第2章 地下世界

第12話 地獄のサバイバルゲーム

 今日は入学式。

 俺達新入生は大きな講堂に集められた。舞台の中央には面接官の男が立っていた。


「新入生の諸君、入学おめでとう。私は3年前からこの学園の理事長をしている鹿島だ。君たちがたくさんの学校の中からこの学校を選んだ理由は様々だと思うが、おそらく最も多い理由は超能力に興味があったからだろう。今、我々も超能力が使用できる優秀な人材を必要としている。したがって、勉強も大切だが、それ以上に次元に関与する能力を鍛えるべきだと私は考えている。この学園の教育を通じて、君たちが立派な超能力者となってくれることに期待しています」


 『能力者』は次元を『感知』できる人のことで、『超能力者』は次元を『操作』できる人のこと。この学校は『チューベローズ』というだけあって、単なる勉強教育を行う普通の高校とは目的が大きく違う。


「俺もこの学校にいれば、いつかは超能力者になれるのかな……」


 そんなことを考えながら入学式を聞き流していた。




 入学式が終わると、新入生の64名は1つの教室に集められた。

 制服と鞄は学校指定のため、全員共通。


 そして、全員が入ったタイミングで事件は起きた。


 ガチャ!!


「おい、勝手に扉に鍵がかかったぞ!」ざわざわ


「開かねえ……おい、ドアも窓も開かねえぞ!!」ざわざわ


「なんだこれ! どうなってんだ!」ざわざわ


「もしかして私達、閉じ込められたの!?」ざわざわ


 教室が完全に密閉され、クラス中がパニックになる。

 そして……


 ウィーーーン


「おい、なんだあれ! 天井からなんか出てきたぞ!!」


 プシューーーーッ!!!


 天井から現れたスプリンクラーのようなものから大量のガスが噴出した。


「ケホッ!! ケホッ!! なんだこれ……!」


「なんだか……眠くなってくる……」


 バタッ……バタッ……


 次々と新入生たちが倒れていく。


「まさかこれは……睡眠……薬……?」


 そして、とうとう俺の意識もなくなった。



 ◇◇◇



「……はっ!! こ……ここは……」


 目を覚ますと、俺達新入生は荷物が無い状態で薄暗い場所にいた。周りには土でできた壁と、門が架けられた地下へと続く階段だけ。


「おい、なんだよここ!」ざわざわ


「確か私達、教室で気を失って……」ざわざわ


 周りのみんなも何が起こっているか分からない様子だった。


『さて、全員目を覚ましたようだね』


 映画のように、光で壁に映像が映し出される。


「あの人は……入学式で話していた鹿島理事長!」


「ここは何なんですか!」


『今、君たちのいる場所はこの学園の地下だよ』


「地下? どうして俺達は地下に入れられてるんですか?」


『さて、これから君たちにサバイバルゲームをしてもらう』


「サバイバルゲームだって?」


『ルールは簡単。君たちの制服のポケットに、ハート形のクリスタルがあるだろう』


 確かに制服のポケットには握りこぶしくらいの大きさの赤いクリスタルが1つ入っていた。


『それを3つ集めて、そこにある門をくぐるだけだ。クリスタルを3つ持っている者がその門をくぐると、地上へと出られる仕組みになっている』


「クリスタルを3つ集める? 宝探しでもやろうってかよ!」


『これは君たちが立派な能力者になるための試練だ。それでは、クリスタルの入手法を伝えるよ。一度しか伝えないからよく聞きなさい。一番簡単な方法は、半年間そこで生きることだ。半年間経つと自動で君たちのポケットにクリスタルが1つ配布される』


「は……半年だって!? 3つ集めるためには1年間もこの地下にいないといけないってことですか!?」


『クリスタルの入手法は他にもある。それは魔物を倒すことだ。君たちのいる地下は5階層からなる。まずB1が君たちの今いる、門があるだけの狭い空間。B2は食堂や温泉、寝床などが整備された安全区域。これらの使用は無料だから自由に利用してくれ。B3は小さな魔物が存在するフロア。小さな魔物はそこまで危険ではないが、倒してクリスタルがドロップする確率は0.1%。続いてB4は中型の魔物が存在するフロア。中型の魔物は手強いので下手な戦闘をすると大けがを招くリスクはあるが、クリスタルをドロップする確率は10%。そして最深部のB5は大型の魔物が生息するフロア。大型の魔物は真っ向から戦闘をすると命が危ういが、もし倒すことが出来れば100%クリスタルがドロップする。説明は以上だ。検討を祈る』


 画面はそこで途切れ、理事長の声も聞こえなくなった。


「おい、ふざけんなよ!! こんなの拷問じゃねえか!! 外へ出せ!!」


「そうだそうだ! ここから出せ!!」


 新入生軍団からなるブーイングが始まる。

 しかし、どれだけ呼んでも理事長の映像は帰ってこなかった。


(……一見強硬手段だが、俺にはそこまで酷いとは思わない。あくまで教育、鍛錬だ。食事も保証されてるなんて、これまでの俺の生活に比べりゃ随分マシ。この試練をクリアして、俺は能力者に目覚めるんだ!)


 周りが絶望し動揺している中、俺はすぐに状況を受け入れ、誰よりも早く地下への階段を進んだ。


 長い階段を下り終えると、階段の裾に手を組んだ男が壁にもたれかかっていた。


「ほう。一番乗りは君か」


「人……!? なんでここに人がいるんだ……!?」


「ははは。それはな、お前の先輩の中には未だにクリスタルを3つ集められず、ここから脱出できてないやつが山ほどいるからさ」


「あれ……だが、遅くても1年経てば3つになるんじゃ……」


「ああ。それがうっかり無くしちまってさ。魔物と戦ったりしてると1年も無くさずに持っておくってのは結構難しいんだぜ?」


 確かに。俺は1年という期間を舐めていたのかもしれない。


「だが、お前にとってはチャンスだ。ベテランの俺から色んなことを聞ける。こんな不気味なゲームをすぐに受け入れ、1番乗りでB2へ降りてきたお前は他の雑魚とは違うようだしな」


(生きた。苦難を試練と受け入れて前へ進んだのが生きたんだ! 同級生のみんなには悪いが、俺はこの人からこの地下で生きるコツを学んで1番に出て行ってやる!)


「ついてきな。えーっと……」


「九重です」


「九重か。俺は大川だ。よろしくな」


 こうして地獄のサバイバルゲームが始まった。

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