第4話 高次元世界とは

「これはな、【逆空間の次元】を活用しとるんじゃ」


「【逆空間の次元】?」


「そうじゃ。知らんということはおそらく君らは最近現実世界からやってきた素人じゃな。まあせっかくじゃし軽く教えてやろうかの」


 俺たちがおじいさんの近くの席に座ると、ちょうどバスが発車した。


「この世には11つの次元があると言われておる。【空間くうかんの次元】3つ、【時間じかんの次元】1つ、【逆空間ぎゃくくうかんの次元】3つ、【逆時間ぎゃくじかんの次元】1つ、【生命いのちの次元】1つ、【エネルギーの次元】1つ、【やみの次元】1つじゃ。しかし、お主らのいた現実世界では、最初の4つの次元しか開けておらん。残りの7次元は隠されておる」


「隠されてるって、どこに隠されてるんですか?」


「次元を隠すことはわしにもできるぞ。ほれ、これを見てみい」


 おじいさんはカバンから紙を取り出した。


「この紙は平面じゃから2次元じゃろ?」


「はい」


「それを……ほれっ」


 おじいさんは紙をくるくる丸め込み始めた。


「どうじゃ。さっきまで2次元じゃった紙が1次元の棒になったじゃろう」


「は、はあ……」


「ピンとこんか? まあ、これはあくまでイメージじゃ。こんな感じで現実世界では7次元がたたまれ4次元の時空だけがむき出しになっておる。ところがこの高次元世界では、全ての次元が顕在化しとるんじゃ」


「隠されていた7次元がある、11次元の世界ってことですか?」


「そうじゃ。じゃが、わしらはもともと4次元の世界で生まれた動物。普通は4次元の感覚しかないんじゃ。しかし……」


 おじいさんはチラッと雪夜の方を見る。


「ごくたまに、高次元世界では5次元、6次元、7次元……と、5次元以上もはっきりと認識することができるやつがおる。わしらはその特別な人達のことを、能力者と呼んどるんじゃ」


「ってことは、今この空間が認識できている俺は能力者!?」


「違うぞい。この逆空間はこのバスという物体に埋め込まれたものであって、何かしらの能力者であればすぐに気づけるし、入りさえすれば無能力者でも認識できるように設計されておる。超能力を人々の生活に生かすためには、誰でも使えるように設計しないといかんからの。じゃが……」


 おじいさんがチラッと雪夜の方を見る。


「ここに逆空間があるとすぐに認識できたものは間違いなく能力者じゃな」


「雪夜が能力者……」


「すみません。高次元世界に来てから黒いモヤモヤしたものがまとわりついてきますの。これは何でしょうか」


 雪夜がおじいさんに質問する。

 そういえばさっきから雪夜はハエを追い払うように、手を払っている。


「……おぬし、それを手で払えるのか?」


 おじいさんは目を見開いて雪夜に尋ねた。


「ええ。それでも執拗にまとわりついてくるので、あまり意味は無いようですが」


 雪夜が困った表情で答える。


「……能力者は高次元を『認識』できる。じゃが、そのレベルが高くなると次元に『干渉』……すなわち自分で次元を操作できるようになる。その特別な力を持つ能力者のことを超能力者と呼んでおる……」


「まさか、雪夜は超能力者ってことですか!?」


「その可能性が高い……。そして黒いモヤモヤという表現から察するに、おそらくその次元は未だ謎に包まれている【闇の次元】……。現在、高次元世界には4人の超能力者がおるが、【闇の次元】の超能力者はまだおらん。お嬢ちゃん、名前を聞いて良いかの……?」


「松蔭と申します」


「松蔭じゃな。ふぇっふぇっふぇ、こりゃ期待の新生じゃわい」


「はあ……。高次元世界に来てから何一つ感じられなかった俺はセンスがないんだな……」


「元気を出せ少年! 努力次第で次元が認識できるようになった例もあるぞい」


「ほ、本当ですか!?」


『まもなく、チューベローズ正門前。チューベローズ正門前。お忘れ物のないようにお降り下さい』


「では、俺たちはここで降ります。お話ありがとうございました」


 おじいさんはニコニコして手を振っている。

 結局、俺の名前は最後まで聞かれなかった。


 降りたところは先ほどまでとは打って変わって田舎。山をまるごと開拓したような場所で、標高もそれなりに高い。その大自然の中に、恐ろしく大きな校舎がまるでお城のように聳え立っている。


 校舎の正門には大きな看板が立てられていた。入学試験の案内だ。

 俺たちは受験票と照らし合わせて会場を探す。


 あまりの大きさからこの校舎はいくつかの区画で分かれており、俺と雪夜は別の場所で受験を受ける。


「じゃあ、試験が終わったらこの正門前で会おうか」


「必要ありませんわ。それでは、お元気で」


 雪夜はスタスタと行ってしまった。

 え。もしかしてこれで俺達はお別れなのか……?


 俺は悲しい心を抑え、地図を頼りに西区域の受験会場へと向かった。

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