第11話 母の仕事場③

トントントントン…。

トントントントン…。

トントントントン…。

トントントントン…。


テンションあがらんわぁ…。

延々とキャベツキャベツキャベツキャベツ…。

もう良いんじゃないっすかねぇ…。


「店長…そろそろ別の方もしないと…」


お、そうだよ。(便乗)

チョイと愚痴って鬱憤が晴れたせいか…集中力が無くなってる様子のマキちゃんが音を上げた。

かくいう私もそろそろきついっす、賛成。


「そ、そうだね。じゃあ、マキさんは肉の方を拵えてもらって良いかな?」


トントントントン…。

トントントントン…。

トントントントン…。

トントントントン…。

キャベツキャベツキャベツキュウリキャベツキャベツ…。

あれ?なんでキュウリ切ったん?

まぁ、混ざらんかったらええか。分けとこ。


「これくらいにしよっか。ミヤさんはマキさんの補助をお願いします」


「分かりました。補助で良いんですか?」


「ええ。マキさんにもそろそろ慣れてもらわないと…」


「あぁ…確かに…。慣れれるかな?」


ザ・地獄ことキャベツの千切り…では無く、肉運び。

糞重いんだよね…あらやだ、糞だなんて言っちゃったわ…。本音ですが何か?

大型の冷蔵庫内を見渡すと、悪戦苦闘するマキちゃん発見!


「マキちゃん、いけそう?」


「むり!!」


無理か~。料理人のヤナさんと私くらいだしね。

塊で発注するなし…。安いんだろうけどさぁ…。


「そっち持って。よっと」


「へ?えぇ!?」


「ほい、持ってくよ?」


「あ、うん…」


相変わらず重いわ~。何これ?お肉ぅ…ですかね。

寒いし、重いし。この後が悲惨だし…。

鶏肉もやらんといけんね。


「牛肉と豚肉は此処置いて。これが終わったら次は鶏肉。」


「あ、うん…鶏肉は大丈夫です…」


「どしたん?何で敬語なん?」


「いや…何でも無いよ?」


「あるやん?」


「…ミヤちゃん、腕こうして?」


マキちゃんが力こぶを作るポーズをして、私も真似る。


「力入れて?」


「ん?」


言われるままに力を入れてみる。

まぁまぁ…筋肉あるんちゃうかな?


「あれ?あれ?」


「どないしたん?」


「?????」


マキちゃん…どないしたん?


「えぇ…どういう事?」


「それは私が聞きたいんだけど?」


まま、ええわ。さっさと切り落としていくでぇ?

へっへっへ。肉切包丁が唸るぜェ…へへっ。

シャァ~シャァ~……ノブやんええ仕事やでぇ~。


「マキちゃんマキちゃん、やってくぞい」


「あ、はい」


カチンコチンコの冷凍肉を捌いていきまショ~タィンム!!

いやさ、牛って脚一本でも結構な重さがあるからね。

それがこんな塊になれば馬鹿かってくらいに重いんですよ…。

私は慣れてるから良いけど、マキちゃんはまだまだ慣れてないからね。

ササっとしちゃってササっと終わらそう。


合挽用にはねておいて、こっちはこのままスライススライス。

カットカットカットカットカットぉぉ!!

冷凍だから硬いけど、このダンダンと叩き切ってる感覚…ほんとすこ♪

あ…マキちゃんの分…。


「やる?」


「…今度で」


まま、ええわ。部位ごとに切らんとあかんしの。

ほいじゃあ、豚やって鶏いこか。

ほれほれ、時間は限られてますぞ?

今日のメイン料理人はノブやんやで?

早うせんと怒られるで?


「ほいほい。ん?そろそろかな。マキちゃん、此処お願いね」


「あ、はい」


なんか反応おかしいんですけど?

