第8話 母のやらかし⑦

「ア”ア”~」


「お母さん、おっさんみたいな声出さないでよ」


「おっほぉ、むり~」


風呂は気持ちえぇわ~。

肩までざぶ~んですわ。

この時間がもうね、堪らん。


「もうちょっと詰めてよ。入れない」


「ん~」


足を広げて瑞穂ちゃんの座る場所を確保する。

もうちょっと湯船が大きかったらね~良いんですが。


「あ~きもち~」


「瑞穂ちゃんのこえ~、おっさん」


「えぇ?私はフツーだよ~」


胸にちくちくと髪の毛が当たる感触を除けば、まぁ極楽極楽。


「あ~この枕、さいっこう」


「枕ちゃうで~」


ぐさって感触が来るのもお構いなしにもたれかかってくるぅ。

まま、ええわ。


「お母さん、もうちょい詰めて~」


「むりぽ」


「え、なに?」


「むりでごじゃんしゅ」


「いけるって、もうちょっと詰めて~」


無理無理、狭い狭い。あ~やめて~。詰め過ぎ詰め過ぎ。


「苦し~」


「は~。生き返るぅ…」


瑞穂ちゃんが極楽ならばいいや。は~、極楽。


「お母さん」


「なんぞぉ?」


「シホママ、可愛かったね」


「メチャカワ~」


「お母さんの好み?」


「私の好み~?は~瑞穂ちゃ~ん」


「ほんと?」


「ほんと~」


「…ふふっ」


あ~頭ドロドロですわ~。

娘っ子さこん年に風呂入れるなんざオラだけでねぇか?


「瑞穂ちゃ~ん。そろそろ一人で入る~?」


「嫌ぁ~」


「あれ~?」


「嫌ぁ~」


おっとぉ?娘っ子さ嫌がっちまっただねぇべか。

喜んで良いんかい?いいんですぅ~。


「お母さん」


「なんじゃもんじゃ?」


「再婚とか考えてる?」


「まったくぅ?というか~けっこんもぉ~してないしぃ~?」


「あぁ~。再婚って言わないよね…」


ね~。捨てられちゃったんだも~ん、くすん。

今はどうでも良いけどな!!


「あのさ、三者面談でね?」


「うんうん」


「担任の先生がさ、若い先生なんだ」


「それでぇ?」


「…男の先生なの」


「うん、それでぇ?」


「興味とか無いの?」


「瑞穂ちゃんの~担任の先生だったら~興味はあるよぉ?良い先生?」


そろそろ切り替えねばな。呆れられちゃいますん。


「良い先生だとは思うよ。教え方も上手だし、男子にも女子にも人気だし。テニス部の顧問で県大会で優勝した事もあるらしいよ?それに、顔も良い方」


「ふ~ん。瑞穂ちゃん、それが何か関係ある?」


「え?関係って?」


「私が、瑞穂ちゃんの片親なのが気になる?シングルマザーっていうか…」


「そ、そんなんじゃないよ?」


「じゃあ、今の生活は嫌?」


「好き。お母さんと一緒なら何でも良い」


「そこに誰かが入ってきたら?」


「お…お母さんが…良いなら…」


気弱になっちゃってさ…。本当に良い子に育ったもんだ。

見てるかい?可愛くなったろう?


「瑞穂ちゃん、一つだけ良いかな?」


「…なに?」


「もし、私が誰かを好きになってしまったとしましょう」


「…うん」


「瑞穂ちゃんがその人が嫌いだったら、私も嫌いになります」


「…それじゃ、お母さんが…」


震えちゃってまぁ…。

そんなに思い詰めなくてもいいのに…。


「瑞穂ちゃんに聞いたけど、私も今の生活が好きなの。瑞穂ちゃんと一緒に住んでいるこの時が好きなの。一緒に起きて、一緒にご飯食べて、一緒にお出かけして、こうしてお風呂に一緒に入って、同じ布団で一緒に寝る。そうして一緒に起きるの。まぁ、私の方が早起きだけどね」


