第5話 母のやらかし④

へいへ~い、捏ねるぜ捏ねるぜ~チョ~捏ねちゃうぜ!?

焼いちゃうぜ焼いちゃうぜ~熱っ!!

挽き肉の油多すぎ問題。


「あ、そういえば言い忘れてた」


焼き上がったミニハンバーグを別の更に乗っけて一旦中断。

ユリちゃんママに連絡せねば。


『もしも~し』


『こんばんわ~。みやこちゃんどうしたの?』


ツーコールで出てくれるとは…やりますねぇ。

流石ユリちゃんママ。もしや…食卓準備は整ってる?


『急な電話ですみません。ユリちゃん今晩家で晩御飯取るんですけど…大丈夫ですか?』


『あら、そうなの?丁度良かったわ。ありがとね~』


丁度良い?丁度良いとはこれ如何に?


『そうなんですか?何かありましたか?』


『今日はパパとデートの予定って言うの忘れてたのよ。百合をどうしよっかな~って悩んでた所だったの』


娘放置でデートっすか…、相変わらずのおしどり夫婦ですな。

ユリちゃん、あわれ…。


『可哀想…』


『そうなのよ~。都ちゃんありがと。都ちゃんのご飯美味しいし、ユリちゃんも喜んでるでしょ?』


軽っ…。

時折聞こえる声は旦那さんの声か?

既にどこかのお店に入っている御様子ですが?


『あ、此処にしましょ。何だか豪華だもん』


『…?何がです?』


『あ、こっちの話。今からフィーバーしちゃうの』


『あ、そっすか…』


フィーバって…え?まだ17時だよね?

え?今から?お盛んっすね…。


『じゃあ都ちゃん、お願いするね。今度は私がご飯作るから、瑞穂ちゃんと一緒に食べに来てね』


『あ、有難う御座います。それじゃ、頑張ってください』


『は~い。いっぱい頑張るわ~』


プリンの無料通話を切り、何とも言えない気持ちになる。頑張るって何だ?

まぁ、ユリちゃんに理由は話さんでも良いか…。

あ、そういえばシホちゃんママの連絡先知らんぞい。

シホちゃんに頼むしかないのう…。

こそっと行くぞよ。


「瑞穂ちゃ~ん。ちょっと良い?」


「何~?入って良いよ?」


こそっととか無理だし…。

御三方は中間テストの勉強中だし…。


「勉強中にゴメンね?」


「良いよ。ところでどうしたの?」


「うわ~、扉開いたら美味しい匂いが…」


「まじでやべぇ…腹減ってきた」


どうやら匂いに負けつつあるご様子。

まだまだ出来ておらんのじゃ…今暫し辛抱召されい。


「まだ全然出来てないよ。シホちゃんの親御さんにご連絡しておきたいのだけど…」


「ああ、別にいらないっすよ」


「良くありません。大事なお子さんをお預かりしてるんだから、保護者としては確り連絡しないと駄目なの」


「いや、本当に良いっすよ…」


「駄目です。ちょっとお家の電話番号教えて。後は私の方で言っておくから」


「え…まぁ…」


「シホ。こういう時のお母さん、無駄に頑固になるから諦めな?」


「そうそう。言ったでしょ?ミヤちゃんってどっか変わってるって」


「えぇ…。まぁ、わかった…」


お二人さん、その微妙な評価はなんなん?ハンバーグに芥子でも仕込まれたいん?

ロシアンハンバーグでもしよか?店のメニューにもあんねんで?

まぁ…自分が変って自覚はあるから許しちゃうけど。

シホちゃんもスマホ持ってたんだ。

よっしゃ、私専用フォルダが火を噴くぜ。


「後で、プリン交換しない?」


「あ、良いすよ」


連絡先の交換には好反応を得られた。

ふふ、グループ作って後で招待じゃ。

情報源が増えたで~。


「お母さん、変な事考えてないよね?」


「なな、何の事かな?」


勘の鋭い…ぬぅ、バレぬようにせねば…。


『あ、母さん。今日晩御飯要らない…』


シホちゃんのスマホからは何か叫んでるのが分かる。

おっと…修羅場かな?


『違うって…。友達の家で呼ばれてるんだって…』


返す言葉には奇声に似た雄叫びが…雄々しいな…。


『だから…もぅ…そんなんだから馴染めないんだって…』


今度は泣き叫ぶような声色で叫んでるのは何でなんすか?


『泣かないでよまま…母さん!』


ママって言った。ママって言った。

シホちゃんママっ子だ。


「シホちゃん、私から言ってみるから。スマホ貸して?」


「え、面倒っすよ?」


「良いから良いから」


ほほう、赤色なのは趣味でござんすか?

初対面だから少し緊張するけど…ふふん、此方には傍に女神様が居るのじゃ。

気分的には百人力ですぞ?


『もしもし、お電話変わりました。シホちゃんのママさんですか?』


「ちょ!?」


慌ててるシホちゃんも可愛いねぇ。

瑞穂ちゃんとユリちゃんは爆笑してるけど…。


『あ、はい。詩帆ちゃんの…ママです』


ピンと来たぜ。間違いない。この人絶対可愛いわ。

外見は分からんけど、内面は確実に可愛い人だ。


『私、藤都ふじみやこと申します。いつも娘がシホちゃんにお世話になっております。今日は家でテスト勉強をしていまして、時間も遅くなるみたいですから晩御飯を誘ってみたんです。宜しかったでしょうか?』


『え、あ、その…』


『ご安心ください。私、職は料理店に携わっておりまして、一介の料理人でもあるんです。味は保証しますので、どうか許可をいただけませんか?』


『え、そ、そうなんですか?』


『はい。あ、シホちゃんは私が責任を持ってお家までお送りしますので、ご安心ください』


これは言っておかねばならん。

まだまだ中学生だもん。

変質者とか非行とか心配になるよね。


『あ、その…』


『大事なお子さんをお預かりするのですから、私にお任せください』


『お、おお、お願いします…』


よっしゃ。許可貰えたぜい。

親指グーをして許可を貰えたことを報告しましょう。

どやぁ。


『はい。では、シホちゃんをお送りした際にご挨拶にお伺いします。それでは、失礼いたします』


『あ、はい』


こっちから通話を切るのは気が引けたので待っておくと向こうから切ってくれた。

こういうのってさ、気の遣い方が難しいとは思うんだよね。


「よぅし。火を…シホちゃんママの、許可貰ったぞ」


シホちゃんにスマホを返しながらの一言。

当人以外が笑っているけど…。当人涙目です。

恥ずかしがる事は無いねん。瑞穂ちゃんもな、昔はママ、ママって言うててん。


「じゃあ、ご飯作って来るね。瑞穂ちゃん、久しぶりにママ頑張って、って言って欲しいな?」


「…お母さん、頑張って」


「ママが良いな~?」


ちらちら。

ほれほれ、言わんとここから離れんぞい?


「…。」


「みっちゃん、ママの期待に応えなきゃ」


ナイス~ユリちゃん。

ほうら、私も期待の眼差しを送るぞい。


「ママ…頑張れ…」


目を逸らしたのはマイナスポインツ!

でも、仕草表情でプラスポインツ。

メッチャ気合入った。いくぜぇ!!

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