7−3 冬雪in女の子の家
タダ飯にありつけた冬雪は呑みすぎたというブリジットをクロと共に部屋に運ぶ。確実に泥酔しているブリジットなのだが、時折彼女が飛ばしてくる殺気から、この状況でも殺ろうと思えば殺れるのだろう。
ブリジットの住む家は普通の中古マンション2LDK。クロと一緒に住んでいるらしく、お互いに部屋を一つ。キッチンは……大きな手製のリカーラックが取り付けてあり、バーさながらに多種多彩な酒が並んでいる。ブリジット色が強く、クロ要素は皆無。
クロは「部屋にお客さんが来たらお茶を出す」と独り言を言って冷蔵庫から恐らく自家製だろうミネラルウォーターのペットボトルに入った麦茶をきっとブリジットのらしい高そうなウィスキーグラスに注いで渡してくれる。クロは猫のマグカップに麦茶を注ぎそれを飲む。
「いただきます」濃いめにつくられていてなんだか子供の頃を思い出す味だ。「おかわりは自分で飲んで」
「おかまいなく」会話という会話が続かない。「それにしても凄い部屋ですね。お店みたい」
「ブリジットの趣味」
「うん、だろうね。見りゃわかります」
「ブリジットはお酒の仕事をしたかったって前に言ってた。だからたまにブリジットが自分でお酒作って飲んでる」
「……なんか半分くらい飲みたいから飲んでるんでしょうね」
「そう。食べたい時に食べて、飲みたい時に飲んで、眠りたい時に眠る。これが一番気持ちがいい事。でもクロは仕事をするのが好き」
「そうなんですね? クロさん真面目ですもんね」
「自分で働いて食べる」
「確かに、自立している感じしますよね」
「それに今は冬雪を育てる事に苦労している」
「あー、えーっと、すみません。努力します」
「最初は誰だって難しい。冬雪の失敗はクロの失敗」
「いやぁ」それは違いますよ! と言おうとしたが、そういう方針なんだろう。「クロが失敗させないようにする」こんな頼りになる先輩が他にいるだろうかと冬雪は思う。
「次の仕事、ボスから聞いてる」そう言ってクシャクシャの紙を出す。玉風から渡された依頼書“護衛任務”と書いてあった。
「護衛任務でしたね」
「六麓HS、芦屋市の殺し屋の知り合いを守る仕事。破格の報酬だってボスが言ってたから重大任務。失敗すると、六麓HSの白亜が襲ってくるかもしれない。白亜はボスやブリジットくらい強い」
要するにクロよりも強いと彼女は言う。そんな人の知り合いとかどんな人なのか、というか失敗したらヤバいじゃんと緊張する。
「大丈夫、クロは護衛任務失敗したことがない」
「何か、準備しておく事とかありますか? クロさんの足を引っ張らないように少しでも何かできれば」
「腹が減っては戦はできぬ」
「お腹空いてるって事ですね。俺の家、近くなんで何かご馳走しましょうか?」
「うん、ご馳走になる」
まさか、クロが家にやってくるとはと冬雪は言った先からちょっと後悔した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます