明るくて仲の良い職場です

「大当たりだ。ちょっと熟れる前って感じだけど、怖くて声出ないのかな? 可愛いねぇ! これからたっぷり可愛がってあげるからな。家にはもう当分帰れないと思うからそのつもりでいてね? 大丈夫! 俺たち優しいから」

 

 ワンボックスカーの後部座席に四人の男、獣のように息の荒い彼らに囲まれているのは近くの学校の制服をきちんと着た一人の少女。

 彼らは知り合いではない。少女は道を歩いている所、突然彼らに無理やり車に拉致された。俯いている少女のスカートの中に手を入れ脚を、服の上から胸を嫌らしく触る彼らに少女は訪ねた。

 

「私をどうするつもり?」

 

 彼らは最近この近くで女子中学生、高校生を狙った集団強姦魔達、いつも通り獲物を探し、一人暗い道を歩いている少女を見つけて今に至る。彼らからすれば少女とはただの排泄処理の道具か何かでしかないと思っているのだろう。下卑た笑顔の男達に対して、少女は何処か興味なさそうに車の外を見ている。

 そんな少女に「どうなると思う?」と尋ねるので「分からない。ところで今はどの辺りを走っているの?」と少女は尋ね返す。「あ? そんな事どうでも良いだろ? 今からメチャクチャに犯されるんだから、脱げよ」と一人の態度が乱暴になってくる。それでも怯える事もなく少女は「脱いだら何処を走っているか教えてくれる?」だなんて聞いてくるので、男達も面白がって、少女の話に耳を傾け、男達は顔を見合わせて笑う。

 

「脱いだら教えてやるよ」

「そう」

 

 そう言った瞬間、少女は上着を脱いだ、自分の部屋に帰ってきて着替えようとするくらい自然に、そして「何処を走っているの?」と聞くので、「今は尼崎だ。ブラも外せよ」「そう、西宮を出たの? じゃあ殺していいやつだ」「は?」そんな声が響いた瞬間、少女は目の前にいる男の頭に金属の棒を突き立てた。ドスっという音と同時に「あ……」と声を出した男を見て一瞬固まる左隣にいる男の首元に隠し持っていたナイフを少女は向けて切り裂く。少女の行動に反応した少女の右隣にいた男は少女の口を手で塞ぎ動きを止めようとしたが、その手首をぱっかりと切り裂かれ、同様に首の頸動脈を斬る。最後の一人は手を伸ばし、少女のブラを剥ぎ取ったが、少女は恥じらうわけでもなく、四人目の男の側頭部にナイフを突き立てた。

 

「運転している人、逃げたら殺す。運転を止めても殺す。私が言う場所に車を運転して」

「は、はい。殺さないで……」「運転している間は殺さない」上半身裸のまま少女はそう言うと、「携帯忘れた……」と独り言。殺した男の懐から携帯を取り出すが、パスワードがかかっているので操作ができない。

「運転している人、携帯を貸して」

「はい」

「パスワードは?」

「4615です」

 

 ブラを握っている男の死体からそれを回収するとブラをつけて、男達が買っていたコンビニの食べ物が散乱している後部座席、少女は気にもせずに上着も着直すと電話をかける。

 

「もしもし、こちらクロ。ボス、四人殺した。一人は運転してる。今から始末屋に処分しに行く。今晩は宮っ子ラーメンでしょ? すぐに戻る。問題ない。殺しは西宮を出てからちゃんとやった」

 

 四人の男を殺した少女はクロと名乗った。

 クロの指示通りに運転をしていた男は失禁しながらも言われた通りの場所にまで車を運転して「目的地に着きましたけど……」「降りて」と言われ、降りた場所は動物霊園。……にしてはそこから出てきた顔を隠した男はどう考えても堅気とは思えない。

 

「またクロか……あの金髪美女はこないのかよ?」

「ブリジットは別の仕事、今回もよろしく。車も置いて行くからその分処理を差しいひてまとめてボスに請求して。あとタクシーを呼んで」

「生ごみの処理は何基?」

「えっと、四。そうだ。運転している人をまだ生かしてた。五!」


 と言って両手を開いて見せる。


「どうする? こいつも処分しておこうか?」

「手数料がかかるからクロがやる」

 

 運転していた男は自分は助かると心の何処かで思っていた。もしかすると逃がしてもらえるんじゃないかと思っていた。しかし、自分も結局殺されるのだ。そりゃそうだ。目撃者を残すバカなんていない。殺されるなんて考えた事もなかった。


 今までの自分達の行いを棚に上げて彼は……

 

「どうして俺がこんな目に……」

「私は宮水ASS(オール・セイヴァー・サービス)のクロ。あなた達に乱暴されて自殺した女の子の親から死んだ女の子達の尊厳を守ってくれって依頼された。クロには分からないけど、要するに殺せばいい。ただ西宮市は殺しちゃダメだったから尼崎まで来たのは面倒だった」

「何言って……お願いだ殺さないでください。金でもなんでも払いますから、お願いします!」

「お金はボスから払ってもらうから大丈夫、今からすぐに死ねる。私はそれは上手だって言われた」

 

 初めてクロが愛らしい表情で笑った。ピアノが上手だって褒めてもらったんだ! というくらいのノリで殺し自慢をしたクロは男の腹部にナイフを突き刺すとそれをぐるりと回して引き抜いた。臓器をズタズタにして引き抜いたナイフ、その激痛に苦しんでいる男に、表向きは動物霊園で働いている男は「えげつない事するなぁ、トドメさしてやれや」「うん」と一言答えるとクロは大きめのアーミーナイフを男の頭に突き刺した。

 男が最後に聞いた音は“ドス“と言う自分の頭蓋を貫かれて絶命する瞬間の音だった。


  


 兵庫県西宮市。

 業務上での殺しが御法度な地域。そこにクロの働いている会社の拠点は存在する。

 

「えらっしゃい……お、さかきさん。おたくのところのお嬢ちゃんが来たよ」


 テーブル席でラーメンを食べている青年、金髪外国人の女性、そして黒髪ロングの一見すると少女にしか見えない少年、もとい成人男性が手を振る。


「クロ、こっちこっち!」

「たまにボスにブリジット……大将。宮っ子ラーメン大盛り、餃子十人前」

 

 クロがそう頼んで席に座る。

 お冷やを入れてくれる青年に「今日の仕事お疲れした!」とグラスを掲げるので、もう一人の青年と金髪美女はビールのジョッキを掲げる。他の皆が先に食事に手をつけているのが少しばかり納得いかない様子のクロだったが、お腹の中に入れば同じかと先に運ばれてきた餃子を冷まして、たまと呼んだ青年に食べさせる。少しじっと見て、特に問題なさそうであれば自分も餃子を食べて満足そうな顔をする。



 彼らは西宮市に拠点を置く、宮水ASS(オール・セイヴァー・サービス)。あらゆる事から依頼者を守る守り屋。

 ボスの榊、荒事専門・元米国特殊部隊のブリジット、元人殺しのクロ、システム担当・宮水ASSブレインの青年たま事、玉風(ユーフォン)。一心不乱に食べる食事中のクロを横目にボスの榊が話し出した。

 

「そういえば今度、新人が入ると思うから教育お願いね」

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