出勤日7

7−1 殺しの美学はシャンパンを煽りながら

 関西国際空港にゴッホの贋作が二十数点、贋作展の為に持ち込まれた。そこにこれら贋作の受け入れを手引きした画商の男とこれらをここまで運び込んできた東南アジア系の男達、彼らはそのまま帰りの飛行機で戻って行った。

「あれはただのお使いよ」白亜がそう言って連中を確認できるベンチに座りながら緊張しているグラマラスな女性に話す。彼女、いや元彼というべきか、彼はロボと呼ばれていた白亜に飼われていた六麓HSの従業員、白亜の命令ならどんな命令でも甘んじて受けると言った為、性転換を受けさせられた。まだ身体が痛むだろうが、関係ない。もう世界中で彼女をロボだと分かる者はいない。肌の色も変え、目の色も変えた。

「侏羅」

 彼女はロボという名前から、侏羅という女性に生まれ変わった。「なんなりとマイボス」


 西宮市大谷記念博物館、そこに運び込まれる贋作展の作品、関係者を皆殺しにすると言った白亜だったが、美術館の従業員は当然皆殺しに入らない。となると他の連中なのだが、その全てが雇われた者で構成されている。この大谷記念美術館には幼少期、ギュスターヴの絵画が好きな祖父に連れられてきたことがある。

 写実主義に代表されるギュスターヴの絵は白亜も嫌いじゃなかった。そこには殺し屋の美学とも重なるところがある。

「妙ね。画商の男ですらここまでの運送代行じゃない」

「白亜様、どのようにされますか? 一旦お戻りになられますか? 私がここで張っておきます。二、三日であれば寝ずに可能ですが」

 白亜の殺しの美学とは、スマートでなければならない。自分ですら殺したのか? 相手は殺された事を気が付かずに死に至る。されどその境地には未だ至れず。

「そうね。喉が渇いたしシャンパンでも飲みに行きましょう」

「では、私はここに」という侏羅の手を引いて車に乗る。意味が分からないままの侏羅を連れて43号線を超えると適当なコインパーキングに車を停車させ阪急夙川にあるイタリアンとシャンパンの店に入った。「……見張りは大丈夫なんでしょうか?」

「六麓HSの他のスタッフが監視してるわ」

「二階堂サン以外にも」と驚くが、何をいまさらと白亜は笑う「私の家と会社を二階堂一人で回せるわけないじゃない。私の『六麓HS』の人員は凄いわよ?」

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