失恋したら委員会が同じ美人な先輩に慰められて修羅場になるラブコメ

はなびえ

先輩との出会い

プロローグ 失恋

人生で初めて失恋した。

 自室の窓から一人虚しく鉛色の空を眺める。

 そうすると、不穏な様子の空をカラスの群れが果敢に飛び去っていた。

 何事にも臆病で鈍い俺とは大違いだ。

 カラスの群れは俺の周りの奴らにどこか似ている気がする。

 鈍くて弱虫な俺なんて置いていって、あっという間に遠いどこかへ飛び去ってしまう。

 窓を開くと肌に刺さるような寒気が自室へと送り込まれきた。

 でも、それは気分を変えてくれるようでどこか心地よかった。

 俺は夢見心地な気分で瞼を閉じる。

 そうすると今までで人生で一番幸せで、一番不幸だった、あの日々が蘇ってきた。

「いいよ...」

 そう顔を赤らめてはにかんでくれた彼女の顔は今でも脳裏に焼き付いている。

「この、魚可愛いね」

 あの日のデートだって鮮明に覚えている。

「ごめん、体調悪いから」

 キスをしようとしたら、そう言い拒絶されたことも。

「マジでやめて」

 いざキスをし、その流れで抱きしめようとしたら突き飛ばされたことも。

「ごめん。私、外田が好きなんだよね」

 彼女は本当は彼女を俺に紹介してくれた友達のことが好きだったということも。

彼女が今日、外田に告白するらしいという事も。

全て鮮明に覚えている。

そして、何より2度も愛されることがなかった自分が気持ち悪い。

 俺は身体を投げ出すかの様にベットにダイブした。

「...馬鹿らしい。寝よ」


あれから眠りに眠った俺が目覚めたのは朝の10時だった。

完全に遅刻だ。

「やばっ!」

俺は髪を整え歯を磨き、今日必要な教科書を鞄に突っ込み、おばさんも出勤していて誰もいない家を出た。

全力疾走で街を駆け抜けていく。

燦々と輝く太陽の光が肌に刺さって少しむず痒い。

でも昨日のことが嘘かのように身体は軽く、清々しい気分だ。

今ならこの澄みきって、まるでなめらかな玻璃のような青空の上を飛べるような気がした。

そうこうしていると10分程で最寄り駅に着いた。

いつもよりも二時間近く遅く、すっからかんな電車に揺られ学校へと向かっていく。

やはり車内は社会人は主婦、老人で見るからに学生と言った風貌をしているのは自分だけだった。

後、20分は到着までかかる為、俺は英単語帳を取り出し勉強を始めたのだった。


二限終わりの休み時間に教室についた。

小中校と今まで遅刻なんて、一切したことがなかったのでかなりショックである。

「お!陽大、今日遅かったじゃん?何、真面目くんもついにグレたの~?」

なんて、教室のドアを開けるなり、中学からの悪友である米田 ちさとが駆け寄ってきた。

まるで、宝石かのような碧眼を爛々と輝かせたちさとは、こちらを見てニパァッと無邪気に微えんだ。

小柄からか少し幼げな、小動物ような印象がする。

「んな訳ないだろ。俺から真面目さを取ったら何も残らないだろ。いや、惨めさは残るか」

「...遅刻しても相も変わらずなのね。まあ、いいや。はいこれ。可愛い、可愛いちさと様からのプレゼント」

ちさとが社会と数学のノート差し出してきた。

代わりに写しておいてくれたのだろう。

「お、サンキュー」

「ん、まあ普段、勉強教えてもらってるしねー」

ちさとからノートを受け取ろうとすると俺の右手とちさとの人差し指が触れてしまう。

細長くしなやかで少し柔らかい人差し指。

いつもは気にも止めない人差し指。

でも、今はアイツの柔らかさが温もりが蘇ってくる。

「すまん、ちょっとトイレ言ってくるわ」

「...何、どしたん?話聞こうか?顔色悪いけど、だいじょぶ?」

「ああ。ってかヤリ目男子やめろ」

「へへ」

俺は雑談を切り上げるとさっきよりもさらに早い速度でトイレへと駆け込んだ。

「...」

ちさとに触れたあの時から吐き気が止まない。

だんだんと胃から食道、そして喉元へと上がってくるのがわかる。

そしてとうとうそれは限界を迎え俺はトイレの便器に顔を突っ込み思い切り吐いた。

「おぇぇぇぇ」

それから止めどなく吐きまくり、気がついたら午前11時になっていた。

「...ちくしょう」

