出勤日11
11−1 仕事終わりはハイカラで
「とても気に入らない」
始末屋『よる』の赤松は、関西ろうさい病院の待合室で自動販売機のお茶を飲みながらゆかりの愚痴を聞いて無視していた。
「店長は悔しくないんですかぁ?」
店を爆破された。従業員の宋は大けがを負った。だが四肢を失う事はなかった。
「くっそ! くっそ! ブチ殺しにいきましょーよ! ウチ等始末屋じゃないですかー」
始末屋は依頼されて依頼主の希望の相手や物を始末する事で、気に入らないから殺しに行くのはただの犯罪者だ。「全治一カ月らしい。宋君」
「大けがじゃないですか、宋先輩」串カツ屋も爆破。
店の保険であれはなんとかなるのか「まぁ、仕事は終わりだ」
「宮水ASSのボスとブリジットは?」
宋のおかげで他は目立つ怪我をする事はなかった。突入してきた連中とのドンパチはあったが、宮水ASSの二人が連中とやりあってくれた事で宋を回収し病院へ。
「業務中の油に引火した事故――ね」
「やっぱきにいらねー!」
さっきからムスーとした顔でお茶を飲むゆかり「お前この仕事合ってないね」
「はぁ? なんすか店長。自分この仕事天職ですよー、ムカつく奴ぶち殺せるし」
いや、そうでもないだろう。
ムカつく奴からの始末依頼だってあるだろう。「俺たちの今回の仕事はなんだ?」
「え? 敵の殲滅?」
「そうだ」と赤松が返すのでそれはまた腑に落ちない。
宮水ASSの連中とのほほんと酒を飲んでいる時に襲撃をかけられた。そして店は全焼して、先輩従業員は大けが、全治一カ月の為、しばらく現場に出れない。
「敵生きてんじゃないですか」
「絵だよ」あのゴッホのヒマワリの贋作。「あぁ、切り裂いて大体焼けましたね」
「あの時点で俺たちの仕事は終わり、残りは破格の金額で譲ったからな」しかし宮水ASSの方の仕事は「……あいつらまだ終わってないって事ですか?」
始末屋『よる』。自分達は贋作7枚の始末を依頼されていた。その始末は割と早急に終わった。その報復襲撃で大赤字かもしれないと思ったが、残った贋作をハリマオ会案件とは比べ物にならない価格で譲りとりあえず終わり。
それに対して、宮水ASSの西宮勢は何を依頼されていたのか詳しくは知らないが、自分達と違い未だに依頼の仕事を続行中らしい。その為、あの明らかにまともじゃない火力を持った民間軍事会社の連中と交戦、恐らく無事だとは思うが、さすがに武器の火力が違う。下手すれば両方、あるいはどっちかは死んだか、負傷はしているだろう。
ともあれ、自分達には関係のない事。ハリマオ会からの依頼は完了した旨の連絡が先ほどあったし、始末した分は支払いもされているだろう。とりあえず大事な従業員の全快の為に使おう。そして、となりで相当ぶーたれているもう一人の面倒な従業員には何か脂っこいものでもたべさせてとりあえず黙らせよう。
入院を拒否した宋がそろそろ戻ってくる。火傷に裂罅に傷だらけで医者には一体何があったのかと問われたが、油が爆発したと。そして皮肉を一つ貰った。「死んだらどうするんだ」と、
「あっ、あれ宋君だね」
「ほんとですね名誉の負傷兵」
包帯だらけのミイラ男がゆっくり松葉づえをついてくる「ご迷惑おかけしました。あと店長、お時間取らせてしまって本当に申し訳ございません。すぐに業務に戻りますので」
こんな状態でも仕事第一で頭を下げる宋を見てつくづく始末屋業が向いてないと思う。「今日は帰って療養だよ。そうだ。宋くんの家で何か栄養のある物でも食べようか?」
それを聞いたゆかりが、「自分からあげがいいです! レモンハイと一緒にきゅーっと、あぁでもさすがに宋先輩きついですかね?」
さすがにと言わなくてもわかりそうなものだがと赤松は思うが、そんな二人を見て宋はにっこりと笑った。本来入院必死の大けがで、
「そうですね。仕事終わりの一杯、ハイカラで」赤松は笑う「じゃあ買い物して帰ろうか」
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