第4章 真実を探す旅 -時限の使命-
第38話 砂漠にて。残り5日4時間。
ヒュゥゥゥゥゥゥゥン……シュバァァァァァァンッ!!!!
ガタガタッ……ゴゴゴゴゴゴゴ!!!
「うわああああああ!!!!」
「……!!!」
光の滑走路を走っているような一瞬の感覚が終わると、景色は一面の砂漠へと変わった。
「時谷さん!! 前!!!」
砂漠に聳え立つゴツゴツした岩に、車は猛スピードで衝突しそうになった。
「……っ!!」
時谷さんは必死にハンドルを回す……が、避けられない。
「もうだめだ!! ぶつかる……っ!!!」
「時よ止まれ!!」
ドカァァァァァァン!!!!
車は木っ端微塵に粉砕した。
「はあ……はあ…………良かった…………少しだけ時間を止められた……」
時谷さんは車がぶつかる直前に時を止め、俺を抱えて車の外へ脱出してくれたためなんとか無事だった。
「で……ですが……」
タイヤがコロコロ転がっている。車の原型はもはやなかった。
建物が全く見えない広大の砂漠の真ん中で、俺達は移動手段を失った。
「九重のせいにしているわけではないけど、九重の能力のせいで次元の歪みの制御が不安定になって、変な時空に飛んじゃった。九重のせいにしているわけではないけど」
『九重のせい』がいっぱい聞こえた……。
でも確かに、俺の能力は『次元の歪みを修復してしまう』から、『次元を歪めてタイムスリップする』時谷さんの足かせになっていたのだろう。
「ごめんなさい……。実際、目的の時間とどれくらいずれたんですか?」
「5日と4時間前だね。でも過去で良かった。もし未来に行ってしまっていたら取り返しがつかなかった」
ここは目的の時間よりも過去だから、5日と4時間後に目的地にいれば問題ないというわけか。
「良かった……。ちなみに、ここって目的地からどれくらい離れているんですか?」
「それは分からない。私はどこにいても正確な時間が分かるけど、場所は全然分からない。ここまで時間がずれていると、場所もめちゃくちゃずれている可能性がある」
「ということは、目的地から何百kmとか離れているかもしれないってことですか!?」
「あるね」
ヒュオオオ……
砂漠を風が静かに吹き抜ける。
この誰もいない、何もない、どこかも分からない場所から、あと5日と4時間後にあの森の奥地へ行かなければならないのだ。というか、あの森の奥地でさえどこか分からないというのに。
「歩くよ、九重。大丈夫、どこか知らない場所からどこか知らない場所へ行くだけだよ」
「大ピンチじゃないですか!!」
俺と時谷さんの超長距離マラソンが始まった。タイムリミットは5日と4時間。ゴールは場所も分からぬタイムスリップしてきたあの森。
「はあ……。疲れましたね……」
炎天下、カラカラの砂漠。歩き続けているだけで、体力がみるみる奪われていく。
「ちょっとあの岩陰で休憩しようか」
俺達は岩の陰で座ってもたれた。
「ああ……喉が渇いた……」
「……ちょっと待ってて」
時谷さんが立ち上がり、何もない空間をじっと見つめた。
「……」
「時谷さん、一体何を……?」
「……この場所の過去と未来をずっと見ていたんだよ。過去や未来でここを通った動物達はみんなあっちへ向かっている。きっと何かあるんだと思う」
俺達は再び立ち上がり、その方角へ向かって歩き始めた。
「オ……オアシスだ……!!」
しばらく歩くと、砂漠の中にポツンと存在する緑の広がる湖に辿り着いた。
「良かった。これで水が飲めるね」
俺達は乾いた喉に、キラキラと輝く新鮮な天然水を流し込んだ。
「あ! ラクダがいっぱいいますよ!」
俺達の飲みっぷりを見て飲みたくなったのか、ラクダたちも湖で水を飲み始めた。
「ここはこの砂漠に住む動物達の休憩場なんだね。……そうだ。九重、ラクダ乗ったことある?」
「いえ、ありません……」
「この子達、乗れないかな」
「え……?」
時谷さんはラクダへ寄り添い、しゃがめ!と命令するように座らせようとする。
「ラクダってそんな無理やり座らせるもんじゃなくないですか!?」
「座ったよ」
「ええっ!?」
見事にラクダは座った。すかさず俺達は乗りあげる。
グググ……
「た……たかっ……!!」
立ち上がったラクダの背中から見える景色は、思った以上に高かった。
ズン……ズン……
ラクダはのしのしと歩き始める。
ズン……ズン……ズッ……ザッザッザッザ!!!
「は、走り出したあああああ!!!」
「速い……! 九重、私にしっかり捕まってて!」
高次元世界のラクダはどうやら走るのが速いらしい。そのくせラクダは「右前足と右後ろ足」「左前足と左後ろ足」をいっしょに出して走るので、まあ揺れること揺れること。俺は情けなくも必死に前の時谷さんにしがみつくので精いっぱいだった。
「九重見て。街が見えて来たよ」
「ごめんなさいいい!! 目を開けれませんんん!!!」
20分くらい高速ラクダで砂漠を駆け回って、ようやく人のいる街が見えたそうだ。
「ラクダ、降ろして」
時谷さんはラクダが止まるようにコブをパンパンと叩く。
「そんな適当なやり方じゃ止まりませんって!!」
「止まったよ」
「だからなんでだよ!!!」
ラクダは素直に街の近くに降ろしてくれた。
夕方、砂漠に隣接した治安の悪そうな街を歩いていると、時谷さんが俺の体調を心配してくれた。
「九重、大丈夫?」
「うう……酔いました……」
慣れない動物の背中に20分も揺られたのだ。さらに空腹で疲れもあり、俺はゲロゲロに酔ってしまっていた。
「もう夕方だし、美味しいごはんやホテルに連れて行ってあげたいけど、今の私達にはこれしかない」
時谷さんは500円玉を見せてくれた。
「ご……500円だけ……!? あっ、そういえば俺の財布の入ったカバンは爆発した車の中だった……!」
「そう。たまたま私のポケットに入っていた500円玉が私達の全財産。カバンも持ち物も何もない」
「ど……どうするんですか!? あ、この時空の自分にお金を貰えば……!」
「それはだめ。いい、今から言う事は絶対に覚えておいて。過去に来たら、必ずしてはいけないタブーがあるの。1つ、その時空の自分に合ってはいけない。2つ、その時空の人間に大きな危害を与えてはいけない。3つ、大きな過去を変えてはいけない。これらをしてしまうと、時空のパラドックスで時空が壊れかねない。私は3つ目をしようとしている奴らを止めるためにここへ来た」
「分かりました。その詳しい目的はまた聞くとして…………俺達は今どうすればいいんですか!!」
「うん、私なりに考えた。ここはどうかな」
いつのまにか俺達は、街の中心に聳え立つピカピカのネオンライトが輝く大きな建物の前に来ていた。
「ここは……カジノ!?」
まさか、500円をギャンブルで増やそうってこと!?
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