後ろから抱きしめても嫌がられないのは、素直に嬉しいな。

この年頃の子は気難しいだろうし、ね…。


「君を大切にするって約束、覚えてる?」


「当たり前!覚えてる!」


「…良かった。色々あったけど…今、私は瑞穂ちゃんが世界で一番好きなの。ありきたりな言葉だけど…そうとしか言えないから…」


「わ、私も、お母さんが一番好き。ずっと一緒に居たい」


「ずっとは無理じゃろう。瑞穂ちゃんには良い旦那さんが迎えに来てくれるよ」


「嫌」


「そこは嫌がらんで欲しいのぅ…」


狭いお風呂で動かないでぇ…イタタタ。

むくれっ面の瑞穂ちゃんやい、足が痛いんじゃ…手を退けてぇ…。


「絶対嫌」


なんか…鼻で笑っちゃうなぁ…。

甘えん坊と言うか…駄々っ子と言うか…。

面白いもん。


「ふふ、可愛いなぁ」


「む~」


むくれたまんまだ。


「よしよし、良い子良い子」


洗ったばかりのしっとりした頭を撫でると、猫みたいに目を細める。

いや、犬みたいかな?


「ちゅーしちゃおうかな?」


「…いいよぉ?」


なんで目を瞑ってるんですかね?

その唇は何ですか?思春期真っ盛りの男児でしょうか?

小さい頃はいっぱいしたけど、今は成長したんですぞ?


「おでこにちゅー」


「…ぶぅ」


期待してたのとは違ったんだろうけど、それは大事に取っておきなさい。


「ほら、もうそろそろ出よっか」


「ん~」


再チャレンジと言わんばかりに目を瞑る瑞穂ちゃん。

結果は同じですぞ?


「おでこにちゅ~。はい、お終い」


「え~?」


どっこいしょういち。あ~温まったわ~。

この身体、肩と腰がやべぇのなんの…デカすぎなんですわ…。


「早くしないと置いて行っちゃうぞ?」


「あ、待ってよ。お母さん」


「ママと呼んでくれたら待つよ~」


「ママ!」


躊躇いねぇなぁ!?言った手前、待つしかないじゃん?


「お先~」


「あ、ちょっと…もぅ」


お風呂の蓋を閉めなされ。後、窓も開けんしゃい。

湯桶も水切って、お風呂マットも片して、と。良す良す、完了だす。


「お母さん、バルタオル」


「ありがと」


少し湿ってるから、瑞穂ちゃんの拭いた後なのは分かる。

けどさ、もう一枚あるんだからそっちでも良くないでしょうか?

まぁ、良いんだけどさ。


「ちゃんと拭き取りなよ?」


「ん~。分かってる分かってる」


髪伸びたね~。最近切ってって言わなくなっちゃったし…。

私と同じくらいのセミロングになってきちゃった。


「そろそろ切る?」


「整える程度でお願いしよっかな?」


「じゃあ、今度切ろうか」


「うん、お願いするね」


ハンドタオルと頭に巻き付けて台所へと向かっていく。

お目当ては牛乳ですか?私も欲しいです。


「ん~。私も切るか…。思い切ってショートにでもするかな?」


「駄目だよ?お母さんはそのくらいか、ロングの方が似合う」


「え~?手入れ面倒だよ?」


「だめ」


昔は暇も無かったから伸びっぱなしだったんだけど…。

その印象が強いのかな~?

とりあえず、頭にタオル巻いとこっと。


「お母さん、牛乳飲む?」


「飲む~」


「…お母さん、何時まで素っ裸でいるの?」


「あっつい!」


「…せめてパンツは履いてよ?そうじゃないと、朝の事言えなくなるよ?」


…せやな。注意出来ひんようになるんはあかんよな!パンティー履くわ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る