お泊り

「今日は泊まっていくよね?」

 なんて、お風呂から上がるなり七海先輩に言われた。

「えっ...?」

 お風呂まではまだ先輩、後輩としてありえる?話だったが流石に付き合ってもいない男女が一夜同じ屋根の下眠るだなんて流石に破廉恥すぎるだろう。

「さ、流石にまずいんじゃ?」

「先輩として君をあんな荒れた家に置いておけないよ。それに君のおばさんの恋人いつも深夜でも出てけって言うんでしょ?」

 七海先輩は少し神妙な面持ちで俺を見つめてきた。

「正直、一年長く生きてる先輩としてのアドバイスだけど、君はもう少し逃げることを覚えたっていいと思うな?」

「逃げる?」

「うん。精神的に辛い時に自分のことをよく思ってない人と関わる必要はないってこと」

 確かに七海先輩の言っていることも一理あるかもしれない。

 もし、このまま色々なことを耐え続け、女性恐怖症がより酷くなったら日常生活すらままならなくなるかもしれないのだ。

 それに、ここで何かを変えないと悩みの種は変わりはするとしても、俺は一生何かに耐え続け死んでいくような気がした。

それに、今は怖い思いをしたくない。

これが正直なところだ。

「...そういうことならよろしくお願いします」

「えっ!マジ!?やったー!...お姉さん、今夜は君を寝かせないぜ...!」

 なんて七海先輩は幼げな笑みを浮かべながら、俺の手を握ってくる。

「いや、寝かせてくださいよ!?」

 ...あれ?ってかよくよく考えたら俺、めちゃくちゃ七海先輩に触られてね?

 やわらかく細くしなやかな手の感触、少し擽ったい吐息。

 なのに、別に何の拒否反応が出ない。

「...今、思ったんですけど、俺と七海先輩めちゃくちゃ接触してません?」

「あっ、確かに?....え~?もしかして、失恋中の君のハートを射抜いちゃった...?」

 先輩はわざとらしく頬を紅色に染め、上目遣いで見つめてくる。

「...先輩としては尊敬してますけど、そういうのじゃありません!」

「...ふぅ~ん?」

 こうして色々と合ったものの俺は先輩の家にお泊りすることが決定したのだった。



「それじゃ!学校へGO!」

 あれから一夜が明け、朝食(昨日の残りのカレー)を食べ終えた俺たちは学校へと行くことになった。

 普段は電車通学の為、朝のニュース番組など殆ど観る機会がなかったので不思議な感じだった。

「お邪魔しました~」

「は~い」

 俺は教科書やバッグも家にあるので、スマホと財布だけ持ち家を出た。

 おそらく、教科書はちさとが見せてくれるであろうから問題ないだろう。

「...なんか、こうやって二人で家から出てくるのって、やっぱり他の人からは恋人同士に見えるのかな?」

 七海先輩は少しからかうような声色でそう呟いた。

「...」

「...もうー...そんなにむくれなないの~ごめんごめん。冗談だから~」

「むくれてないですし」

「どーだかね...?」

 七海先輩は俺の頬を人指し指でくいくいと突いてきた。

 でも、やはり身体が不調になることはない。

 このまま俺は七海先輩と雑談しつつ、学校へ向かったのだった。


「うわー!?どうしたの?顔色、やばいよ!?」」

 なんて自分のクラスの着くなり、ちさとが心配そうに話しかけてきた。

 登校中、校外は人と人との距離がある程度ありよかったのだが、校門辺りから混雑し始めどうしても女子に触れる瞬間があり気づけば倒れそうになっていた。

「い、いや。めちゃくちゃ元気!」

「ぜっっったいに嘘じゃん!?」

 確かに真っ赤な嘘なのだが、だんだんと回復してきた気がする。

「...そういえば、陽大...昨日の夜何してたん?おばさんから電話来たよ?」

「ネカフェに泊まってたわ」

 流石に七海先輩の家に泊まってたなんていったら大問題になってしまうだろう。

「え?でも、ここら辺のネカフェって未成年、夜は使えないよね?」

「あー、実は男友達の家に泊ったんだよねーまあ、ネカフェみたいなもんだよね?」

「全然違うよ!?」

 こうして俺は嘘に嘘を重ね何とかHRの時間まで誤魔化し続けたのだった。



~作者から

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