第15話 パーティー

 翌日の朝、朝食を食べに雪夜と食堂へ行く。

 大きな土の台で生徒たちが食事をしている。おぼんで配られる質素な食事を受け取り、空いている席に座る。


「あら、眠そうな顔。昨日はよく寝られませんでしたか?」


 雪夜が心配そうに声を掛けてくれる。

 夜中、地下へ魔物狩りに行ってみたものの1匹も倒せず、単に睡眠時間だけが減ったのだ。


 食事をしていると不意に隣の席に座っている人物に目が入った。そう、それは赤砂寮で俺と部屋が繋がっていたあの時の女の子だった。


「あ、お隣さんじゃないか」


「ん? 誰よアンタ」


「部屋が繋がっていて一回会っただろうが! 忘れたのかよ!」


「忘れたわ。じゃあね」


 赤髪の少女はさっさとご飯を食べ終えて、スタスタと行ってしまった。


「なんだよ、相変わらず不愛想なやつ」



 ◇◇◇



 朝食を済ませ、俺と雪夜はB3へ魔物狩りに出かけた。


 しかし相変わらず魔物はなかなか倒せない。

 コツがあるらしいが、それが分からない。


 あっという間に時間が過ぎ、そろそろ昼飯に行こうと考えていたそんな時だった。


 バチュン!! バチュン!!


 雪夜が一気に2匹の魔物を倒した。


「雪夜! 今何をしたんだ!?」


「ま……まさか……魔物を倒すためには……!」


 パチ……パチ……


 手を叩きながら、先輩らしき男が歩みよってきた。


「見せてもらったよ。素晴らしい才能だ。君、俺達のパーティーに入ってくれないか?」


「パーティーとは?」


「一緒にこの地下で生き抜く仲間さ。入ってくれるのなら、俺達がこれまで培ってきたノンハウを教えてやるぜ」


「ノンハウですか……。糸、どう思いますか? 貴方の判断に任せます」


「あんたたちを信用できるかどうかだ。俺達を裏切らない保証はあるのか?」


「ははは。俺は別に君に入ってくれとは頼んでいないが、まあいい。信用できるかどうかの保証は難しいな。逆にどうすれば信じてくれる? むしろ、何を疑ってるんだ?」


「そうだな。じゃあ約束をしよう。お互いのクリスタルは絶対に奪わない。今はそれを誓ってくれるだけでいい」


「なんだ、そんなことでいいのか。約束しよう。パーティー内でのクリスタルの盗難は厳禁だ。そのかわり、お前たちも守れよ」


 俺と雪夜はパーティーに入ることになり、拠点としている大きな寝室に案内された。

 拠点には4人の男がいた。リーダーの名前は原田。そして武谷、川野、田村、川原。


「みんな注目、新しい仲間が加わったぞ。松蔭と九重だ」


「おお、女の子じゃねえか! 可愛ぃ~」


「よろしくぅ」


 自己紹介が終わると、早速作戦会議が始まった。


「さて、仲間の印に俺達の知っている情報を話そうか。まず、ここにいる魔物は次元で作られた存在だということだ」


 大川も言っていた。地下に存在する魔物は本物の生命体ではなく、学園側がなんらかの方法で次元を使って生み出した物体だということを。


「だから、次元による攻撃にめっぽう弱いのだ」


「次元による攻撃……!? そんなのどうすれば繰り出せるんですか?」


「キーワードは『マナ』だ。マナとは、高次元世界で生きると自然に人の体に溜まっていく次元に関わるためのパワーだ。マナには個人差があって、それが強ければ強いほど次元に関わる力も強くなる。例えば、超能力者と呼ばれる次元を操作できる一握りの連中のマナは強力で、武器も何もなしに魔物を倒すことができる。超能力者でなくても、武器をずっと持っているだけで武器に俺達のマナが蓄積されていくから、マナが溜まった武器で攻撃すると魔物は朽ちる」


 すなわち、魔物を倒すにはマナを通じて次元のパワーを持った攻撃を繰り出す必要があるということだ。マナは道具に溜められるらしく、マナの弱い無能力者は武器などの道具にじっくりとマナを溜めて戦えば良いらしい。なるほど、地下の試練はそうやって次元を利用できるようになることが目的なのかもしれない。


「俺はさっき、松蔭が魔物に触れることなく魔物を倒すのを見た。あれは間違いなく超能力者である証拠だ」


 雪夜は道具を必要とせずに【闇の次元】を操作できる。その力は、この世界にとって非常に有効なようだ。


「したがって、松蔭は常に前線で戦ってもらう。それに3人がついていき、拠点を護るために2人はお留守番、それをローテーションで回すぞ」


「あの、得られたクリスタルはどうなるんですか? ゲットした人のものだと、お留守番が不利になる気がしますが」


「順番だ。松蔭には少し悪いが、クリスタルは順番に配布していく。その代わり俺達は後回しでいい。松蔭、九重、武谷、川野、田村、川原、そして俺の順だ」


 俺と雪夜以外は、全員あと1つで3つになり、外に出られるらしい。


「分かりましたわ」


「よし。それじゃあ、早速出撃だ!」


 俺達のパーティー生活が始まった。



 ◇◇◇



 今日は俺と武谷さんがお留守番。

 武谷さんはエプロン姿で俺に言った。


「いいか、疲れて帰って来るみんなのために、俺達はうまい飯を作るんだ」


「飯……? 材料とか食器はあるんですか?」


「ああ。魔物からドロップする物の中には、武器以外にキッチン用具や治療道具、食材もあるんだ。ほら、そこに色々あるのは俺達が1年間かけて溜めたアイテムさ。武器も好きな物を自由に使うといい。じゃ、まずはこのジャガイモを剥いてくれ」


 地下でまさかの料理タイム。カレーを煮込み、帰ってくる皆を待つ。


 バタン


「帰ったぞー!!」


「おかえりぃ。収穫はあったか?」


「なんと! 早速クリスタルがドロップしました!!」


「「おおおお!!!」」


「やっぱり松蔭ちゃんすげえわ。今日1日で100匹くらい倒したんじゃね?」


「さすが期待の新人! さ、飯はできてるぜ」


 男どもはガツガツとカレーを食らう。

 作った側としては、こんなにも勢いよく食べてくれると嬉しいものだ。カレー自体、食堂の飯より豪華な夕食だが、それ以上に大勢でワイワイ食べれて美味しく感じた。


 この大部屋にはたくさんのハンモックがある。

 夏のセミのようにやかましい男どものいびきの中、少しだけほっこりとした気持ちで眠りについた。

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