久々の一人と自覚
翌日の夕方。
七海先輩は都外にある実家に一日だけ帰省するとのことで、俺は一人で七海先輩宅に帰宅した。
ちなみに委員会の仕事は前もって早めに進めていたので、人で不足にはならなかった。
現在時刻は午後19時。
新幹線に乗るとか言っていたが、七海先輩ももう向こうに着いている頃だろう。
『最近、実家に帰れてないから男作ったのか~って疑われちゃって』
なんて言っていたものの、どこか楽し気だったので家族仲は悪くないのだろう。
あと、もしご両親に七海先輩の家に居候してるなんてバレたら抹殺されそうだ......
「ただいま~」
なんて言いリビングの戸を開けてみるが勿論誰からの返事もない。
というか合ったら合ったでそれは大事件だ。
でもどこか物足りない気がした。
「...晩飯でも作るか」
俺は元々この時間帯はおばさんは仕事中だし一人だったんだと心の中で自分に言い聞かせ、冷蔵庫を開けた。
うちのとは違って最新の物なので使いやすい。
と言っても誰かがいないと根本的にモチベーションが湧かないので、今日は簡単に済ませることにした。
「卵の消費期限今日までか」
ということで、今晩は男飯の代名詞である炒飯に日本人の心味噌汁にすることにした。
我ながら栄養など無視したむちゃくちゃな献立だが、たまにはこういうのもありだろう。
俺は使い始めて日が浅いからかまだ小綺麗な調理器具を用意し作業に取り掛かった。
とはいえ、内容が内容なので白米と卵、その他諸々を適当にフライパンに入れ味噌汁もダルいので七海先輩の家に合ったレトルトのやつを使ったので三十分もしないで終わった。
「あっ...先輩も分も盛り付けちゃった」
明日の朝の為に余分に作った分を七海先輩の皿に盛ってしまうなんて俺は色々とヤバいかもしれない。
取り合えず、サランラップで密封しそもまま冷蔵庫にぶち込んでおくことにした。
「頂きます」
ダイニングテーブルに俺ただ一人の声が響き渡る。
今となってはこうして一人で飯を食う方が変な感じがした。
「...」
俺は茶色く見栄えは最悪な炒飯を口に運んだ。
勿論、ご飯は茶色ければ茶色いほど不健康で最高に美味しいのでうまい。
でも、どこか空虚で虚しく感じられた。
薄々感づいていたが、その原七海先輩がいないことが原因だろう。
「しょっぱっ」
でも、この感情がそんな可愛らしいものではないと分かっている。
事象としては金銭感覚が狂うのと似ているだろう。
以前までは質素に身の丈にあった生活をしていたのに、ふと何かきっかけがあり生活水準が上がってしまい元の暮らしには戻れなくなる。
つまり、今の俺は七海先輩に依存してしまっているのだ。
「...電話か」
箸が止まっているのを悟ったようにスマホがブルブルと揺れた。
......スマホのディスプレには『七海 紗凪』と表示されている。
まだ数時間しか離れていないというのに、胸は鬱陶しいと感じる程に高まるし頭もまるで茹でられたかのうに多幸感に包まれた。
本当に自分が怖い。
でも、おそらく自覚していないだけでもっとずっと前からこうだったのだろう。
「...もしもし?」
「もしもし~君が寂しがってると思ってかけちゃった」
「なんですかそれ...俺はウサギかなんかですか。子供じゃないんですから、心配はいりませんよ」
なんて強がってみるものの、実際に七海先輩のいうことが当たっているだから滑稽だ。
「...はいはい~君も素直じゃないよね...まあ、そこがからかい甲斐があるんだけどね...?」
七海先輩はくすくすと微笑みながら、楽し気な声色で呟いた。
「...地元でも変わりませんね」
何かがおかしい。
会話の内容が頭に入らない程に心音が止まらないし、心なしか視界が明るくなった気がする。
「そういえば、さっきお土産買ったから楽しみにしておいてね~!」
「...ありがとうございいます」
七海先輩が善意で用意してくれたお土産を受け取らないというのは人としてあれな気がするので俺は二つ返事で感謝の気持ちを伝えた。
「いえいえ~...京都のお土産どこのも美味しいから楽しみにしといてね!」
「はい!というか、七海先輩って京都出身だったんですね」
おそらく、ここが東京だからだろうが関西弁も使わないので意外だ。
でも、確かに古都の歴史ある街で育った京美人といった感じもする気がする。
「そうそう~君は?」
「俺は7歳くらいまで、札幌に住んでいたので札幌が地元ですねー」
先ほどまでの陰鬱な気持ちが嘘のようになくなった。
俺たちはこのまま30分ほど通話をし続けたのだった。
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