかの仲間かもしれないと思われているか? 動きの読みあいが開始された。
こうなると赤松と宋は問題ないが、ゆかりが我慢できなくなってくる。
まず、貧乏ゆすりから始まる。それを宋に指摘されてスマホでインスタやらSNSを見て時間を潰しているが、それにも飽き始める。タバコを吸わないゆかりは、ラムネのような清涼菓子を食べて気を紛らす。
ゆかりの我慢の限界という時、動きがあった。
六麓HSではなく、もう一つの第三勢力側、それらが大層な銃をかかえ、目出し帽、動きも統率されており、恐らくはその道のプロだろう。それらが車から飛び出してくるのに合わせて、ゆっくりと六麓HSが動きをはじめる。
なんどもゆかりが赤松を見る。「……連中が小競り合いをはじめたら、我々はその隙に絵を強奪する。準備はいいな」
頷く宋、目を輝かせるゆかり。
恐らくプロの軍人か民間軍事会社らしい連中と六麓HSが銃による応酬をはじめた。赤松はすぐに気づいた。六麓HSはゴム弾を使っているのに、第三勢力は実弾を使っている事。こいつらはこの地域のルールを知らない無法者である事が確定した。
阪神間協定その①、ルールーを無視する者がいれば親の仇であっても同調せよ。「宋くん、ゆかり、六麓HSは今時点ではまだ味方だ! 連中の弾はこっちには向かない!」
それを聞いてゆかりはショットガンの頭にブレードをつけると駆けた。
六麓HSの援護射撃の中で隠れている一人の男に至近距離でゴム弾を発射。「アバラいただきだぁ! ゴム弾でも痛いよぉ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます