第14話 母の仕事場⑥

「終わったぜ…真っ白にな…」


「早く片付けろ!」


「はぁい」


あのさぁ…お客さぁん…最終まで残らせないでよぉ…。

途中でプリンしたけど…瑞穂ちゃんの悲しい返信が残ってるんですよお?未読で。

あぁ…瑞穂ちゃん成分が足りない…。

帰ったらクンカクンカするぞい。むふふ。


「気持ち悪い顔すんなよ…」


「えぇ?だってさぁ…帰ったらムフフするもん」


「はぁ?」


「瑞穂ちゃんもう寝ちゃってるだろうな~。ちゃんとご飯食べたかなぁ?残り物で食べてくれてると良いけど…」


「中学生になったなら自炊の一つも出来るだろう?」


「チッチッチ。甘い、その考えは砂糖よりも甘い。私が作らねば!!瑞穂ちゃんボデーは私が飯で作り上げたんですぞ?」


「いや、自炊できるかを聞いたんだが?」


「出来ますよ。肉じゃがを上手に作れるんです。家庭的な良い子に育ちましたわ~」


娘自慢ならもっとするよ?いっぱいするよ?

でも、今日は早く帰ってクンカクンカするんです。

お風呂入って~着替えて~むふっ♪


「分かった分かった…。良いから手は…動いてるんだよなぁ…」


「当たり前当たり前。ほい、大体終わったかな。空樽寄せときますね~」


「おう。悪いな」


外には出さずに扉前に置いておこう。

メッチャあるわ。

うらちゃん…明日は頼むぜ?発注ミスだけはするんじゃねぇぞ?

っていうか…謝りに来なかったなぁ…あ、ノブやんのせいだ。


静かだな~って、夜側のバイトの皆ももう帰っちゃったもんね。

残ってるのは私とノブやんと店長だけ。

ノブやんが丁寧に包丁を研いでくれている音だけがやけに耳に残る。

他の細々とした事は私が終わらせよう。

って、殆ど終わりだけどね。


「ミヤさん、ちょっと良いかな?」


「なんだす?」


まだ何かあるんすか?お家に帰りたいねん。


「ちょっとだけ。ノブさん、消灯だけお願いしていいですか?」


「おう」


もうちょい愛想持とうぜ?ツンデレさんやい。いや、無理か…。


「ミヤさん、此処から離れるのに抵抗あります?」


「あるに決まってるじゃん。え…なに?クビ?」


首カットのジェスチャーをついやっちゃうんだ♪え。マジで?


「いやいや、そんな事は無いです!あれですよ、2号店の方が急に忙しくなっちゃって回らないらしいんですよ。その話が上の方から回ってきましてね…」


「ああ、なるなる。でもあれでしょ?2号店って風の噂じゃあんまり良い感じじゃ無いんじゃろ?」


良い話聞かないぜぇ~?

オックさん嘆いてたもん。わざわざ愚痴りに来たし…。

話聞いて慰めんの大変だったんだぜェ?


「えっと…まぁ…。それで、協調性の高いミヤさんが選ばれたんですよね…」


「ん~?まぁ…社長さんからの命令なら期間限定で行くけど?」


「あ、違います。2号店の店長からです」


「えぇ!?ボンから?」


マジかよ…。あの野郎、ねちっこ過ぎるんですよね~。

社長の息子で長男のボンこと、ボンボン野郎。

バイトの女の子に声掛けまくったりする奴で、偉ッそうな口だけ人間。


「ぼん?えっとまぁ、そうなんですよ」


「それなら社長にメールしといて。勝手に引き抜かれそうなんですって」


「えぇ?そんなこと…」


「いいよいいよ。私の名前出したら怒ってくれるから。気にしたらあかんぇ?」


「まぁ…ミヤさん本人に断られたら無理ですしね。分かりました、社長に連絡しておきます。マネージャーにはどうしたら良いですかね?」


「マネージャーにも一応しといて。知らなかったら知らなかったで拗ねちゃうし」


「拗ねる…」


「そうだよ。あんな飄々としてるけど心弱い子やねん」


「あ、はい」


マネージャーはなぁ…BSS(僕が先に知りたかったのに)やから…。

それに…メンタル激弱やし。叱られて凹む子やねん。41歳やのにな。


「それだけです?」


「あ、そうです。すいません」


「いやいや。私の方が無理言ってるんだから…」


社長の意向で…本当は私が店長をさせられる予定だった…。

オックさんに直訴して何とか免れたけど…。

今の店長にはむしろ、ごめんね?と謝りたいくらいなんですよね。

3年目店長、すいやせんしたぁ!!


「…それじゃ、片付け終わったら帰りましょう」


「はい。あ、ノブやんどうかな?まだ明かり付いてるし…見に行ってきますね」


「お願いします。今日も有難う御座いました」


「店長もお疲れ様です。それじゃあ、また明日です」


「はい、宜しくお願いします」


明日も朝の仕込みからじゃい!!6時前出勤!!何時間も寝れんのぅ…。

私とヤナさんと~あと誰やろ?ノブやん遅出やしなぁ。

まま、ええわ。帰って癒されたらイケるイケる。


「ノブやん帰ろ~」


「おう、何だったんだ?」


「2号店に行かへんかって話。ボンが勝手に言ってきただけ」


「ボン?あぁ、ドラ息子の方か。ほっとけよ」


「シャッチョウから怒っといてもらうわ。その方がキャーンなって大人しくなるで」


「まぁ…まぁ、任せる」


「オッケ~。オラ、けぇるぞ!!お疲れさん、明日も宜しくです!!」


「おう、鍵は閉めとくから先に上がれ」


「あざーっす」


更衣室で早着替え。オラぁん!?

調理服はかごへポーイ。私服に着替えて作業着は持って帰るべ。

女子更衣室、忘れ物無し。良し!!かえる。


「ツッツ~ルゥールゥー♪」


チャリンコ発進!いざ、かまくら!10分弱の道のり走破完了。

流石に寝てるよね~静かに開けるで~。

スゥ……カチッ。カチャ……キィィィ……。油差そか…うるさいわ。


「ただいま~(小声)、おん?瑞穂ちゃんの部屋に明かり?」


抜き足、差し足、忍び足…すぅーっとね。起きとるやん?


「寝ろぉ…(小声)」


「ひゃぁ!!お、お母さん?」


へへ、ビビッてやんの。


「何してるの?勉強?」


「…うん、ちょっと寝れなくてさ」


「ホットミルク…作ろうか?」


「あ、お願い。洗濯物とか掃除とか済ませてあるから」


「……家の子……ええ子やぁ」


感動しちゃいますん。何なんこの子…健気に笑う子やぁ…天使か?


「お風呂も温めてあるから…」


天使やわぁ。


「もう…メッチャ好き♡」


「私も大好き♡」


家の子、天使になりました。いや、元々かな?

はぁぁ…癒されるわぁ…。お母さん明日も頑張るからね♪

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