第12話 母の仕事場④
「お、おはようございます。ノブさん」
「おう」
うぉぉぉぉ!!洗え洗え!!
水もなにもかも出しっぱなしじゃぁ!!
「おい、ミヤ、何やってんだ?」
「お、ノブやん!ええとこに来たわ!ヘルプミー!!あと、おはようございます」
大手を広げて大歓迎のポーズ。
あとは、軽くお辞儀しますん。
「テンションの落差ヤバすぎだろ…。今日は肉だろ?」
「いんやぁ?肉だけやのうてこいつも押すで?」
ジャガイモさんを見せつける。
「あ?なんで?」
「大方、営業のミスやと思うで。倉庫に入りきらん。無理矢理にでも売るで?」
「お前なぁ…」
「ええから!!早う支度しぃ!!ノブやんが頼りやで!?」
「くそ…わぁったわぁった…」
「40秒で支度しぃ!!」
「無理に決まってるだろ…馬鹿か!?」
「馬鹿ですぅ!!」
ノブやんツンデレやもん。あ~助かるわ~。
強面でいつも不機嫌そうやけど、もう何年一緒にやって来たっけか?
色々教えてもうたし、私のお師匠さんやな。
「たくっ、お前馬鹿なまんまだな。全然変わらん」
「当たり前やん。助かるわ~」(揉み手)
メッチャ早いやん。流石ツンデレ。
「で、何するんだ?」
「お昼はポテトサラダ推し。晩は時間あるからコロッケとか色々出来るでしょ?じゃがバターも有りですな。美味そう…」
「ん?まぁ、行けるか」
「お客さん次第やけどね。こそっと多めです言うてリピーター増やそっか?」
「止めとけって。面倒くせぇ…」
洗い終えたジャガイモを持って行ってくれるツンデレ。やりますねぇ。
「おい、ミヤ。バゲット有ったか?」
「あるで。何に使うん?」
「ポタージュ。最近女も昼に来るだろ?」
「あ、せやったね。ノブやん、やるやん」
「うるせぇ。さっさと洗い終えろ、馬鹿」
「はい、馬鹿です。もうちょっとで終わるよ」
あ~あ、大股で歩いちゃってまぁ…。御歳やのに…転ぶで?
そっちも相変わらず怒りんぼさんやね。瑞穂ちゃんとはえらい違いや。ん?違う?
あれ、昨日怒られたばっかりだから否定できない…。
もしや、ツンデレは全く一緒!?大発見!!
「まま、ええわ」
開店まで~あと1時間チョイか。
まま…間に合うかしらん?
蛇口閉めて~水切って~はい、終わり。
「これでも一箱分だもんね…。減る気しねぇ…」
あ~腕だるぅ…。
「ノブやん、それは…まさか伝説の?」
「なんだよ伝説って…」
「ノリ悪いで。それ使うん?」
「ああ、その方が早いだろ」
ノブやん直伝コンソメくん。他もろもろの手作り出汁の元。
作るのに時間すっごい掛かるけど、時間短縮に持ってこいやで~。
「明日作るから手伝え」
「いやん」
拒否ったら睨まれた。しょぼん…。逃げられぬか…。
くそう…また鍋と灰汁との持久戦か…。
「さっさと作るぞ。言い出しっぺだろ?」
「は~い」
じゃがじゃがくんくん、剝き剥き、ダンダン!!
繰り返しの作業だけど…まぁ、ノブやんおったら楽出来ますわ。ぐふふ。
「皆集まってくれないかな?」
「あん!?」
「はぁん!?」
店長、これ以上何を増やそうというのかね?
営業のうらちゃんが土下座するなら行きますよ?
「あ、その…。新しいバイトの子がいるから…」
「バイトの子?」
「俺はパスだ。ミヤ、お前は行ってこい」
「うん?年長者さん、何言ってんの。ノブやん来んかったら駄目でしょ?」
「あん?こっちが優先だ。挨拶位なら後で出来る」
「そう言ってさ、しなさそうじゃん?」
「うるせぇ。さっさと行ってこい!」
も~、ツンデレちゃんめ~。
「どこで挨拶してますか?」
「…ああ、直ぐそこだよ。ウェイターで雇った大学生の子だよ。三村さんが連れて来たんだ」
「うーちゃんが?」
カウンターの奥でちらほらと声がする。
どんな子~?可愛い子なんか~?
「大北さん、こちら料理人の藤さん」
「藤都です。よろしゅうね♪」
「…あ、はい。今日からお願いします。
あらまぁ…可愛い子が増えましたな。おっちゃん嬉しいわぁ~。
これ、ノブやん絶対挨拶しないじゃん。
「うーちゃん連れて来たんやて?」
「ういっす、ミヤちゃん。かよを宜しくね」
「私は厨房入りっぱなしだよ?あ、私もかよちゃんって呼んでも良い?」
「あ、はい。えっと藤さん。お願いします」
「都で良いよ♪」
「かよ、ミヤちゃんでも良いよ」
「えぇ?初対面の方に!?」
「うん、ミヤちゃんでもミヤさんでも好きに呼んでね。ほんじゃ、今日もお願いします。うーちゃんやい、しっかり教えてあげるのじゃぞ?」
「はは~」
三文芝居はこんなもんで良いか。ほな戻るわ~。
ノブやん寂しがっとるやろうし…。
「遅かったな。どんな奴だった?」
「可愛い女の子で、大北佳代子ちゃん。かよちゃんって呼んであげてね。」
ほぉら、嫌そうな表情になっちゃった。女嫌いここに極まれり。
昔は当たりクッソ強かったからねぇ~懐かしいわぁ。
「ノブやん、ちゃんと挨拶してね?」
「嫌なこった。ミヤ、お前カウンターに全部運べよ?」
「えぇ!?なんでさ!?」
「これの責任だ。きっちり落とし前付けろ」
何と…見るも無残にこま切りにされて…挙句に油で焦げ目までつけられて…。
それだけでも美味しそう…。塩振って味見せえへん?マヨも有り。ケチャップもな。
「えぇ~今日だけ?」
「俺が厨房入ってる時はな」
「うそん…」
これ本気の眼や…うぅ…しくしく。まま、ええわ。
「美味しそうやん」
「当たり前だ」
ん~、マスク越しでも分かる良い匂い。
バゲット用意しとこ…。
「ポタージュのオーダー入りました」
お客様が早速いらっしゃいましたわ。
ふふ、見とけよ見とけよ?
「ぐっふっふ…」
「気色悪い笑い方すんじゃねぇよ…」
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