7−2 民間軍事会社attack・the・absurdity
大谷記念美術館に贋作が運び込まれていくのを見ながら、民間軍事会社。attack・the・absurdityの通称a.t.aの精鋭総勢15人は、美術館が見張られている事をすぐに把握していた。依頼主のボスから念には念を入れて、運び込みまですべて下請けにやらせるようにとの指示が正しかった。あまりにもしつこいようであれば、リーダーのエリックは攻撃の指示を出そうと思っていたが、経験も武装もこちらが上だとまだ待機していた。
一台高級車がその場を離れる。乗っているのは女が二人、表情までは分からないが、現場を後にしたのでそこまでのプロでもなさそうだ。むしろ残っている連中の方が気になる。目つきからして只者じゃない。
神戸三宮で、バディを失い本人もこてんぱんにやられたブラックは俯きながら手の中でくるみを回している。こんな物で精神安定できるのか?
「リーダー、やっちゃわない?」
もう我慢の限界か、案外長く持った方だった。缶詰でも与えて仮眠でも取るように指示しておく。仕事はわざわざ運び込ませた絵画をこちらで用意した別の贋作と置き換える事。
しかししまった、チャイナマフィアか何かに仲間を一人殺された。日本だからと高をくくり保険に入っていない。まぁ入っていても降りないだろうが、ライアンの奴にはとても悪い事をした。来年二人目が産まれると聞いていたのに、采配ミスだったかとエリックは考える。油絵の塗料に麻薬を溶け込ませた物を密輸。現地で回収し麻薬成分だけ抽出する。日本というお気楽な国はとてもいいマーケットになるとエリック達の雇い主は語っていた。製造もいずれこの国で行うと壮大な野望を語る。
しかし、エリックは自らの雇い主について実のところ全く知らない。ただ依頼をされた。粉を撒いて客層を作っておく事、正直手を染めたくない仕事だったが、支払いが破格。とどのつまり金の関係性でしかないが故に大金は人の心を動かす。「リーダー動きはありません」と、共に別の車がやってきた。男が二人にブラックと同じくらいの年齢の女が一人。元から張っている連中との関係性はなさそうだとエリックは思った。一つは車種。明らかに五台はブランドの車ばかりの中に、後から来た車はえらく年季の入ったフォルクスワーゲンのゴルフだったからである。整備の行き届いた元から張っている連中とは理念のような物が違う。
となると前向きに考えてみる。これらは全てボスが雇った連中ではないのか? あるいは本当に自分達の事なんて知らずに美術品を盗みにきたのか? しかし贋作展、高いとはいえ贋作盗むメリットは? ここに運び込まれた絵画の塗料に麻薬を使われている事を知っているか? いや、一番可能性が高いのは、エリックも聞いていた。近所の小学校から借りて展示する。8枚目のゴッホのヒマワリ。
こいつらまさか本物かどうか分からない、むしろ偽物寄りだろうゴッホの8枚目のヒマワリを狙いに来たのか? それには警戒態勢でいるというのに、エリックは少しおかしく思えてきた。もし、そうなら馬鹿だ! 馬鹿すぎる。そしてこいつらは本当に運がない。今日でなければ何事もなく絵画泥棒も成功したのかもしれないが、今宵、今晩は俺たち。attack・the・absurdityがいる。邪魔する連中は皆殺しだ。
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