第8話 魂の釣り

 翌日、俺は森で集めた枝とゴミ箱で拾った糸で工作を始めた。


「できたぞ、釣り竿!!」


 そう、作っていたのは釣り竿。見た目はショボいが、意外としっかりしている。針は同じくゴミ箱に捨ててあった針金を折り曲げて作った。重りの代わりには石。最後にエサの代わりにミミズを捕まえて池に垂らす。


 ポチャン


「頼む……なんでもいいから釣れてくれ……!」


 1時間後。

 ここまであたりはない。竿をユラユラと揺らしてみる。


 2時間後。

 ちょこちょこエサを変えてみるが、まだあたりはない。


 そして3時間後、ついにヒットした。


 バチャバチャ!!!


「来たぞ!! しかも大物だ!!」


 バチャバチャ!!


 ギシ……ギシ……


「まずい! 大物過ぎて竿が持たない……っ!」


 バチャバチャ!!


「頼む!! 釣れてくれ!!! ……うわわ、うわあああああ!!!」


 ググ……バチャーーーン!!!


 あまりの引きの強さに、俺は池に引きずりこまれてしまった。


「ごぼごぼぼ!!!」


 深い池に沈んでいく。


(やばい……息が……死ぬっ……!! …………ん……あれは……)


 必死にもがいていると、池の底に何かが目に入った気がした。


 バチャ!!!


「っぷはっ!!! はあ……はあ……」


 結局竿は手から離れ、魚は逃してしまった。


「だが、何かを見つけたぞ! もう一回潜ってみよう」


 バチャン!


(やっぱり何かある。あれは……杖か……?)


 俺はそれを拾い、沖に上がった。


「魔法使いが持っていそうな杖だ。竿に使えそうだし、強度もありそうだ」


 というわけで、ダメになった1号の代わりに、今度はその杖に糸を巻き付けて新しい釣り竿を作った。長さは少し短かったが、そこらの枝に比べて強度は断然強かった。


 バチャバチャ!!


「お! 杖を竿にした瞬間、早速かかったぞ!!」


 シュッ!!!


 なんと数分もせずに、15 cmくらいの魚が釣れた。


「やった……! 釣れたああああ!!!」


 俺は集めた枝を杖でこすり、シュルシュルと火を起こして焚火を作った。

 そして、ジューっと魚を焼く。


「久しぶりのタンパク質だ……!!」


 パク。


「うまあああああああ!! 釣りたてでめっちゃ新鮮だ!!!」


 数日ぶりのちゃんとした食糧。これまで食べてきた何よりも美味しく感じた。


「よーし、もう一匹釣るぞ!」


 バチャバチャ!!


 シュッ!!


 すると、また池に入れた瞬間に釣れたのだ。


「もしかして、群れが来てるのか!? 今がチャンスだ!!」


 まさに入れ食い状態。ミミズを探すのが律速段階で、次々と釣れていった。


 バチャバチャ!!!


「うおおおおお!!!」


 夕方には60 cmもある魚も釣れた。合計20匹。

 保冷バッグはないので食べられるだけその場で食べ、大型の魚だけ持って帰り、残りは周りにいた小動物にあげた。以前リンゴをあげた子ぎつねモドキもやってきたが、今回は気前よく笑顔でくれてやった。


「大量だーー!! ご馳走だーー!!」


 家で大型の魚の切り身を焼き、晩御飯。何の魚かは分からないけど、とにかく美味しかった。


「いやー、この杖を竿にした瞬間バシバシ釣れたな。明日も釣りにいくとしよう!」


 お腹いっぱいになり、満足して眠りについた。



 ◇◇◇



 ピチピチピチ!


 翌日も大量に釣れた。


「はははは!!! まさか俺に釣りの才能があったなんてな! だが、こんな量の魚は一人では食いきれないぞ」


「お、兄ちゃん釣れてるねぇ。この世界では【生命の次元】で魚に察知されるから釣りは難しいのに、凄いなあ。ねえねえ、おじさんこのままじゃボウズでおふくろさんに怒られちゃうんだ。すまないが、一匹分けてくれないかな?」


 お腹のでた釣り人のおっさんに話しかけられた。


「まあ、一匹くらいなら……」


「おお、ありがとう! お礼にこのクーラーボックスをあげよう。大物用と小物用で2つ持ってきたんだけど、必要なかったからね」


「いいんですか!? ありがとうございます!」


 これは嬉しい。魚を外で放置するのには抵抗があったんだ。

 おじさんは大きな方のクーラーボックスを置いていくと、手を振って帰っていった。


「なるほど、大量に釣ったら人に売ればいいんだ!」

 

 俺は釣った魚をクーラーボックスに詰め、食事街の魚屋へと向かった。


「おお、なかなか活きのいい魚達じゃねえか。占めて4,000円ってところだな」


「おおお!」


 意外と高くついた。これなら結構稼げそうだ。

 俺はその4,000円で針と糸とエサを買い、さらに万全な装備を整える。これでミミズを捕まえる手間が省ける!


 その後、俺は釣っては売り、釣っては売った。そして、だんだんとおこずかいも溜まってきた。魚屋のおっちゃんともだんだんと仲が良くなっていった。


 そんなある日のこと。


「おっちゃん! 今日も頼むぜ」


「おお、兄ちゃんか。毎度あり!」


「そういえばおっちゃん、いつにも増して街がざわざわしてたけど、なんかあったのか?」


「ああ。ここ最近、謎の通り魔によって重傷者が続出しているんだ。高次元世界には警察はいないし、まったく、恐ろしくて熟睡できないぜ」


 通り魔か。ま、釣り人の俺には関係ないな。



 ◇◇◇



 そして翌日。うっすらと小雨が降っている曇天の中、俺はせっせと釣りに励んでいた。


「おっちゃーん! 今日も大量だぜ」


 魚屋の前でおっちゃんを呼ぶが、中から声がしない。店は開いているのに。


「おーい、便所か?」


 店の奥へと進むと、床に赤い液体が垂れていた。


「なんだこれ……まさか……」


 赤い液体の先には、おっちゃんが血を流して倒れていた。


「おっ……ちゃん……? おい!! おっちゃん!! しっかりしろ!!」


 俺は魚の入った保冷バッグを投げ捨て、急いでおっちゃんのもとへと駆け寄った。

 おっちゃんは虫の息で、非常に危ない状況だった。


「とにかく止血を……! 誰か、助けてくれ!!!!」


「あ……あの……私……」


「人がいるのか!! 君も手伝ってくれ!! ……って……」


 そこにガクガクと跪いていたのは、血を浴びた雪夜だった。

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