第10話 母の仕事場②

「お早う御座います」


店長、待ってたでぇ!!早う開けぇ、ワレェ!!

マキちゃんの介護大変やねんでぇ!!


「「お早う御座います」」


今日の朝の仕込みは店長、私、マキちゃんで行う。

9時頃になったら他のバイトさんが清掃にやって来る。

それまでは3人で黙々と作業するんだけど…店長、図ったね?

マキちゃんと二人でやりたくなかったんやね?


「それじゃあ、着替えてから始めましょうか」


「「はい」」


女性用の更衣室へと向かいまする。

持ってきた洗い立ての作業着を着て、真っ先に調理場の掃除。

これが結構力仕事なんですよね~。

終わったら、お店側で用意してくれている調理服に着替える。

調理服は持ち帰って洗うのではなく、専用の業者さんにお願いしてる。

衛生管理は大事ですんで…。


「ふぅ、私は空樽持っていきますね」


「おねが~い」


酒樽ぅ、お前の事やぞ!軽いからええけどな!この空っぽ野郎が!!

台車にドーン!!もひとつおまけにドーン!!行くぜぃ!!

もう少ししたら来るかな?お、来た来た。いつも時間通りですな。


「お早う御座います」


「お早うございま~す。今日はミヤさんなんっすね。よっしゃ」


嬉しそうにしてくれる運ちゃんやい…何ぞあったんけ?


「おうよ。それじゃあいつもの様にお願いします」


「分かりました。今日は多いですよ?」


「大丈夫やで。心配あらへん」


「ははは。ミヤさん関西出身でしたっけ?」


「いいえ?関東ですよ」


「え?関西弁上手っすよね?」


「慣れですよ、慣れ。」


いつもお酒を運んでくれている運送屋さんと軽口を叩きながら作業する。

トラックの内側から酒樽を寄せてくれるので、それをどんどん降ろしていく。

台車にどすんどすんと、最大20キロ超のアルミ樽を載せていく。

これ重いんだよね~。


「空樽はこちらに置いてます。手伝いましょうか?」


「いやいや、そこまでしてもらったら悪いっすよ。いつもありがとございます」


「いえいえ、こちらこそ。いつもありがとうございます」


空樽をトラックへと乗せていく運ちゃんを尻目に…どっせい!!

重いけど何とか動かせる…ぬおお!!

ごろごろ~急停止出来ません、ご注意ください。


「ふぅ…。おもっ…」


お酒の管理場の扉を…○○○○っと。解錠ぉ。オープンセサミぃ…。

アホやってないでさっさと終わらそう。


「よっと。ママさんパワーを舐めるなよッと!」


決まった場所へと、種類ごとに分けていく。

ドゥラィ、ここ。ポロはここ。クリア!!はここっと。

種類多いんですよね~。店長、減らしてもええんやで?


「お酒飲まないから分からん。味って変わるんかな?」


最後の一個っと。ふぅ…良い汗掻けるねぇ~。

今日はこれこれあれあれ増えたぞいっと…。

よぅし…火をはな…ってはいけない。

扉閉めて、鍵閉めて、終了。

次は10時頃かな?

台車をゴロゴロと元の場所に戻しましょう。


「終わりました~」


「ミヤちゃん、お疲れ~」


「ミヤさん、お疲れ様です」


「いや、疲れとらんが?」(楽勝アピール)


「ほい、鍋洗って」


「う~んこのぉ」


力仕事回し過ぎぃ。まま、ええわ。


「あっ。店長、昨日はすみません」


「え、ああ。はい、大丈夫ですよ?」


明らかにきょどってますやん…。ホンマすんません。


「え、なになに?進展あったの?」


「進展?昨日さ、プリン送り間違えたんだよねぇ」


「プリン?なんて?」


「娘とさ、プリンしてたんだけどね?ちょぉっと調子に乗ってたやり取りしてたんだよね~」


「娘さんと?へ~、どんな感じで?」


「娘から好きだよって言われてさ、私は愛してるって送ってたり」


たわし片手にミュージカル風にポージング。

見たこと無いんだけどね?


「あ~、なるほど?」


「本当にタイミングが悪かったんだよね~。店長からの連絡があったんだけど…」


スマホを取り出し、店長に送ったプリンをマキちゃんに見せる。

大爆笑された。

まぁ、気持ちは分かるけどさ…こっちも恥ずかしいんだけど?


「エッチ♡って何が!?何が!?」


「だから~タイミングが悪かったの。マキちゃん笑い過ぎだって…」


「ハートマーク付いてるじゃん!!娘さんに送る気だったの!?」


「違う違う。偶々、本当に偶然だから!」


このエッチ♡は送る気は無かったよ?ほんとだよ?

大爆笑されながら反論するのが何か悔しい…。ぐぬぬ…。


「店長…くふふ…」


おっと、店長に矛先が行きそうだ。

良し、鍋を洗いに行くぜ!!店長、後は任せた!!

都、クールに去ります。


「おぅおぅ…こいつはひでぇや。洗ってやらねぇとな!」


ゴム手袋、良し。スポンジ、良し。たわし、良し。洗剤、良し。水カマン!!

スタート!!おらぁ!!オラオラ!!しんどぉ!!腕だるぅ!!

ごしごしと鍋を洗ってる合間に耳を傾ける。

店長とマキちゃん…なに話してるんだろう?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ユーモア無くてもそれっぽいの送ったらよかったんですよ」


「いや、でもさぁ…直ぐ電話掛かって来たから…」


「それこそチャンスですよ。ミヤちゃん、鈍感だし」


「いやぁ…僕もテンパっちゃって…」


「バシッと言わないと伝わらないですよ?告白しちゃったらどうです?」


「無理無理。全然仲良くなれてないのに…」


「ん~脈は無くは無いんじゃないですか?」


「…いい加減過ぎませんか?」


「ほら、当たって砕けろって奴ですよ」


「砕けたくないんですけど…」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


むぅ…聞き取り辛い…。水の音め…。

何か良い感じに喋ってるけど…マキちゃん、不倫はしないでね?

それは流石に擁護できないからね?


「ふぅ…後は…特に無いかな。油挽いて火をかけとこ」


ボワッと直ぐに点火できる。業務用コンロすげぇぜ。

熱して~水気取って~乾かして~、油ぁ!!

かる~くかる~くね。


「こんなもんかな。そろそろ着替え直すべ」


火を消して、鍋はそのまま。元栓だけ切っとこ。火事怖いっす…。


「マキちゃん、終わった?」


「あ、うん。終わったよ」


「店長、仕込みに移ります?」


「あ、はい。そうしましょうか。僕も着替えて来ます」


「はい。マキちゃん行くべや?」


「ふっ、はいはい。真顔で不意打ちは止めてよね」


ええやん。気楽に行こうや~。これから黙々作業やで?

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