第22話 復讐
まだ状況が理解できない。
なんで今、俺は地べたで這いつくばっているんだ……?
……なんで今、俺は後ろから攻撃を受けたんだ……?
西城は俺に投げたものと同じ痺れ玉を大蜘蛛に向かっていくつも投げつける。大蜘蛛も痺れて動けなくなった。
「よし! お前ら、今がチャンスだ!!」
西城は助っ人のパーティーとともに壁に拘束された新庄たちのポケットを漁り、クリスタルを次々と奪い取っていく。
「何すんだテメエ!! この糸を外せ!!」
「すまないね。俺が欲しいのはクリスタルだけなんで」
「殺す……殺す!!!」
「ははは。生き延びれたら、是非どうぞ」
お留守番の1人を除いた、新庄たち4人の8個のクリスタルを手にした西城と助っ人パーティーは階段へ向かって逃げていく。どうやら、西城と助っ人はもともとグルだったようだ。
「西城……お前……俺を裏切ったのか……?」
「ここへきて4カ月も経って、君はまだ気づかないんだね。後払いのクリスタルなんかで誰が動くかよ」
ああ……もう何度目だ。俺はいつになったら学習するんだ。騙さなきゃ騙される。信じられるのは自分しかいないってあれだけ思い知ったのに……目的に目が眩んでまた忘れてしまっていた……!!
西城達は階段を上がり、残ったのは痺れて這いつくばっているいる俺と壁に束縛された新庄達……そして、俺と同じくこの作戦を聞かされておらず、痺れ玉を食らった少女がいた。
「ひっく……どうして……」
おそらく、この二宮という子は囮。俺があのパーティーを信用したのも、この子の素直な反応があったからだ。それもそのはず、奴らは俺を引っかけるために、この子にはわざと作戦を聞かせなかったのだから。そして無残に捨てられていく。
しばらくすると、だんだんと体の痺れが取れてきた。大蜘蛛はたくさんの痺れ玉を食らった分、まだ動けないようだ。
「せめて逃げよう……! 俺は計画を失ったが、別に今回はクリスタルを失ったわけじゃない……! ここで逃げれば五分……損はない!!」
「九重!!!」
「えっ……?」
その声は他の誰でもない、新庄の声。
「俺はお前に危害は加えてないだろ!! 全て宮本を通じてだ!! だから頼む、助けてくれ……!!」
「お前……この期に及んで何言って……」
新庄の哀れな目。小動物のようにウルウルとこちらを見つめる、情けない目。
「頼む……一生のお願いだ……!! もし見捨てたら、呪い殺すぞ……!!!」
さあどうする。大蜘蛛もいつ動けるようになるか分からない。新庄達は合計4人。今やクリスタルすら持たないすっからかんのやつらからは、見返りは期待できない。助けるか? 助けないか?
「ふざけるなよ……ここで手を差し伸べて俺は何度も……!!!」
『とにかく落ち着きなさい。正しくない方法でここから脱出してしまうと今後の人生に響きますわ』
聞きなれた少女の声が心の中から聞こえた。
「雪夜……なあ、どうしてお前はそんな綺麗な生き方ができるんだ……? 明らかな不公平や不利を被っても、人を見捨てない、裏切らない……。俺には到底無理だ……! だって損じゃないか……正しいことって一体何なんだよ……!!」
『少なくとも、私は糸にそうなっては欲しくありませんわ』
もしここで人の命を見捨てたら、この先の俺はどうなってしまうんだ……? 雪夜は、そんな俺をどう思うんだ……? そう、これは自分のため……そして、雪夜を裏切らないため。決してあいつらクズのためじゃねえ。俺のために……助けるんだ!!
俺は剣を取り出し、蜘蛛の糸を切り裂く。変に伸びたりねちょねちょしていて切り辛かったけど、なんとか新庄を救った。
「よし、新庄!! そっちのやつの糸を頼んだ!!」
グググ……
「まずい……大蜘蛛が動き始めたぞ! 新庄、急げ!!! ……新庄……?」
既に新庄はそこにいなかった。
タッタッタ!!!
辛うじて、階段へと逃げ込む後ろ姿が目に映った。
「お……お前は……仲間まで切り捨てるのか……?」
ゴゴゴゴ……!!
「だめだ……1人であと3人救出するのは間に合わない……!!」
パシュッ!!!
「私も手伝います……九重さん!」
「お前は……二宮!!」
痺れが取れた二宮が一緒に糸を切るのを手伝いに来てくれた。
ゴゴゴゴ……!!!
パシュッ!!!
「よし、あと2人だ!!」
「はい!!」
パシュッ!!!
「よし、全員分の糸を切ったぞ!! さあみんな逃げろ!!!」
「ありがとう……恩に着るぞ、九重!」
新庄の仲間たちは走り出し、全員走って階段へと向かった。
ゴゴゴゴ!!!!
大蜘蛛が8本脚を動かし、こちらへ向かう体制を取る。
「やばい!! 完全に大蜘蛛が目覚めちまった!! だが階段までもうちょっとだ、走れ!!」
ドドドドドドドドド!!!!!
(ギリギリ間に合う……!!)
しかしあとちょっと、本当にあとちょっとのところで、大蜘蛛の放った糸が一人の足を直撃した。
「きゃあっ!!!!」
その標的は二宮。足をとられた二宮は転んでしまった。
「そんな……っ!!」
俺は階段までこのまま走れば無傷で間に合う。だが、ここで二宮を助けに行ってしまうと完全に戦闘態勢。あの化け物と黄金の武器や超能力者なしで戦わなければならない。そうなれば死ぬかもしれない。つまり問いはこうだ。
俺は命を懸けてまで二宮を助けにいくか?
これまで高次元世界に生きてきたことを踏まえて、1秒で答えろ。
桐山に財布を騙し盗られ、大川にクリスタルを盗まれ、手を差し伸べた宮本に裏切られ、助けに行った森田に雪夜と3つのクリスタルを奪われ、そして信じた西城に利用された。
考える間もなく答えは決まっているだろう。生き抜くためには人を踏み台にしなくてはならない。感謝なんて一時の感情。助けても、信用しても、結局向こうに都合が悪くなった瞬間に裏切られるのだから……。
仮に俺がこの二宮という少女を救ったとして、何か利益があるだろうか? クリスタルが貰えるわけでもない、これまでに恩があるわけでもない。考えるほど、命を懸けて救う理由はない。
だが、二宮はさっき、逃げずに糸をほどきにきた。仲間の新庄さえ見捨てて逃げたというのにだ。
雪夜もふくめ、高次元世界にはまだそんな人間もいるんだ。利益に左右されず、人情を持つ人間がまだ残っている。そんな人間が損をして淘汰されるなんて、絶対におかしいだろ。少なくとも俺はまだ、こっち側の人間でありたい……!
「うわああああああああああ!!!!!」
剣を抜き、大蜘蛛へと向かった。
これは、これまで俺を裏切ってきた奴らへの復讐だ。ここで見殺しにすると、また奴らがほくそ笑む気がしたから……。
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