第20話 逆襲の糸口

 ナイフで縄をほどき、3人の弱者が廊下に座る。


「……最後に聞かせてくれ。お前はどうしてB5であんなひどい行動をとったんだ?」


 庇った雪夜を見捨てた上にクリスタルを奪い、その場から逃走した男、森田に尋ねる。


「ごめんなさい……。でも僕はこのパーティーでいじめられてて……あの場はああするしか……」


「そもそもなんであんな危険な場所に。B5の敵と戦うと命が危ないって理事長も言っていただろ」


「分かりません……新庄さんが下見をしてこいって言うから……」


(駒……指示待ち人間……一生人にこき使われる哀れなクズ。呆れを通り越してコイツに対しての感情がない。……だが、下見ってどういうことだ? 新庄達はB5に行く予定でもあるのか……?)


「答えろ、何の下見だ」


「え……。僕にも分かりませんが、魔物が何なのかを見て来いって……。そしたらクリスタルをやるって言われたから……」


「どういうことだ」


「B5の魔物は常に1匹だけ潜んでいて、倒されるまでは変わらないそうです……。その魔物は死神、大蜘蛛、ドラゴンの3種類らしくて……。ですので、僕は彼らに死神だったと伝えました」


「うっ……うっ……」


「あれ……?」


 森田の話と見飽きた宮本の泣き顔を見て、俺はある事実に辿り着いた。


(森田と宮本、合わせて5つのクリスタルを新庄に奪われた。新庄達のパーティーは5人。5つも奪っておいてまだ誰一人外へ出て行かないということは、これまで1つも自力でクリスタルを集められていないんだ。あと2カ月で6カ月に1度のクリスタルの配布が行われるが、奴らは2カ月間何もせずに待つのか?)


 その時、2カ月を待てないで泣きついてきた宮本の顔が思い浮かんだ。クズは2カ月すら我慢することができないのだ。


(あのクズどもが、2か月も待つわけがない……。しかし、奴らは効率よくB3の魔物を倒せない。なるほど、それで森田の話にあるように、100%クリスタルがドロップするB5に一か八かの勝負を仕掛けようとしているんだ。だが、あんな危険な場所にはよほど腕に自信がないと行けないはずだが、奴らには何か勝算があるのか……?)


 そう考えた時、先ほど拘束されていた部屋で、金色に輝く巨大な武器があったのを思い出した。あれは俺達のパーティーから奪ったものではない。


(もしかして、あの金色の武器になにか秘密があるのか……? だとすると、奴らはB5の敵はまだ死神だと思っているから……あれ、うまくいけばクリスタルを奪い返せるんじゃ……!!)


 俺は逆襲の糸口を掴んだ。



 ◇◇◇



「ああん!? 黄金の武器の情報だとォ!? そんなもんが欲しけりゃクリスタルを出せ! マヌケが!!」


 だが、情報集めはうまくいかない。

 すかんぴんの俺に情報を教える都合の良い人はいない。


 それも、それなりに攻略が進んだ玄人や大きなパーティーしか知らない情報であるため、みんなクリスタルに飢えてピリピリしている。


「まずい……早くしないと奴らが勝負に出てしまう……。なんとか黄金の武器の情報を得ないと……!!」


 食堂で頭を抱えていると、片腕を包帯で吊ってある黒髪の少年が声を掛けてきた。


「こんにちは。君が最近黄金の武器についての情報を探っているという少年かい?」


「ああ……。あなたは……?」


「俺は西城。一時は強いパーティーに入っていたんだけど、仲間が外に出た後に骨折してしまって今は戦えないんだ。でも、情報ならたくさん持っているよ」


「もしかして、黄金の武器についても……」


「知っている。でも、タダでは教えない。クリスタル1つだ。飲めるかい?」


「……悪いが、俺はクリスタルを1つも持っていないんだ。この話はなかったことで……」


「今じゃなくていい。君が今しようとしていることを達成した後でいい。黄金の武器を探るなんて、クリスタルが山ほど動くような話なんだろ?」


 見透かされている。ただものではない、西城からはそんなオーラを感じた。


「分かった。俺の野望が終わった後でよければクリスタルを1つ差し出そう」


「交渉成立だね。君の名前は?」


「九重」


「じゃあ九重、場所を変えようか」


 西城は俺を寝室へ連れて行った。



 ◇◇◇



 西城の部屋は武器や道具がたくさん置いてあった。


「一人暮らしだろ? 留守番もいないのにどうして誰にも盗まれないんだ?」


「外から鍵をかけられるアイテムもあるんだよ。さて、本題に入ろう。黄金の武器について何が聞きたいんだ?」


「まずは黄金の武器でできることを教えてくれ。俺が見た黄金の武器は大砲のようだった。B5の敵と関係があるのか?」


「察しが良いね、その通りだよ。黄金の武器は、B5の敵に特化した特殊な次元のパワーを持った武器だ。大砲の場合、魔物の種類によって弾を選ばなければならないが、弾がちゃんと命中すれば一撃で倒せるらしい」


「魔物の種類というと、死神、大蜘蛛、ドラゴンのことか?」


「そう。B5の魔物はその3種類のどれかがいて、倒されると順番に変わっていく。そして、その3種類に適した弾を積んだ大砲でB5まで向かう必要がある」


「つまり、相手を知ったうえでB5に乗り込まないといけないのか」


 なるほど、だから新庄は森田に偵察に行かせて魔物の種類を特定したんだ。


「西城のパーティーはB5の魔物を倒したことがあるのか?」


「ああ。1回だけ、大蜘蛛を倒したことがある。15人のパーティーで戦って何とか勝てたけど……相当手強かった」


「そんなに……。俺、この前素手で死神を倒したんだけど……」


「素手で……!? さすがにそれは気のせいだと思うよ。B5の魔物は次元を纏った武器で大勢で切りかかってもだいぶ時間がかかるんだ。素手で勝てるのは、圧倒的なマナを持つ超能力者くらいなものさ。それに仮に君がそうなら、B3の敵を次々と倒せるから既に外に出ているはずだよ」


「それもそうだな……」


 あの時はきっと、雪夜が無意識に力を貸してくれていたのかもしれない。そうでないと説明がつかない。


「さて、次は俺に教えてくれよ。君は一体何を企んでいるんだい?」


 西城はニヤリと笑いながら尋ねた。

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