8−5 化物達の会合

 赤松は遠くにまた一台の車が到着した事に気づいていた。しかも、あれはこの西宮をホームにしている宮水ASSの社用車だなと、誰が乗っていても厄介な奴しかいない。まさか因縁のある三社が勢ぞろいしているとはと、正直閉口する。

 今は六麓HSのバックアップがあるので押せ押せで民間軍事会社と思わしき実弾を使う連中相手でも優位に事を進められてはいる。しかし、利害が一致しているだけで、連中を追い払った後はどうなるか分からない。動くなら今か? しかし絵画の強奪と始末ってゴッホのヒマワリは全部で7枚、いや8枚だったか? この状況で三人しかいないのにそれだけの数の絵画を持ち出すなんて不可能じゃないのか? まぁしかし、依頼として受けた建前、できませんでしたでは始末屋『よる』としては困ったものだ。第三勢力である連中は撤退をはじめている。

「……宋くん、ゆかり。行くぞ」赤松はつぶやく。ようやくお仕事開始の合図である。それを聞いて宋は頷き、ゆかりは大きく口を開いて笑った。

 やりようだろう。この状況でゆかりに運転をまかせて、赤松と宋で絵画を狙う。セキュリティはハリマオ会が手を打っている手筈。絵画が保管されている場所も大体めぼしはついている。ゆかりは突入班にならなかった事で機嫌が悪そうだったが、自分のサイズから絵画を何枚も運ぶのは難しとも理解し、入口に車を近づけて近くで待つ事になる。そんなゆかりは少し遅れて突入してくる二人を見た。

 絵画を強奪しようと美術館に入った赤松と宋は、内部にはさすがに深夜だけあって人はいない事にさっさと持ち出してずらかろうと足早に絵画の場所を探す。

「最悪ですね。店長」宋が言った意味を赤松はため息をついて頷く。「宮水ASSの連中、我々と目的が同じか、近いか……しかも一番よくない組み合わせだ」

 赤松と目があった宮水ASSの榊にブリジット。ここにハリマオ会の依頼できたなら狙いはゴッホの贋作だろう。そしてどちらかがクロならまだしも宮水ASSのエースが二人ときた。これは不幸だ。赤松はめまいがしそうだった。

 まだやりあう状況でもない。お互い、請け負った仕事によっては妥協点も決められるか「やぁ二人とも」と営業スマイルの赤松「こんにちは『よる』さん」いたって普通の会話。それでもブリジットは今すぐにでも噛みついてきそうな顔をしている。二人を同時に相手にして勝てるとは赤松は思ってはいない。それも自分は本調子じゃない。

 お互い距離を取りながらすたすたと館内を歩く。さながら赤松達が道案内をしているようだった。どうやってこの状況脱するか、それも絵画をもってなんて不可能じゃないだろうか? 手持ちの武器はどのくらいあるか、状況を冷静に分析しながら、つくづくこの仕事は向いていないと嫌になる。「宋くん、俺があの二人を止めてられるのはもって五分かそこらだ。絵画の強奪は複数回に分ける。一旦持って行けるだけ二枚くらいを確保して、無理そうならにげるんやで」

 相手は二人できている。どうにか車にさえ乗ってしまえば、足の速さはこちらに分がある。

「分かりました店長」宋がそう言った瞬間、走る。「では、店長、御武運を! 車で待っててください。10分して戻らない場合は撤退を」

 それについていこうとするブリジットに対して、赤松はゴム弾のピストルを放つ。ブリジットの面倒なところはそのまま走ってくる事だ。

「赤松、まだ折れた腕完全には治ってないやろ?」こいつだけでも脅威なのにもう一人も相手にしなければならない。

「変な折り方しやがって」治療にどれだけかかったと思うんだ?

「でもまぁ、ほんま腐っても赤松やなぁ! あのお嬢ちゃん逃がしてウチからも逃げ切りよった。でも次はさすがにボスもおんで? どないするん? ウチ、アンタんところの串カツ食べるの嫌いやなかってんけどなぁ、今回は引きーや、じゃないと全治半年はくだらんのちゃうか? なぁ? あかまつぅー!」

「……ええからこいや!」

 そうは言うものの同時に来られたら五分持たせるのですら骨。距離を取って時間稼ぎに回る。実弾じゃないからブリジットはある程度弾丸の前に立ってくる。

 痛いとか怖いとか、そういう恐怖感が完全に無くなってるモンスターを相手にしている気分だった。そしてついに榊も動いてきた。お互い幾度となくやりあってきた。手の内は大体わかっている。だからこそ、赤松も容赦なく発砲。応戦してくる二人に囲まれる。ここまでかと両手でゴム弾の銃を撃ちながら入り口に向かって逃げる。追おうとはしないのは無駄だから。


