第31話 マウンテン・サバイバル その①
「移動手段を見直しましょう。やはり公共交通機関は追われやすいですし、攻撃されやすいですわ」
「とはいっても俺達免許持ってないから車には乗れないぞ? 自転車で逃げるのは流石に無理があるし……」
「うーん……そうですわね……。あ、あそこに丁度いいものがありますわ!」
「丁度いいもの……って、え!?」
その民家には馬車が置いてあった。
「この馬車をいただいてもよろしいですか?」
「は? 何言ってんだ。この馬は高次元世界特有の種類で高かったんだぞ。俺の移動手段も無くなるし、やれるわけねえだろうが」
「5000万円、キャッシュでお支払いいたします」
「うおおおお!! 売った売った!!!」
(金持ちすぎんだろ……)
◇◇◇
ということで、俺達は馬車を手に入れて人気の少ない山道を走る。
パカッ! パカッ! パカッ!!
「あははは! 速いですわ! 爽快ですわ!」
「うぎゃあああ!!!!! うえええええ!!」
雪夜が笑いながら馬車を飛ばす。
俺は振り落とされないように必死に馬車にしがみつくので精一杯だ。
ピタッ
「あれ? 突然馬が止まりましたわ」
「はあ……はあ……死ぬかと思った……」
馬が止まったところに、ニンジンが落ちていた。
馬はむしゃむしゃとニンジンを食らう。
「って、なんでこんなとこに都合よくニンジンが落ちているんだよ!!」
馬はニンジンを食べ終え、再び走り出す。
しかしその10分後、馬に異変が見え始めた。
パカッ! パカッ! パカッ!!
「ぎょへえええええ!!!」
「ダメです、馬が暴れてしまって制御が効きませんわ!!」
「うわあああああ!! 振り落とされる!!!!」
ドンガラガッシャーーーン!!!!
馬車は壊れた。
「いてててて……大丈夫か……雪夜」
「ええ……、ですが馬が……!」
パカッ! パカッ! パカッ!!
馬車から解放された馬は駆けていってしまった。
つまり、俺たちはどこかも知らない山に取り残されてしまったのだ。
「あのニンジンを食べてから、馬の様子が不自然におかしくなりましたわ……」
「まさか、追撃者の攻撃か……!?」
「ええ、おそらくあのニンジンに馬が興奮する薬でも入っていたのでしょう。彼らは何らかの手法で、私達が通るルートを正確に把握し、先回りしてニンジンを仕込んでいたのですわ……」
「一体どうやって……」
「分かりません。しかし、今はこの状況を何とかしないといけませんわ……」
周りには何もない。あるのは壊れた馬車と、広がる山の風景だけ。
「雪夜、周りに人の気配はあるのか?」
「いいえ。私の闇のセンサーはせいぜい半径500 mですが、少なくともその中には誰もいませんわ」
「ということは、急に襲われる心配はないということか。少し安心できるな」
しかしその安心は間違いで、600 m離れた場所から双眼鏡で俺達を覗く人影があった。
「へへへ……俺は無能力者の佐上。
◇◇◇
俺達は山道を歩いて進む。願わくば誰か通らないかと期待しながら。
「なんだこの道は……全然人が通らないぞ……」
「村や街も見えてきませんし、人の気配も全くありません。最悪野宿することになりますわね……」
てく……てく……てく……
どこに繋がっているかも分からない山道を進んでいく。
そしてあっという間に夕方。
ぐう~~
「す、すみません」
「いや、しょうがないよ。何も食べて無いし、お腹もすくよな。……あ! そうだ、念のため持ってきた
カバンからあるものを取り出した。
「糸が糸を……って、一体その糸をどうするつもりですの?」
「ふふ、こうするんだ!!」
俺は杖に糸をくくりつけ、釣り竿を作った。
そしてミミズを捕まえ、釣り針に通す。
これが俺のスペシャルサバイバル術!
あのハングリー生活の賜物だぜ!!
「なるほど、あそこの川で釣りをするというわけですね! ……ですが、そんな簡単な竿で魚が釣れるものなのでしょうか」
「それが釣れるんだな。今になって分かったが、俺のマナは【生命の次元】を隠せるんだ。つまり、魚は釣り人である俺の存在に全く気づかない! だから、いとも簡単に釣れるってわけだ!」
バチャバチャッ!!!
早速一匹目を釣り上げた。
「凄いですわ!! これなら夜ご飯には困りませんわね。……あら、あれは!」
俺が釣りをしている間に、雪夜は何かを見つけたようだ。
「あれ……? 雪夜ーー、どこいった?」
「糸! あっちにバナナシャワーの木がありましたわ!」
「な、なんだそれ!?」
「以前私が地下から出た後、病院で高次元生物学の図鑑を読んでいましたの。その時に載ってあった、高次元世界特有の植物ですわ!」
バナナシャワーの木。根は浴槽のように楕円形に浮き出ており、幹についているバナナを回すとお湯が出る。さらに幹からは香ばしいバナナの香りがし、アロマ効果も抜群だ。
「つまるところシャワーを浴びられるのか!? 最高じゃないか!」
俺達は焚火に火をつけ、串刺しにした魚を焼きながら順番にシャワーを浴びることにした。
俺は裸になり、バナナシャワーの木のバナナを回した。すると葉からキラキラしたお湯が飛び出した。
「すげえ!! きもちい~~~!」
スッキリしてシャワーから出ると、丁度魚が焼けていた。
「いただきます!!」
一口目、一日何も食べなかった空腹感が一気に至福のスパイスとなる。
「うめーーーー!!!」
さらに、バナナシャワーの木の樹液は飲めるらしい。幹を尖った石で突き刺し、流れる樹液を葉のコップで汲み、一気飲みした。
「なんて美味しいのでしょう! まるで風呂上がりのフルーツ牛乳のような甘味ですわ!!」
山の中の夕食を満喫して、俺達は寝床を探した。
「すまん雪夜、寝袋一つしかないんだ……どうしよう……」
「私は一緒でも構いませんが、流石に狭いですわよね……。あっ、あれは寝袋バナナですわ!」
「だからなんだそれ!!」
寝袋バナナ。皮が極上の羽毛のような繊維でできており、中に入ることでまるで雲にいるような感覚に包まれるらしい。
「たまりませんわ!! 疲れた足に血が駆け巡ります!! そして順番に腰、体、肩、すべてが生き返るようですわ!!」
一日中歩いて疲れた体に寝袋バナナはドストライクらしい。
「そ、そんなに気持ちいいのか……?」
「糸もご一緒に寝ませんか? ちょっと狭いですが、まるで天国ですわよ!」
(何言ってんだ、寝袋バナナがどうこうより雪夜と同じ布団で寝られるのが一番の天国だわ! ……でも、流石にどうなんだ……俺は本当に行ってもいいのだろうか……!!)
「お……俺はやっぱり寝袋で寝るよ。ありがとう……」
(くううう!!! 潜在一隅のチャンスを断っちまった!! チキン!! 腰抜け!! 意気地なし!!)
「そうですか……」
雪夜はちょっと残念そうに、あっちを向いてしまった。
(ああ……俺も寝よう……)
俺達は無防備な状態で眠りについた。
「へへへ……奴らすやすやと眠りやがったぜ。このアホ共が……!」
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