七海先輩とおばさん

 あれから、七海先輩と二人で自宅へ帰り、その15分後くらいに施錠音が玄関の方から聞こえてきた。

「か、帰ってきたようですね...」

「...う、うん」

 七海先輩の声も緊張からか少し震えている。

「ただいまー。待たせちゃってごめん」

 おばさんの女性にしては少し低い声がだんだんと近づいてきた。

「いつも仲良くしてくれてありがとねー...って女の子...?」

 おばさんはリビングのドアを開けるなり、困惑した様子でその場に立ち竦んだ。

 それはそうだろう。

 おそらく七海先輩のことを男友達だと思っていたのだ。

「は、はい...陽大くんと同じ学校に通っている七海 紗凪と申します。いつも陽大くんとはお友達として仲良くさせていただいていて~」

 あんなに緊張していても流石は七海先輩。

 しっかりと友達という事を協調しつつ、自己紹介してみせた。

 流石、コミュ力激ひく元カノにフラれた系男子の俺とは格が違う。

「う、うん!いつも仲良くしてくれてありがとうねー」

 おばさんもすぐに持ち直し、作り笑みを浮かべ呟いた。

 だが、どこか納得していないような表情を浮かべている。

「か、彼女が来るなんて聞いてないぞ!?あー、化粧ちゃんとしてくればよかった!」

 案の定、あらぬ誤解をしているしているようで七海先輩に聞こえないように耳打ちしてきた。

「彼女じゃないよ!」

「またまた、陽大も罪な男だな」

「友達だよ!」

「仮に友達だとして、女の子の家に泊まってるなら私もちょっと引くぞ」

 確かに事情を知らないおばさんから見れば、交際関係にない女子の家に泊まっていかがわしい事をしているようにも見れるだろう。

「引かないで!?ってかそういう関係じゃないし。友達だよ!友達!」

「冗談だよ。陽大くんがそういう所ちゃんとしてるのは保護者の私が一番よくわかってるし。うん、信じる!」

 おばさんは子供をあやす様に頭を撫でてきた。

「...よし、二人から何か話があるんだよね?」

「う、うん」

「ならさ、向こうのダイニングテーブルで話そうよ。あんまり洒落た物はないけど、良いお茶くらいなら出せるよ」

 ということで、俺たちはリビングに移動した。

「はい、二人とも紅茶」

「あ、ありがとうございます!」

 おばさんは仕事柄あまり家にいない事が多いので、こうしてビングに誰かがいるというのは不思議な感じがする。

「いやー、それにしてもこんな美人な子と友達になるなんてやるじゃん?」

 おばさんは七海先輩を改めてまじまじと見てそう呟いた。

「い、いえ。そんなことは~おばさまも凄くお奇麗でー」

 七海先輩もこの手のことは言われ慣れているのか、手慣れた感じで返している。

「...」

 いつ例の件について話せばよいかおばさんの様子を窺っていると手に暖かな感触が伝わってきた。

 ...七海先輩が俺の左手を握って来ていた。

 柔らかくすべすべとしていて、どこか懐かしい感触がする。

「大丈夫だよ」

 七海先輩は俺を慈愛に満ちたようなそんな瞳で見つめてきた。

「おばさま、それで肝心のお話についてなのですが」

「あ、ああ」

「単刀直入に申し上げると陽大くんが高田さんから嫌がらせを受けているようでして。陽大くんの友人として到底、許容することは出来ませんでしたので、このような場を頂きました」

 七海先輩は少し冷たいようなどこか事務的な声色で呟いたのだった。



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