第3章 真実を探す旅 -学園からの追撃者-

第26話 ファイト・イン・ベッド

 俺達が旅立った日の朝、学校では全校集会が行われていた。


「おはよう、学生の諸君。既に知っている人も多いと思うが、昨日我が校の所有する次元計が破壊された。これは高次元世界を壊す行為と遜色ない。我々は速やかに犯人を見つけ、それ相応の罰を与える必要がある。その犯人は、モニターに表示している『九重 糸』という1年生だ。諸君、両隣に座っている生徒を確認してくれ」


 生徒たちは隣の席の生徒を確認し、モニターに映し出された顔と比べる。


「ここまでして見つからないということは、どうやら彼は逃走したようだね。さすれば、追うだけだ。これから彼が見つかるまで授業は中止。全員ただちに彼を探し、連れ帰りなさい。彼の有益な情報を提供した者には100万円を、捕獲に成功した者には5000万円を贈呈する。協力のほど、よろしく頼む」


 淡々と話す理事長の目にはハイライトが無く、もはや狂気に染まっていた。


 全校集会の後、理事長は紫色の髪の少女に話しかけた。


「君には特に期待しているよ、時谷くん」


「……はい」



 ◇◇◇



「ん……ここは……」


 エネルギーを吸い取られて気を失っていた雪夜が目を覚ましたとき、俺達は夕日に照らされた田舎を走る電車に揺られていた。


「おはよう、雪夜」


「糸!? って、もうこんな時間ですの……!? すみません……私からついてくると言っておきながら、早速迷惑をかけてしまって……」


「迷惑なもんか。……本当にありがとう」


「ふふ、それなら良かったですわ。で、今はどこへ向かっていますの?」


「目的地は特にないよ。とにかく公共交通機関を乗り継いで、学校からできるだけ離れているだけさ」


「旅の目的は『次元計』の正体を明らかにすることですわよね。とにかく人に聞いたり調べたりして、地道にいきましょう」


「ああ。あと、ここまで遠くにくればそうそう見つからないとは思うけど、理事長が差し向けて来る追手にも注意しないとな」


『まもなく終点です。本日もご利用ありがとうございました』


「終点みたいですわね。また乗り換えますか?」


「だいぶ遠くに来たし、今日はここでいいかな。寝れそうな場所を探しに行こう」


「寝れそうな場所って……まさか、寝袋とかテントとかで凌ぐつもりですの?」


「当り前じゃないか。お金ないんだし」


「全く。貴方に仕送りをしているのは我が家なのですから、そんなみっともない考えは捨ててください」


 電車を降りて、雪夜が向かったのは食事付きのちゃんとしたホテル。


「いらっしゃいませ」


「予約はしていなかったのですが、一泊よろしいですか?」


「2名様ですね、承知いたしました」


「ありがとうございます。お世話になりますわ」



 ◇◇◇



 部屋は十分な広さで、ベッドも2つついている。


 ボワンッ!


