夕食と結婚報告
七海先輩と書店に行ってから一週間が経った。
今日は金曜日という事もあり、高田さんがうちに来るという事でまた七海先輩の家にお邪魔している。
ただ、今日は高田さんは日帰りで22時頃には帰るらしいので、それだけは不幸中の幸いだ。
「よし。これで全部できたかな?」
ということで、今俺は七海先輩から台所を借り夕食を作っている。
流石にタダで家に上がってタダ飯食って帰るなんて前回は結果的にそうなってしまったが、恩知らず過ぎるだろう。
今日のメニューはヘルシーな感じが良いとのことで、ロールキャベツに味噌汁、サラダ、白米だ。
ちなみに食材は昨日るなの家に飯を作りに行った時に少し拝借してきた。
「...本当に料理できたんだね~」
リビングに出来上がった料理を持っていくと七海先輩はまるで異星人を見るかのような眼差しでこちらを見つめてくる。
「おばさんは仕事してるから家を空けることが多いし、従妹の飯も作ってますからねー」
というか、料理自体が自分自身の存在意義を示すツールだったのだろう。
なんて、あれこれ雑談しているうちに、すべての料理をダイニングテーブルに並び終えた。
「それじゃあ、いただきます~」
「いただきますー」
七海先輩はこちらに微笑んできながらロールキャベツを一口分に箸でかき分け口に入れる。
「おいしい...!」
何だか、学校のそれも一個上の先輩が自分が作った料理を食べているなんて不思議な感覚だ。
「それはよかったです」
「お味噌汁も出汁が効いてておいしい~ほんと、ありがとね...!」
やはり、自分の作った料理を誰かが美味しそうに食べてくれるのは、何かえも言えないような感情が満たされる感じがして好きだ。
「いえいえ。俺なんて迷惑掛けてばっかなんで」
正直、俺はこの程度では済まされない程には迷惑を掛けている。
それに特にこちらは何も提供せずに七海先輩の善意につけ込むなんて耐えられない。
なのでこのくらい当たり前だろう。
この世の中には無償の愛なんて言葉があるが、それは裏を返せば愛を受けている方は愛を供給する人を一方的に搾取してるとも言える。
「...迷惑じゃないよ!」
七海先輩は少し怒ったようなどこか悲しそうな目でこちらを見つめてくる。
「で、でも...」
「私ね、学校で喋れる人は沢山いるけど、こういて家に来てくれるような友達は居なかったんだよね」
学年が違うという事もあるだろうが、確かに七海先輩と特に仲が良い人というのは思い浮かばない。
「だから君がこうして下心とかなく接してくれるの嬉しかったっていうか...」
「...それでも陽大くんが心苦しいって思うなら...また、ご飯作ってくれないかな...?」
「で、でも...それだけじゃ」
明らかに足りない。
俺のせいで一人の時間、恋愛、光熱費にその他諸々先輩は失っているのだ。
「...私さ、この生活好きなんだよね。前も言ったけど、昔友達と色々あってさ...だからこういうの初めてで...ならさ!陽大くんがうちにいる時は家事、折半にしよ?」
七海先輩は俺の手を握ってきた。
すべすべで温かくてやわらかくて俺の手とは何から何まで違う。
「いいんですか...?」
「うん。ってか私からお願いしたいくらいだよ!」
「...ありがとうございます!」
これも俺のエゴだ。
施しを一方的に受け自分が劣っていると思われたくない。
憐れに思われたくない。
だから、自分もある程度は尽くしたい。
七海先輩は先輩としてそんな、俺の醜い感情すら許容してくれた。
俺はこの恩を返していけるのだろうか。
いや、返さなければいけないだろう。
それは七海先輩の為でもあるし、自分の為でもある。
「...まあ、あと~?年下でよわよわな君をいじるのが楽しい~っていうのもあるんだけどね?」
「元カノにフラれたクソ雑魚ナメクジな俺をいじるの楽しいですよねー」
「いきなり卑屈にならないで!?」
午後9時45分。
七海先輩の家を出た俺は帰路についていた。
今日は雲一つない快晴だったので、少し上を向くと満天の星空が見えてくる。
「ここでもこんなにくっきり星見えるんだ」
駅前に近づいて行くにつれだんだんと星の数は減っていたが、それでもかなりの絶景だ。
ちょうど、駅前についたくらいでスマホがブルブルと震えた。
どうやら、おばさんからのようだ。
「もしもしー」
「陽大くん―今、先輩の家から帰るころだよね?」
「うん」
ちなみに先輩が女性であるとは言っていない。
「そうか...やべえ...!緊張してきた!!!」
「えっ?何が?」
「面と向かっては緊張するから電話で本当に申し訳ないんだけど...高田おじさんと結婚してもいいか?」
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(今日はテレビ番組やYouTubeが大晦日ということもあり、強そうだったので夕方投稿してみました~明日からは普段通りの時間に戻ると思います!)
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