第27話 チェンジ・ザ・マスク
翌日、俺達は朝食バイキングを済ませ、ホテルを後にした。
「まさか私が寝ている間に追手に襲われるなんて……。全く気が付きませんでした……」
「いやいや、気にすんなって。それより、奴らはどうやって俺達を追跡しているんだ……。GPSでもつけられたか?」
「念のため私の携帯も捨てましたわ。少なくとも、もうこの街に長居はできませんわね。情報を集めながら先へ進みましょう」
俺達は道行く人に声をかけ、『次元計』の情報を探る。
しかしながら、なかなか知っている人はいない。
そして昼頃、ついに次元計について知っているという人に出会った。
「何か知っているんですか?」
「うむ、聞いたことならあるぞ」
それは噴水に座り杖をついた老人。
「なんでもいいんです。何か教えていただけませんか?」
「構わんが、あまり外で話すような話ではない。……ついてきなさい」
俺達は老人についていく。そのとき、雪夜が俺に耳打ちをした。
「……糸、この人から闇のオーラを感じますわ。私達に向けられたものかは分かりませんが、良い人ではなさそうです。それでもついていきますか……?」
「今は人を選んでる場合じゃないだろ。見た目は明らかに追手じゃないし、少しでも情報を集めるためだ」
「……分かりましたわ」
老人は俺達を客のいない廃れた喫茶店へ連れ込んだ。
「紅茶を三人前頼む」
「かしこまりました」
老人が店員さんに注文し、話が始まる。
「それで、なんじゃったかな。わしに聞きたいことは」
「次元計についてです。次元計とは一体何なのですか?」
「次元計のう……」
「お待たせしました」
カチャ……
紅茶が俺達の前に並べられる。
ズズズ……
老人が紅茶を飲む。
「ほれ、飲んでくれ。わしのおごりじゃ」
「あの……次元計について……」
「まあ、紅茶でも飲んで落ち着きなさい」
あまりの微妙な間に話が進まないので、俺と雪夜は紅茶を飲んだ。
ズズ……ゴクッ
俺達の紅茶はカップの半分以上なくなった。それを確認した老人はすらすらと話を続けた。
「ではお主らの質問に答えよう。次元計はな、この高次元世界を形作っている道具じゃ」
「形作っている……。もし、その次元計が壊れたりすると、高次元世界はどうなってしまうんですか?」
「そりゃあ滅ぶじゃろうな。安定していた時空が歪み、崩壊していく。じゃから、絶対に、絶ーーーッ対に壊してはいけん。もし壊すようなやつがいたら……そやつは間違いなく死刑じゃな」
「死刑……!?」
「そりゃそうじゃろう。人々が積み上げてきた世界を壊し、そして殺していく。そんな重罪を犯した罪人が死刑じゃなくてなんなのじゃ」
「はあ……はあ……」
心臓の鼓動が止まらない。頭がクラクラしてくる……。やっぱり俺は重罪を犯してしまったんだ……取り返しのつかない重罪を……。
「したがって、お前は死刑ーーーーッ!!!」
「えっ……」
だんだんと目が真っ暗になっていく。なんだこれ、衝撃の事実を認識したショックか……? てかなんでこの老人は俺が壊したことを知って…………だめだ眠気が……意識がなくなっていく……。
「ははは!! ようやく睡眠薬が効いてきたようだな!!」
老人は顔をびりびりと外した。
「ど……どういうことだ……」
「これは高次元世界の最先端技術の一つ、【空間の次元】を使った変装道具さ!! 俺は学園の追手の生徒! この街に住むヨボヨボの老人に成りすまして、お前たちを捉える作戦さ!!」
「ふははは!! そしてこの喫茶店の店員の私も学園の生徒だ! お前らがゴクゴクと飲んでいたその紅茶にたっぷりの睡眠薬を仕込んだのはこの俺である!!」
(やられた……っ! この睡魔には抗えない……ここまでか……!)
「……ふふっ、そんなことだろうと思いましたわ!」
ペッ!!!
「紅茶を吐き出した!? そういえば女は紅茶を飲んでから一度も喋っていない!! まさか、ずっと口の中に仕込んでいたのか!?」
「顔は隠せても悪の心は隠せていませんわ! 老人だけならともかく、喫茶店の店員からも同様の闇を感じて確信いたしました。貴方たちが私達を騙そうとしていることを!!」
バスンッ!!!!
「ぐはっ!!!!」
雪夜は闇のパワーを込めた渾身の右ストレートで、老人に成りすましていた男を撃破した。
「てめえ!! こうなりゃ実力で拘束してやる!!」
店員もすかさず飛び掛かってくる。
シュドォォォォォン!!!
「ぎにゃあああああ!!!」
それを雪夜は闇の力でぶっ飛ばした。
「なんて強さ……やはり【闇の次元】の超能力者だという噂は本当だったのか……!」
「早く報告しなくては……本当に厄介なのは女の方だ……!」
バタッ
二人の追手は気を失った。
◇◇◇
ガタンゴトン ガタンゴトン
昼過ぎ、電車で次の場所へ移動。
俺は老人に言われたことが心に残っていた。
「俺は……本当に取り返しのつかないことをしてしまったんじゃ……」
「あの老人は偽物。理事長に吹き込まれただけの、真実は何も知らない生徒にすぎませんわ。気にしないでください」
「でも……もしかしたら本当に……」
「糸、私達はそれを明らかにする旅に出ているのです。もし真実が良くないものであったなら、その時はその時にどう償えばいいかを考えましょう」
「……ああ。そうだな」
まだ旅は始まったばかり。次元計の正体をつきとめて、俺にできることをやるんだ。それまでは捕まるわけにはいかない。
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