「おお!! ずっと地下世界のハンモックで寝てたから、このふかふかなベッドと毛布に感動する……! てか、2人部屋でよかったのか?」


「節約ですわ。それに、糸が夜中に追手に襲われてもこれなら護れますもの」


「はは、さすがに今日は襲われないだろ。バスから電車を5つ乗り換えた田舎の終点だぞ? 当分居場所はバレないさ」


「それもそうですわね」


 その後俺達は温泉に入り、展望レストランで夕食を食べた。

 部屋に戻り、明日からの作戦を考える。


「まずは『次元計』の情報を集めなくちゃいけませんわ。ですが、まだ手がかりすらありません。明日はこの街の人たちに当たってみましょう」


「そうだな」


「はい。それでは明日は7時から朝食バイキングですので、6時半起きで。おやすみなさい」


 パチッ


 電気を消し、布団を被る。


 なんというか、追われているという危機迫る感じがしない。

 普通に旅行。しかも雪夜と二人きり。


「なんかもう、ずっとこのままでいいかも……」


 昨日は不安であまり寝られなかったので、俺はあっという間に眠りについた。



 ◇◇◇



「起きて……ねえ、糸くん。起きて……?」


 小声で誰かが俺を呼んでいる。


「ん……。……もう朝か……雪夜……?」


「糸くんってば」


「……えっ」


 まだ暗い中、俺のお腹の上に座っていたのは雪夜ではない、見覚えのある少女だった。


「お……お前は……ンぐっ!?」


 口に手を抑えられた。その少女とは、あの『桐山 楓』だった。嫌な思い出がよみがえる。


「静かに。隣でその雪夜ちゃんが寝てるでしょ。疲れて眠っている彼女を起こしていいの?」


 雪夜は隣のベッドですやすやと眠っている。


「てめえ……なんでここに……まさか、もう追手が……!?」


「そうだよ。私は糸くんが大好きだから、すぐに居場所が分かっちゃった」


「ふざけるなよ……お前のせいで俺はな……!」


「しーっ。許してよ、あれは罰ゲームで友達に無理やりやらされただけなんだって。本当の本当は、糸くんのことが大好きだよ?」


 顔を赤らめ、やたらとボディタッチが多い。

 夜にベッドの上でみだらに揺さぶってきやがって。

 だが悔しいことにこいつ、顔だけは可愛い……!


「……信じられるか。あんなクソみたいなことを平然とやるドブスな中身のお前なんてまっぴらごめんだ。ドブス! ドブス!」


「ひど~い! だったら試してみる? 私の中身がドブスかどうか……」


 桐山はスルスルと上着を脱いでいく。


「お……お前の目的はなんだ……! 一番に乗り込んできて、何がしたいんだ!」


「ねえ、糸くん。私ね、糸くんが好きなの。理事長に出頭したくないなら、無理にしなくていいと思う。逃げたいなら、私と一緒に逃げよ?」


 桐山は甘い声で誘惑するように囁く。


「糸くんが望むなら、私、なんでもするよ……?」


 桐山はさらに服を脱ぎだす。 


「なんでも……だと……?」


 ゴクリ……


「そうだよ……私は糸くんの味方だよ」


「お前は……俺の望むことを……なんでもしてくれるのか……?」


「うん……! 今からでも……ね……?」


 バスンッ


 俺は桐山をベッドに押し倒した。


 そして……


 桐山の尻ポケットに隠してあったボイスレコーダーを取り上げ、ぶっ壊した。


「だったら今すぐ帰って魚釣りでもしてろ!! どうせ俺を誘惑して一線を超えたらボイスレコーダーに録音し、街のやつらの正義感を煽って俺を確保する魂胆だろ! お前みたいな性格ブスが考えそうなことだぜ!!」


「チッ……! どういうわけか【生命の次元】を通じても心が見えなくなってるし、ちょっと下手にでたら調子に乗りやがって……! このビチグソが!!」


「出た出た! 人間は追い込まれると本性が出るというが、まさにその通りのようだな! ドブスな一面がお出ましだぜ!!」


「この……ぶっ殺す!!」


 シャツを羽織った下着姿で飛び掛かって来た桐山を布団で跳ね返すと、あっさりと転がっていった。


「ぐはっ!!! ……クソ……このカスが……! ……だが見てなさいよ……既に学園の学生は次々とあんたらのもとへ向かっているわ……! 高次元世界の最新技術と数々の優秀な能力者の力に圧倒されて、あんたらはあっけなく捕まり拷問に遭うんだわ……うふふふふ……!!!」


 バタッ……


 桐山は意識を失った。

 仕方ないので服を着せてあげ、ロビーへと捨てる。

 俺は優しいから、財布も盗らずにいてあげた。


「……はあ。すまない雪夜、寝てたのに起こしたよな」


「すー……すー……」


「寝てるし!!」


 後から見ると、ベランダの窓の鍵が開いていて、タコ糸を仕掛けていた痕跡が見つかった。どうやら夕食に行っている間に仕掛けられたようだ。


 しかし一件落着というわけでもない。

 まだ一日しか経っていないのに、学園からの追跡者は既にここまで迫っているのだから……。

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