 当然おいかけてはこない。絵画を狙いに行った宋を仕留めればいいのだ。赤松はすぐにゆかりに連絡「状況が変わった車を回せ、宋くんが何枚か絵画をもってきてくれるハズだ」

 宋一人であの二人と戦えば瞬殺もいいところだろう。判断ミス、突入タイミングを渋った自分の責任だと自分を責める。

『てんちょー、宋せんぱいなら大丈夫ですよー』何がどう大丈夫なのか根拠は不明だが「私と違って宮水の2トップがヤバいのは宋先輩が日ごろから口酸っぱくいってるんでー、あの二人に関わろうなんて絶対宋せんぱいしないって事ですよー、だから絵画でしたっけ? 諦めてもどってきますって、多分! 連中も物譲ればなんもしてこないでしょーよ」

「宋くんは、責任感がとても強いからねー。そのまま何も持って来ずに逃げるなんてするとおもうか? きっと一枚でも持って帰ろうとするやろーな。十分や! 十分して宋くんが戻らへんと逃げるで、ここが西宮で助かったわ」

「殺されないでしょうけど……」ゆかりが何か言おうとして「ブリジットだけならお陀仏かもしれんけど、榊がおるから再起不能にはされんやろ」

 しくった。自分が絵画を取りにいけばよかったとそう思った。そして無常にも十分の時間は過ぎる。

「ゆかり、車出し、一旦立て直す。宋くんには悪いけど、しばらく耐えてもらわなあかんわ。実弾の武器も用意しとくんやったわ、あいつらが二人でくるとかないやろ」

「万全の状態のてんちょーでも無理ですか?」ハァと赤松は宋がどうなっているか分からないのに、既に榊とブリジット、それに赤松の戦闘能力について興味を持っている。だから赤松は正直に答えた「どっちか一人なら殺れる可能性が高い。二人同時なら俺が殺られる。万全だろうとなかろうとな」

「すげぇ!」

「すごい事ないわ!」自分と同等の相手と戦うなんて一番避けたい事だ。「てんちょー、てんちょーあれ!」

 ゆかりが何か見つけた拠点に戻ろうと43号線を走っていたが、先ほどドンパチやらかした第三勢力の車、コンビニに立ち寄っている。そして連中の車の中で一瞬見えた物「あれ、絵画ですよねー」

「マジか……おい! なんであいつらが絵画もってんや?」向こうは怪我人も出ている。そして二人がコンビニに何かを買いに行った。「てんちょー、やりますかぁ?」

「まだ鳴尾、西宮かい、ここが尼やったら全員殺して奪ったんのにな。やるでゆかり!」思わずそう意気込んだ。

「そうこなくちゃ!」と、車を回してコンビニの駐車場に入る。そして運転席、後部座席のドアを開けたまま二人は飛び出した。「ゆかり、とりあえず車の中で撃ちまくれ! 死にゃせんし、絵画も壊しても構わん。どうせ始末するんや!」

 ゆかりが走ってて、第三勢力の大きなワンボックスカーの扉を開ける。「はーい! まいねーむいず『よる』ゴム弾でもくらいやがれよぉお! あははははは! 痛い? 痛い? おっと、銃を向ける悪い子はこうだぜ! ショットガンにナイフって最高じゃね?」

「ゆかり、ええから絵画ぱくれ! ほら、コンビニにおる奴らに見つかった! 全部取ったか? ずらかるで!」

「うひゃひゃひゃ! 映画みてー」ゆかりは興奮気味に運転席側に絵画をなげつけるように放り込んで自分も車に乗り込んだ。同じく赤松も後部座席に転がり込むように絵画と共に飛び乗る。「はよ出せ! ゆかり! 向こう実弾もっとるからな!

 急発進させるゆかりの目は完全にイッてる。とんでもない女だと赤松は思う。「……てんちょー、実弾ならこっちにもありますよー」

「なんだ、それ……ハンドガンか? どうした?」

「さっきの車でぱくった! 最悪しばらく応戦できますよー」

 そんなハンドガン一丁で何ができるものか「ええから、店に戻れ、手の早いやっちゃなぁ」

「でしょ? 凄い?」絵画を全部で七枚、強奪した。ハリマオ会の仕事はクリア、だが「オウ、宮水ASSか? あぁ、榊かブリジットに連絡取れ! 宋君と交換に絵画渡したるってな! はよせいよ」

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