第32話 マウンテン・サバイバル その②

「へへへ……いくら俺が無能力者でも、すやすやと眠っちまった奴らは怖くねえぜ。情報によると松蔭は一度眠ると中々起きないそうだが、九重を起こさないように静かに行かねえとな……へへへ」


 佐上は木々をかき分け、静かに眠っている俺達のもとへ忍び寄る。


(それにしてもなんだここの山は。変な植物が大量に生えてやがるぜ)


 かき分けた植物には緑の虫がついていた。


(ちっ、気色悪い虫までいやがる。シッシ、邪魔だぜ!)


 佐上がその虫を払うと、虫は強烈な臭いを放った。


(うぐぐ……くせええええ!!! くそっ、高次元世界のカメムシか!!)


 佐上は必死に声を我慢し、鼻を抑えて涙目になりながら少しずつ俺達のもとへ向かう。


 ヒューーーーー……ボスン!!!


「うっ!!!」


(痛っえええええ!!! 一瞬声が漏れちまった……! 何が頭に落ちて来たんだ!?)


 佐上が上を見上げると、木に栗がたくさん実っていた。頭に落ちてきたのはトゲトゲの栗。


(ひいいいい!!! なんでよりによってここに栗の木が生えてやがんだよおお!!)


 佐上は速やかに栗の木の下を離れ、見つけた穴に隠れる。


(クソッ……この山、想像外にギミックが多いぜ……!!)


 佐上は一息ついて、フカフカの壁に手をかける。


(ふう。このフカフカの壁に手をついたら少し心が落ち着いたぜ。……フカフカ?)


 それは暖かく、スースーと寝息を立てていた。そう、眠っている大きな生物の体毛だったのだ。


(うそだろ、おい。……ト〇ロだよな? クマじゃないよな?)


 その生物が寝返りを打つと、ベアーな顔が見えた。


(ばちくそクマじゃねえかああああ!!!)


 佐上は足の震えを抑え、忍び足でその場から立ち去る。


(はあ……はあ……。死ぬかと思ったぜ……)


 汗びっしょりの佐上。

 ふとするとフルーティーな香りを感じた。


(お、こんなところに甘い香りの美味しそうな果実が。丁度緊張で喉がカラカラだったんだぜ……)


 蓋の空いた果実に手を伸ばそうとする。

 しかしそこにはハエなどが沢山飛んでいた。


 プ~~ン


(ちっ、邪魔な虫けらがよ。これは俺が見つけた恵みのフルーツジュースだぜ、絶対にやらん!)


 ブチッ!!


 佐上が蓋の空いた果実を飲もうとすると、中に大量の虫の死骸が入っているのに気が付いた。


(げえええええ!?!? これは果物じゃねえ!! 食虫植物だあああ!!!)


 食虫植物。ウツボカズラを代表とする、甘い香りで虫を誘い罠にかかった虫を消化してしまう恐ろしい植物。


(あぶねえ……飲む前に気が付いて良かったぜ……)


 九重達まであと少し。しかしまだまだ野生は佐上に厳しかった。


(うわっ!!!)


 ドテーーーン!!!!


(なんかの根っこか……? 細長いものに足が引っ掛かって転んじまったぜ……)


 足の方を見て見ると、ヘビが佐上を睨んでいた。


(ヘビ~~~~!?!?)


 ヘビがスルスルと向かってくる。


(ぎゃあああああ!!!)


 佐上は慌ててブラブラと垂れ下がっていたツルをよじ登り、ヘビから逃れた。


(はあ……はあ……焦ったぜ……。だが木の上なら安全。このまま木の上から九重達の方へ向かうとしよう…………ん?)


 目と目が合う~……。それは、我々のご先祖様、サル。

 しかも、木の実や石を投げて攻撃してくる、投げつけザル。


(でへええええ!?!?)


 サル vs 佐上……ファイッ!!!


 シュッ!! シュッ!!!


 サルが木の実を投げてくる。


(うおおおおおおお!!!)


 シュッ!! シュッ!!!


 佐上は限られた足元の中、なんとか木の実を避ける。

 しかし、とうとう顔面に直撃した。


 ベチョッ!!


「ぐはっ!!」


 目潰し&鼻潰し。態勢を崩した佐上は木から落ちた。


 ドシーーーーン!!!


(くうううっ!! まさか木の上にも危険があるなんて……! だがなんだかんだであと少しのところまで来たぜ……!!)


 佐上は顔面の果物の残骸をゴシゴシと拭う。


(なんだ……あそこになんか生えてるぜ……)


 キノコ。生えていたのは美味しそうなキノコ。


(なかなかうまそうじゃねえか……夜食にピッタリだぜ……なんて言って食うかよバーーカ!!! どうせ毒キノコなんだろうがよい!!)


 キノコはツヤツヤと輝いている。


(そんなにテカテカしても食わねえよ!! チ〇コが!!)


 佐上はキノコに思いっきりデコピンした。


 ボワンッ!!!


 するとキノコから大量の胞子が飛び出した。


「ケホッケホ!! ひひひひひひ!! かーーーはっはっははは!!!」


 そのキノコはワライダケだった。胞子を浴びただけで笑いが止まらなくなる。


(やべえ!! かははははは!! 笑いが止まらん!!! だが、絶対に声は出さねえぞ!! くっ……かはははははは!!!)


 佐上はなんとか声を出すまいと、大声ではなく、かすれ声で笑う。


「ひーーーーっ、かははははははっ!!」


 その頑張りのお陰で、俺達は夜中に起こされることはなく熟睡することができた。



 ◇◇◇



「よし、今日こそ街に辿り着こう!」


「おや……あそこに誰かいますわよ」


「きひひひひひ!!! かははははは!!」


「なんか幸せそうだな。そっとしておこう」


「ですわね」


「きゃっはっはっはっは!!!!」

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