第18話 最深部

 最深部、B5。

 植物も物も何もないただ暗いだけの虚無な空間は、非常に不気味だった。


 そして、すぐ近くから声が聞こえた。


「助けて!! 助けてくれ!!」


 声の先では、大きな死神に捕まえられた学生が必死にもがいていた。


「なんだあの死神は……! 体長5 mくらいあるぞ……!」


 恐怖に足がすくむ。1秒でも早くここから逃げ出したい。


「今助けますわ!!」


 雪夜は剣を抜いて、その死神に立ち向かう。


 ゴゴゴゴゴゴゴ!!


 【闇の次元】で死神を圧倒する雪夜。

 死神にもしっかりと効いているようだ。


「はあああああ!!!」


 ザクッ!!!


 雪夜の剣は強力な闇のマナを纏っており、魔物には大きなダメージを与える。死神は捉えていた男を離して大きな鎌を抜き、雪夜の剣に対抗する。


 カキーーーンッ!!!


「大丈夫ですか!?」


 俺は落ちた男に駆け寄る。


「は……はやく逃げないと!!」


 男は慌てて逃げようとしたが、足がもつれ、転んでしまった。

 その一瞬を死神は逃さなかった。男に向かって大きな鎌が振り下ろされる。


「あぶない!!!!」

 

 その瞬間、青い光が男を護った。


 ザクッ!!!!


 床が赤く染まっていく。


「ゆ……雪夜…………!!!」


 雪夜は男を庇うように切り裂かれ、動かなくなった。


「はあ……はあ……。この人は一体……あっ……」


 カランカランカラン……


 庇って倒れた雪夜の服のポケットから、3つのクリスタルが転がった。


「ごめんなさい……! でも……ありがとう!! あなたのことは一生忘れません!」


 男は雪夜の3つのクリスタルをせかせかとかき集めてポケットに入れると、階段に向かって全力疾走した。


 俺はこの一連の流れを、ただ茫然と眺めていた。


「は…………? ごめんなさい……? ありがとう……? は…………?」


 あの、お前の「助けて」を聞いて、雪夜はフラフラの体で助けにきたんだが? 雪夜の死神に立ち向かった勇気、体を張って護った行為、そしてこれまでの何万匹と魔物を倒してきた努力……それをたったその言葉だけで……? というか、お前はいったい誰なんだ……?


 血が止まらない雪夜に向かって、死神はトドメの鎌を振りかざす。


 そもそもなんで学校の教育にこんな化け物がいるんだ……? もう何もかも全部、狂ってるだろ……。


 鎌は遠慮なく雪夜を殺しにきた。


「もういい加減にしろよ!!!!!」



 パリーーーーーンッ!!!!



 振りかざされた鎌に向かって思いっきり拳を突き上げた。ただ怒りに任せただけ。だが、鎌の先端がべきっとへし折れた。


 鎌を失った死神は両手で俺を掴もうとした。


 バキィィィィィッ!!!!!! 


 その手も思いっきりぶん殴り、骨を粉々に粉砕した。

 両手が使えなくなった死神は、俺を噛み砕こうと顔面を近づけてきた。


「うわああああああああ!!!!」


 ドカァァァァァァン!!!!!


 俺の拳は、その顔面をも粉砕した。


 カランカラン……


 クリスタルが1つ、ドロップした。


「雪夜……雪夜……!!」


 雪夜は気を失っている。お腹にバッサリと大きな傷があり、そこから血が流れてゆく。


「ああああ!!! ま……まずは拠点の治療薬で応急処置を……!」


 俺はドロップしたクリスタルを拾い、雪夜を抱えて急いで拠点へ戻った。




 バンバン!!


「おい宮本! 緊急だ、開けてくれ!!!」


 しかし、中から応答はない。


「おい!! 寝てんのか!? 頼むから早く開けてくれ!!!」


 それでも開けてくれない。


「なんだよ……朝のこと怒ってるのか!?」


 ドアをこじ開けようと思いっきりのぶを捻ると、なんと鍵はかかっていなかった。


「…………は?」


 拠点の中の道具は治療薬を含めて何もなくなっており、俺達が住んでいた痕跡は一切なかった。


「なにが……どうなってるんだ……? まさか……」


 宮本が……裏切った……?

 拠点の道具を他の誰かにあげる代わりにクリスタルを貰おうとか、そんなこと?


 こんなときに……こんな大変なときに……


「……宮本おおおお!!!!」


「はあ……はあ……」


「雪夜……!! ああっ!! 今は怒っている場合じゃない!! どうすれば…………そうだ!!」


 俺は急いである人物を探し回った。

 そしてその人物は、食堂でご飯を食べていた。


「苺……!! 助けてくれ!!」


「なによいきなり……って、その子どうしたの!?」


「今、治療薬とかないか!? とにかく応急処置できそうなもの、ないか!?」


「ほ、包帯しか……とりあえず簡単な止血くらいならできるかも……!」


 治療薬はなかったが、苺は携帯していたガーゼや包帯で応急処置をしてくれた。


「それで、頼みがあるんだ。ここに4つのクリスタルがある。で、お前は確か2つ持ってるんだったよな!?」


「ええ。……ってまさか!?」


「そうだ。合計6個だから、二人外に出られる。俺のクリスタルを全部お前に託す。だから、雪夜と一緒に外に出て病院へ連れて行って欲しいんだ!!」


「でも……私は自分の力でここから脱出しなきゃ……」


「これはお前の力なんだよ! お前の真っ直ぐで真面目な性格が、俺の信用を買った。俺はお前に頼みたいと思ったんだ。これがお前の力じゃなくてなんなんだ!!」


「……分かったわ。私に任せなさい。でも、アンタに貸しなんてないんだからね」


「ああ、もちろんだ……ありがとう……!」


 苺はコクっと頷き、ゲートの外へ向かった。

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