6−5 二階堂、関空までお出迎えプラン

 二階堂は白亜の依頼で関西国際空港に車を走らせていた。白亜の客人を迎えに行く為である。驚いた事に白亜が殺し屋業なんて営んでいる事をその人物は知らないらしい。赤毛のレベッカ・スミスという女性。

 写真を見せられたが、白亜が海外の女学校にいた頃の写真でさすがに顔も変わっているだろうと閉口。ロボは白亜と共に殺しの請負をしているらしい。正直、大阪国際空港(伊丹空港)に国際便がとまってくれればなと思いながら埋立地である関西国際空港にやってきた。

 まずミスレベッカを安全に白亜の屋敷までエスコートし、その後に宮水ASSに正式な護衛依頼を行うというもの。恐らく自分やロボ、それに白亜でもレベッカを守り切る事はできるのだろうが、遠方の友人に白亜は自分の裏稼業の姿を見せたくはないだろう。しかし白亜にも誤算があった。榊とブリジットに護衛を依頼するハズだったが、二人はハリマオ会の仕事を請け負っており、残りの二人に任せると言う事。

 それを聞いた後、白亜は鬼のような形相で二階堂にハリマオ会のは仕事内容はどんなもので? 誰を殺せばいいのか? と尋ねてきた。「……美術商らしいですが」

「そう。さっさと殺して終わらせましょう」と白亜がだいぶ頭にきている事が感じ取れた「気分が変わったわ。私も出ます」

「は、はい」

 達成してもたいした金にもならないのに労力だけは大きいハリマオ会案件、それに白亜が参戦するという。聞き間違いか?

「相手の事は探偵でも使って調べさせて頂戴。まぁ、どんな相手でも最大火力を叩きこみ、奇襲で皆殺しよ」

「社長が自ら……その現場に出られるのですか?」

「旧友との時間を奪ったばかりか、人件費的には大赤字のハリマオ会案件」

「はぁ……」

「関係者は皆殺しよ。その代償は大きいわ。ハリマオ会の報酬以上にいただかないと割にあわないじゃない」

 

 とそんな事を言って相手の素性を探り始めた。

 使い捨てにするつもりだったロボも使えるように訓練。

 ロボの顔を整形で変えるんだろう。恐らくその美術商とロボは何処かで繋がっている。向こうはこちらを分からずともこちらはロボのおかげで向こうの事は丸わかりなのである。ロボの知っている人間であった瞬間殺害する。

 自分の雇用主だというのに白亜のイカれっぷりには正直脱帽ものである。同時に彼女を敵に回す相手に対して、十字架を心の中で切った。

 飛行機の到着まであとしばらくは時間がありそうだ。コーヒーでも飲んで時間を潰そうかとうろうろしていると抹茶推しの店をみつけた。

 もしかすると、米国のご令嬢は抹茶味のスイーツを食べたいと言い出すかもしれない。二階堂は別段抹茶味が好きなわけではなかったが、その店に入った。

 基本的にこういうお店でハズレは少ないのだが、いかんせん味はその時働いているアルバイトに左右される。

「グリーンティーに抹茶シフォンケーキをお願いします」ど定番だろう。

「かしこまりました。他にご注文はございませんか?」

「あの、このお店って外国の方は結構入られますか?」

 そう聞けば大概こう答えるだろう。「海外の方にはお抹茶が特別人気がありますから、よく来られますよ? あちらの方々も」

「ああ、確かに」海外からの客がそれなりにいる。「海外の方がよく頼まれる物は?」

「……そうですね。お客様の頼まれているグリーンティーよりはお抹茶でしょうか」

「あぁ、なるほど。凝った物じゃないんですね」妙に納得した。日本には和を感じにきているのだ。

「そうですね」

「すみません。私の雇用主の大事なお客様を本日お迎えにきたので、少し焦ってしまいハハ、ありがとうございました」

 接待は毎回、白亜相手に行っているのだが、今回はよく知った人物じゃない。

 それも白亜以上に神経を使う。甘いグリーンティーに甘いケーキ。身体にはよくはないだろうが、こういう物をたまには入れないとやってられない。嗚呼美味しい。レベッカという人物、白亜曰く竹を割ったような女性だという。白亜がそう言うと、普通のさっぱりとしたような人というよりは、殺すか殺さないかの決定がきっぱりしている人くらいにしか感じられない。

 しっかりと糖分を取って時間は到着三十分前、そろそろお出迎えにスタンばっておこうかとレベッカが降りてくるターミナルを再度確認して手鏡で髪型着衣の乱れがない事も確認し、仕事用の表情に変わる。あとは微笑の状態でレベッカを迎えるだけ、荷物はどの程度だろうか? 懐にペン型の銃を持ってきたが、必要なかったか? 等と考えていると飛行機が到着したらしい。降りてくる人々の中からレベッカを見つけ出し車まで誘導、車に乗せてしまえば後は話が速い。

 まぁ、そういうわけにもいかず。喉が渇いたなどといわれればつれていく店も決めているし、とにかく自分はただ白亜の使用人の一人としてふるまえれればそれでいい。

「そこの凛々しい貴方。ミスター二階堂ね?」

 見つけるもなにもレベッカの方に見つけられてしまった。持ち物は小さなスーツケース一つ。スタジアムキャップにシャツにジーンズ、どこにでもいるお嬢さん。

 まさか、白亜に言われた竹の割ったような女性という言葉が公式的な意味あいだった事に少しのショックを受ける。それでも考えを改めて「日本へようこそミスレベッカ、何か冷たいお飲み物でも?」とテンプレートの質問をすると、

「私、ビーフボール。牛丼が食べたいわ!」

 これは冗談で言っているのだろうかと袖を引っ張るレベッカに二階堂は思考が上手く働かなくなった。

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