第13話 またやられた

「まず、ここが食堂。飯代はタダだが、白飯とメザシと味噌汁だけの貧しい食事だ」


 大川さんは最初に食堂を紹介してくれた。土でできた椅子付きの台がずっと広がっていて、カウンターから食事が受け取れる仕組み。


「メニューはずっと変わらないんですか……!?」


 最近雑草をしゃぶっていた俺でさえ、最長1年間もこの食事は嫌だ。


「ああ。だが、嫌なら自分で収穫すればいい。魔物がドロップするのはクリスタルだけじゃねえ、食材や武器になりそうな物とか色々ドロップするんだ」


「あの……ドロップってなんですか? 魔物は本物の動物じゃないんですか?」


「ここにいる魔物は学校側が次元を使って生み出した物らしくて、倒すとゲームみたいにアイテムがもらえるんだよ。ただし俺達へのダメージは生身でくらうから、普通に痛えけどな」


 食堂を出て、ランタンで灯された迷宮のような細くて薄暗い道を進むと、壁にいくつもの扉がつけられた場所に着いた。


「ここ一帯は個室の寝床だな。内側から掛けられる鍵がついてあるから、寝るときは安心して寝られる。空いているところは自由に使っていいぞ」


 扉を開けると部屋には土でできた台と椅子、そしてハンモックがあった。布団はないが、気温は温暖なので熟睡できそう。


 寝室を出てさらに道を進んでいくと、『ゆ』と書かれた垂れ幕を見つけた。


「ここが温泉。せっかくだし入って行くか」


 青い垂れ幕をくぐり、脱衣所に移動。

 俺と大川さんはまず制服を脱ぎ、続いてシャツ、そしてパンツと靴下を脱ぐ。


「あの……服ってここにいる間使いまわすんですか……?」


「そうだぞ。だが『瞬間洗濯機』っていうのがあるんだ。ほら、下着を持ってこっち来な」


 そこにあったのは、小さな洗濯機。


「洗いたいものをここに入れて、ボタンを押すだけだ」


 俺はとりあえずパンツとシャツと靴下を入れ、ボタンを押した。


 ゴゴゴ……チーン


「ほら、もう終わったぞ」


「え!? まだ5秒も経ってませんが……」


「いいから取り出してごらん」


「えっすご……! もう乾いてるし、すっごくいい香りする!」


「【時間の次元】を活用することで、一瞬で洗濯を終えられるそうだ」


 バスを広くしたり、魔物を作ったり、洗濯まで速くできるのか。次元ってすごいな……。


「じゃあ、肝心の風呂へ入るとしますか!」


 ガラガラ……


 風呂場には広い浴場が一つ。そして周りにシャワーが20個ほどついている。

 俺と大川さんは身体を洗い、湯に浸かる。


「ああ……気持ちいいです……」


「だろ……。サウナとかはないが、そこそこリラックスできるぜ…………んっ!?」


「大川さん、どうしたんですか?」


「き……急に腹が……!! すまん、ちょっとウ〇コに行ってくる! すぐ戻るから待っててくれ」


「は、はい……」


 大川さんはお尻を抑え、慌てて脱衣所のトイレに向かった。

 俺は一人になり、貸し切り状態の温泉を一人で満喫する。


「いやあ、大川さんと出会えてマジでラッキーだったな。同級生は今頃右も左も分からないだろうし。ククク……!」


 大川さんがトイレにいってからしばらくが経過した。


「……大川さん、遅いなあ。よっぽどお腹を下してるのかな」


 さらに待っても、大川さんは帰ってこなかった。

 この感じ、どこかで味わったような気がするが……。


「さすがにおかしい。もう20分以上経っている。まさか、トイレで倒れているんじゃ……!」


 俺は急いで脱衣所のトイレを見に行った。

 しかし、そこに大川さんの姿はなかった。


「あれ……どこ行ったんだろ……」


 大川さんを探していたその時、異変に気が付いた。


「大川さんの服がない……。先に出て行っちゃったのかな?」


 どうしようもないので、俺も服を着て出ようとしたところ……


「…………クリスタルが……ない……?」


 入れていたはずのポケットに入っていない。

 籠に落ちているわけでもない。


「ま……まさか……!!」


 盗まれた。開始早々、俺のクリスタルが大川さんに盗まれた。

 よくよく脱衣所を見ると、ちゃんと鍵のついたロッカーがある。大川さんは俺に色んなことを教えてくれたのに、この入浴中にクリスタルを保管するロッカーのことだけは教えてくれなかった。

 

 その理由として考えられることはただ一つ、俺からクリスタルを盗むためだ。


「くそっ!!」


 俺は着るものを着て、とにかく走った。クリスタルが3つになった今、大川さんが目指す場所は門しかない。


 タッタッタ!!


「ちくしょう……ちくしょう!! なんで気づかなかった!! 半年に一度貰える? 魔物からドロップする? それより簡単な方法があるじゃねえか!! 人から奪えばいいんだ……! 大川さんはクリスタルをなくしたわけじゃない。こんな大切なもの、間違ってもなくすもんか! 大川さんも、過去に誰かに盗まれていたんだ!!」


 そう、最初からクリスタルが配られていたこと自体が不自然だったのだ。


 タッタッタ!!


 B1へと結ぶ階段へたどり着いた。そこには、怯えながらB2へ下ろうとする同級生がちらほらいた。


「あ、糸! もう、探しましたわよ。あの、よろしければ私と一緒に……」


「雪夜! 今ここから上がって来た人、いなかったか!?」


「え……ええ、凄い勢いで駆け上がってくる人がいましたわ。その人は門をくぐった瞬間に消えてしまいましたので、皆さん驚いておりました」


「や……やられた…………」


 俺はガクっと膝をついた。


「ううっ……ううっ……なんて馬鹿なんだ俺は!! 失敗から何も学んでないじゃないか!! これで半年無駄にしたのか……? こんなことで……!」


「い、一体どうしたんですの……?」


 これは単なる魔物を倒すゲームではない。周りの人はみんな敵なんだ。下手をすると1年どころか何年もこの地下で過ごすことになるぞ……!

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