まま、ええわ。


「おはようございま~す」


バイトの有田君登場。大学生で働き者。ガッツあります。


「おはよう、有田君。店長はあっちにいるよ」


「あ、おはようございます。ミヤさん今日もキレイっすね」


「お、サンキュー。娘はやらんぞ?」


「何でそうなるんっすか!?」


私とも軽口を叩ける間柄。

まぁ、此処の職場は結構フレンドリーだから馴染みやすいと思う。

ノブやん以外はね。気難しいおっちゃんやねん。私とは普通やけど…。


「こんにちわ~。あ、ミヤさん。ちっす」


「こんにちわ。いつもご苦労様です」


保冷車で肉を運んで来てくれている業者さん。

野菜類も一緒に運んでくれてるんだけど…これが重いんよ…。

今日なんて土曜日だし…多いわ多いわ。

台車にドスドス置いていってもらってる。

ふっ…ジャガイモ60キロってなんやねん…。


「今日は戦争ですか?」


「スゥ…っすかね。なにこれ?」


「ヤバいっすよね…いつもの2倍くらいありますよ?」


「せやね。2回で行けるかな~いや3回にしょ。もう一個台車持ってきます」


「あ、有難う御座ます」


とりあえず冷凍の肉を先に持っていく。おっも!!

うおおお!!唸れ足腰!!


「しんどぉ!!」


一旦台車のまま冷凍庫に放置しておく。

台車を2台コロコロと持って行こうぞ!!


「此処にもお願いします」


「助かります」


肉の台車がもう一台…ぐぅぅ。

おらぁ!!これかぁ?これが良いんか!!重いんじゃ!!

おら!!ここで待っとれよ!!直ぐに降ろしたるからなぁ!!


「これで全部…かな、サインお願いします」


「ありがとぉ……」


野菜多いっす…。

ぱぱっと確認、ん?


「あれ、これ多いんじゃない?」


「え?4・5…あ、すんません」


肉は決まってるけど…野菜は別だからね。

点検はちゃんとやっとかないと得したり損したりだからね。

お互い良くない、うん。


「え~と、他は…大丈夫かな」


「ミヤさん助かります。ぶん殴られるところでした」


「いやいや、オーバーでしょ?」


「いや、マジっすよ。俺ミスって殴られましたもん」


「…気を付けなよ?慌てちゃうのは良く分かるけど、慌てて良い事なんも無いよ」


「すよね。気を付けます」


「おう、頑張んなさい」


「あざっす。ほんじゃあ、行きますね」


「気を付けてね」


見送り完了。さて、これ多すぎぃ…。やるかぁ…。

おらぁあ!!!


「で、まぁ、置き場が無い訳なんですよね」


「う~ん。発注ミスじゃないよね?」


「発注書とぉ…一致してますねぇ」


「うん、分かった。それじゃあ、これは一旦倉庫へ置いておいてくれる?」


「分かりました。古い方を手前にしておきますね」


「助かります。手が空いたらお手伝いに行きますね」


「有難う御座います」


かぁ~辛いぜ!!まま、ええわ。

肉はもう降ろしたし…後はこの野菜どもよ…どうしてくれようか?

まぁ、倉庫に持って行くんですけどね。

玉ねぎも多いなぁ…何回泣けるかな?

あれ、ジャガイモあらへんやん。入りきらんけど…。


「発注ミスぅ…ですかね?」


店長は確り管理出来ている。入りきらんわ、これ。ワロタ。

どうしよっかなぁ~。あれするぅ?


「店長、今日は何押しです?」


「え?肉一推しらしいけど?」


「野菜も押しません?」


「えぇ…ノブさんにどう言うか…」


「あぁ、それは私から言っておきます。ジャガイモ減らしましょう。入らんっす」


「え、あ、すいません。お願いします」


「じゃあ、ジャガイモ此処に置いていきますね」


楽しよ。これしんどいわ。腕プルプルしてきたもん。

よっし、ジャガイモ祭りじゃ!!ノブやんにも頼むべや!!

あ、有田君に看板に一推し描いてもらわな。

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