第29話 娘の日記(笑い上戸編)

雨が多く降るからか…最近湿気が強くなってきた。

気温も日毎に蒸し暑くなってきて…衣替えしてもこの暑さには中々慣れない。

もう夏も間近なんだなって…。


「お金がどんどん呑まれてく~、それでもパチ屋に~行ったぁ~♪」


「次で当たると信じてるぅ~、激熱外して台叩ぁくぅ~♪」


毎年いつも元気なお母さん。何処からそんな元気が湧いてくるのだろうか…。

そんなお母さんは、今日も元気に無駄に良い声で歌いながらご飯を作っている。

何かの替え歌で…どこかで聞いたことのある音程なのに中身のせいで台無しだ。

特定すら出来なくなってきた…。何の歌だっけ?


「追い過ぎて怒るノブやんの~、財布がどんどん軽くなるぅ~♪」


本当に何の歌だっけ?パチンコの歌?

お母さんの熱唱で勉強に全く集中できない…ダメ…笑ってしまう…。

さっきからちょくちょく入るノブやんってノブさんの事だよね?

お母さん…あの怖い人をもの凄く馬鹿にして歌ってるんだけど…。


「次で行けそうとノブやんは~♪べそ掻いて、追い金して…負けやぁ~ん♪」


ぷふっ。あの仏頂面でべそ掻くって…想像しただけでも可笑しい…。

お腹いたぁ…お母さん…止めてぇ。


「あ~、次どうしよっかな~?マキちゃんバージョンいくか?」


聞きたいけど…気になるけどもう良いよぉ…。

宿題終わらさせて…あと少しだけだから…。


「まま、ええわ」


良かった…しばらくは静かにしてくれるかな?今の内に終わらそう…。

あ、包丁の音が無くなった…もう少しでできるのかな?すごく良い匂いする…。


「あ、そうだ(唐突)食い過ぎた食後~、気付けばもう遅い~♪」


お母さん無駄に良い声!?あ、この曲は有名カバー曲だから分かる。


「溜まってく脂肪ぉ~、まっつんメタボ~♪」


今度の標的は松井さん!?ど直球すぎない…メタボって!?


「カロリー考え食べるぅよりも、好きに食べて太る方が良い♪」


「人はカロリーを摂るぅほど、身体に脂肪が貯まるのだから~♪」


歌詞…滅茶苦茶じゃない…原曲の歌詞どこいったの?

無駄に良い声なのが余計に際立つ…コブシとビブラートきかせ過ぎでしょ!!


「大盛りだけでは~、口寂しいから~♪」


松井さんそんなに食べるの?まぁ、この前のプリンは滅茶苦茶食べてたけど…。


「追加でデザート~、まっつんメタボ~♪」


酷い…酷すぎる…誰もが知ってる名曲が台無しになってる…。

お母さん…もう歌わないで…。


「え~と…2番どうしよ?」


しかも即興!?ふふふ…ヤバいお腹痛い…。


「あ、そうそう。夕食の合間~、お酒を飲むけれど~♪」


続いちゃった…夕食後のお酒って、おっさんみたいじゃん…まっつん…。


「これぇ飲めば平気~、カロリーハーフゥ~♪(ウェ~イ!!カロリーハーフだぁ!!味があるぞぉ!!)」


まっつん、違うじゃん!!そこはカロリーゼロでしょ!?

お母さん、バックコーラス止めてぇ!!


「ツマミが食えぬと嘆くぅよりも~、少し太ったと言わ慣れ~ましょう♪」


ツマミ食えぬのくだりが普通に想像出来てしまった…。

まっつん、これ聞いたら…本気でキレると思うんだけど!?


「気に入っていたオシャレな服は、今はもぉ着れる事は無いぃ~♪」


ぐふっ…そりゃあね!?太ったら…着れなくなるよね…。

カロリーハーフとかもうどうでも良いよ!!


「健診で医者から~、警告を受けた~♪」


健康診断で警告ってなに…。


「飾りもつけずに~(イェイイェイイェイイェイ♪)、お前、メタボ~♪(ね~やっぱり食べ過ぎなんっすよ~。お昼はあれですけどぉ~せめて夜のお酒とか~夜食とか~少し減らした方が~…)」


医者の格好をしたお母さんが…椅子に座って神妙な顔つきをしているまっつんに…、「お前メタボ」とド直球に宣告してるシーンを想像して耐え切れなくなった…。


「あははははははは!!」


「うぉ!?瑞穂ちゃん…どうしたの?」


「ヒヒヒヒフフフフフ…ゴホッゴホッ…」


お腹痛いお腹痛い…喉苦しい…。まっつん…まっつん…。


「え?え?どうしたの?」


「ひーひー…くくっふぐっ…」


「お腹痛いの?救急車呼ぶ?」


救急車→病院→お医者さん→「お前メタボ♪」と何故かそう想像してしまって…。

もう…込み上げてくる笑いが止まらなくなって…。

お母さん暫く喋らないで欲しいと…心からそう思ってしがみついた。

救急車はお母さんの足にしがみついて何とか回避できたけど…。


「あ~なんだぁ。それで笑ってただけか~」


「それでじゃ無いよぉ…ふふっ」


「お、おぅ。瑞穂ちゃんゲラやもんなぁ…ツボに入っちゃったか~」


「も、もう…しばらく身近な人の替え歌止めて…」


「え、うん…。分かった」


いつもの平和な晩の筈が…お母さんのせいで台無しになった。

久しぶりに笑い死ぬかと思ったよ…。

何とか、本当になんとか持ち直して勉強は終わらせた。


「お腹空いた~良い匂い~」


「ふぉふぉふぉ。たぁんと食いねぇ♪」


パッと見た食卓の光景に…唐揚げとか美味しそうなおかずが食卓に並んでるのを見て…想像してしまった。

まっつん…ビール片手に食べてるのかなぁ…って。

CMみたいに…かぁ~美味いとか言ったり…ぷふっ!!


「あははははははは!!」


「うぉ、瑞穂ちゃん!?どげんしたと!?」


今日は、ご飯食べるのに苦労しました…お母さんのせいで。

続きもあるよって言われて…丁重にお断りした。

もうお母さんの替え歌は聞かない様にしよう…と心の中で誓った。

あと、松井さん…ごめんなさい。暫く顔も合わせられないと思います…。

風評被害だって言うのは分かってるんです…でも、ごめんなさい。

日記にこんな事書いてる私は多分、人生幸せなんだと…そう思いました。

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