なぜ俺があのバカ女に振り回されなければいけないのか。

そして、何より友達の善意に対してこんな事をしてしまう自分が憎い。

『ごめん。ちょっと具合悪いから帰るわ』

俺は普段からお世話になっている先輩とちさとにLINEをして帰路についたのだった。



「さてさて~ほら我が従妹よ!飯だ」

 あれから気分転換の意味も込めて、スーパーに寄り食材調達をし、俺はいつも通り従妹るなの家に来ていた。

 るなの両親は医療従事者で0時まで家に帰れないなんてことざらにあるので、俺は週に何度かこうして家事をしに来ている。

俺も二人暮らしの、叔母さんと彼氏さんとの邪魔はしたくないので好都合である。

最近は夜、家にいると彼氏さん嫌味を言われることも多いのでそれもここに来る理由だったりする。

それにもうおばさんのあの顔は見たくない。

まあ、一番の理由はるなが可愛いからなのだが。

 ちなみに今日のメニューは三色丼に味噌汁、サラダである。

 いつもは学校やらなんやらで気力がなく、栄養重視の簡単なメニューにしているのだが、今日ぐらいはと見た目に気を付けた料理にした。

 そのせいで盛り付けにかなりの時間を使ってしまったが、頭を冷やすという意味では逆に良かっただろう。

 それから俺たちはテレビを横目に雑談しながら晩飯を楽しんでいた。

最近の俺たちのマイブームはペット番組である。

 食べ初めてから10分程経ったくらいだっただろうか。

「...どしたの?なんか、嫌な事でもあった?」

 るなは怪訝な面持ちでこちらを見つめてきた。

「ん...?何がだ?いくら俺が絶世の美少年だからってそんな見つめられると照れるぞ」

どうやら、るなに勘づかれてしまったようだ。

受験生で色々と不安定な時期のるなに心配させるなんて失態である。

「うわ...!普段からよう君は変だけど今日のはなんか...ナルシスト入っててさらにキッツい」

「...一瞬、メンタル死にそうになったけど、現役15歳JCに罵られてると思うとなんかそそるな!?」

あれが純粋な恋心だったのかも、今考えれば怪しいのだ。

「うわー…」

 るなはまるでゴミを見るような視線をこちらに向けてくる。

「冗談だよ」

るなは俺の発言を無視し、自分が望む答えを促す様に呟いた。

「...それで?どうしたの...?恋愛マスターの私に言ってみそ」

「...お前、なんで俺がそういう系で悩んでるってわかったの...?えっ?なに?漫画によくある、心が通じ合ってる的な?従妹愛的な?ボーイミーツガール的な!?」

「んな訳ないでしょ...見てればわかるよ。お兄ちゃんわかりやすいもん」

「そうか?」

「...そうなんだよーそれで、何があったの?」

 この手の話を思春期の従妹にするのは憚られるが、るなもあらかた予想は付いているだろうし俺は素直に打ち明けることにした。

勿論、伏せる所は伏せてである。

るなの前でくらい大人でいたい。

「彼女にフラれただけだよ。これでまた箔?が付いちゃってイケメンに磨きが掛かっちゃうな」

 世の中の恋の多くはちょっとした事で拗れ歪になり、崩れていく。

 今、ラブラブなカップルだって大抵は別れるのだ。

結局は過程がどうであれ、別れたら皆等しく結果はゼロである。

普通に別れたカップルとさして変わらないのだ。

 だから、あれは悲劇でもないし憎悪の対象でもない。

 所詮はただのくだらない高校生風税の恋愛だ。

 あれに感情をかき乱され断腸の思いに心を支配されるのが本当の負け》である。

「...そっか!まあ、イケメンかは分かんないけどよう君を振るなんてその女もバカだね~」

「...る、るな」

 あ、、、やばい惚れそう。萌えとやらが何たるかが分かったかもしれない。

「よう君、成績良いから将来の金羽振りにも期待できるし、使い勝手もいいのに~」

「おい、俺のトキメキを返せ」

「...冗談だよ。まあ、でもよう君は母さん達の代わりに頑張ってくれてるけど...弱音くらいは、はいて欲しいな」

「...おう」

 るなの少し照れくさそうな、慈愛に満ちた微笑みに俺も微笑み返したのだった。




~作者から


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