第19話 ふりだし

 地上のとある病院で、手術中のランプが消えた。


 ガラガラ


「……!! あの……手術は……!!」


「大丈夫ですよ。手術といっても、急所は外れていて縫合しただけですし」


「あ……ありがとうございます……!」


(松蔭さんは大丈夫みたいよ。だから、アンタも早くこっちに来なさい……!)



 ◇◇◇



 地下に放り出されて4カ月。俺はまたクリスタルが0個に戻ってしまった。今度は稼ぎ頭の雪夜もいない。拠点の道具も全て盗られた。まさに絶望的。


「雪夜は大丈夫だろうか……」


 1人部屋のハンモックにぶら下がり、土でできた天井を見上げる。


「はあ……俺一人で3つもクリスタルを集めるのはまず無理。誰かの力を頼りたい……」


だが、人はギブアンドテイクで動く。これまでの仲間とうまくいっていたのも、あくまで雪夜という圧倒的なギブがあったからだ……。結局、俺一人では何もできない。


 3つ入手できた時点で、すぐに地上へ帰るべきだった。あれが無力な俺にとっての潜在一隅のチャンスだったんだ。


「ああ……クソッ!! あのB5にいたクズと宮本をぶん殴りてえ……!! あいつらがいなければ……あいつらが……!!」


 考えてみれば宮本はいらなかった。雪夜と二人で普通に過ごしていれば、すぐにでも外に出られただろう。


「あの時の俺はなんて馬鹿だったんだ……! あんな役立たずのクズに手を差し伸べて……」


 考えれば考えるほど湧き出る後悔。だがいくら後悔しても、クリスタルは返ってこない。

 俺は武器もなにもない状態で魔物の潜むB3へ向かった。




「うっ……ううっ……!」


「…………え?」


 B3へと続く階段を降りたところで、聞き覚えのある泣き声が聞こえた。


 そう、そこには小太りの男……宮本が以前のようにうずくまって泣いていた。


「て……テメエ!!!」


「!! 九重さん!? どうしてここに……!!」


 ガシッ!!!


 俺は宮本の胸ぐらをグイっと掴み、壁に叩きつけた。


「お前のせいでな……お前のせいで雪夜はな……!!!」


 俺は溢れ出る感情をグッと手に込め、全てを話して心をへし折ってやろうと思ったが、もはやそれらすらも無駄に感じたので、これ以上は何も言わなかった。


 一方、宮本はベラベラと喋ってきた。

 俺達に見捨てられたと考えた宮本は、とある団体に武器や道具とクリスタルを交換する交渉をふっかけたらしい。相手はその条件を承諾したが、武器を渡した途端にすっぽかされて逆上。殴られ蹴られ、挙句の果てに力ずくでクリスタルまで奪われたという。


(救えねえ……クズが。自業自得だ)


 俺は宮本を地面に放り投げて魔物狩りへと向かった。


「待ってくださいっす!! 置いて行かないでくださいよ! さっきはともかく、俺達仲間だったじゃないっすか!」


(仲間……? この後におよんでどうしてそんなセリフが吐けるんだ……! 俺達はギブしかしてねえ……あいつから得たテイクは裏切りだけ……!)


 俺は振り返らなかった。ただ、不思議と涙がボロボロと溢れてきた。


 俺が去った後、宮本のもとへ数人の男が歩み寄った。


「……宮本、あいつか? 大量のクリスタルを持ってるってのは」


「はい。もう一人はおそらく留守番でもしてるのでしょう。あいつらは合計5つのクリスタルを持っています」


「強えと言っていた女は留守番か。こりゃ都合がいいぜ……。だが分かってるな? あいつからクリスタルが奪えなければ、本当にテメエのクリスタルを剥奪するからな」


「はいっす」


(九重さん、あそこでもう一度手を差し伸べてくれたらこうはならなかったんすよ……。これは当然の報いっす)




「ああ……うあああ……!! くそっ!! くそおおお!! もう誰も信用なんかするもんか……! 一人で戦ってやる……俺一人で!!」


 感情の整理ができていない中ゆらゆらと魔物を探していると、突然後頭部に激痛が走った。


 バスンッ!!!


 その鈍い音と共に、俺の意識は遠のいていった。



 ◇◇◇



「…………っは!!」


 意識を取り戻すと、そこは見慣れない寝室の中。

 俺は手足をロープで縛られ、身動きが取れない状態。


「一体なにが……あれは!!」


 あたりを見回すと、寝室にもともと俺達の物だったキッチン道具や武器が並べられていた。


「目覚めたようだな」


「誰だてめえ……」


「俺は新庄。ここを拠点とするパーティーのリーダーだ。早速だが、お前のクリスタルは今どこにある?」


「クリスタル……? いい加減にしろ……俺は今1つも持っていない!!」


「嘘っす!! こいつらは少なくとも5つのクリスタルを隠し持っているはずっす!!」


 俺の隣で縛られていた男が声を張り上げる。


「あ……? お前は宮本…………まさかテメエまた……!!」


「はいはい。しょうもないいがみ合いは後でやってくれ。いいか少年、俺もできれば手荒な真似はしたくないんだ。パートナーの女の子が持っているんだろう? 早く居場所を吐きな」


「ふざけんなよ……雪夜はこの宮本のせいでな……お前のせいでな……!!」


 我慢できず、俺は地下で起こった出来事を話した。


「昨日、B5で盗まれただと? ふふふ……あははは!!! そういうことか!! あいつが拾ってきた3つのクリスタルはお前たちのだったのか!」


 新庄は上を見上げて話す。


「あいつだと……? 何言って……」


「ン……ン……!!」


 見上げると、昨日俺達からクリスタルを奪ったあいつが、宙で吊られてうめき声をあげていた。


「お……お前はB5にいた……!!」


「合点がいったよ、九重くん。君にはもう用はない。だが……」


 新庄が宮本の方へ歩み寄る。


「余計な手間をかけさせてくれたな。このカスが!!!」


 ボコッ!!!


「ぐはっ!!!」


 宮本は腹を思いっきり突き上げられた。そして、ポケットにあった二つのクリスタルをさらわれてしまった。


「じゃあな、クズども。とっととこれで縄をほどいて散れ」


 バタンッ!!!


 新庄は縛られた俺達を寝室の前の廊下に放り出し、目の前にナイフを滑らせると勢いよく扉を閉めた。

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