先輩と距離感

「...あの、なんか近くないですか?」

「ん~?そうかな」

 夕食時、久々の七海先輩の手料理に胸を躍らせていたのだが、なんだかいつもよりさらに七海先輩の距離感が近くなっていた。

 だが、当の本人に聞いてみてもこのありさまで、もしちさとみたいに色々と拗れていたらと思うと胃がキュルキュルした。

「ほら、食べて食べて」

 ちなみに普段はお互い向かい合う形でダイニングテーブルの椅子に座っているのだが、今日は左隣に座っている。

「はい...美味しいです!それにサラダも作ったんですね!?」

「まあ、サラダは盛るだけだからね~」

 それでも目覚ましい成長である。

「...でもそっか。美味しかったんだ...そっか。よかった..!」

 カレーの濃厚な味は勿論のこと、以前俺が好きだと言っていたシーザーサラダドレッシングも用意してくれていて、感動ものである。

「でも、こんなにいいんですか?」

 正直、こうして良くしてもらえばもらうほどに罪悪感を覚えてしまう。

「大丈夫だよ~それに君、今日も朝家出る前に洗濯とか洗い物してくれてたでしょ?だから、私が色々お返ししたいぐらいで」

「いえいえ、俺なんて居候の身ですし」

 家賃とか諸々と考えるとまだ圧倒的に七海先輩に迷惑を掛けているだろう。

「でも、私最近君に頼りっぱなしだし...そうだ、あ~んする?」

「どうしてそうなったんですか!?」

 最近、時々ではあるが七海先輩が何を言っているのかわからなくなる。

「...ほら、こういうの男の子の夢なんでしょ?せ、せっかく美人な先輩がいるんだから有効活用しないとね...!」

 七海先輩は自分で自分のことを美人と言ったのが余程恥ずかしかったのか、頬を真っ赤に染め俯いた。

 ...何か、おかしい。

「さ、流石に友達同士でそういうのはあれなんじゃ?」

「...ふぅ~ん?...もしかして、照れちゃったんだ...?可愛いじゃん...」

 なんて先輩ぶっているものの、視線を右往左往させながらクッションに抱き着いている七海先輩の方が照れている気がする。

「ほら、あ~ん」

「んっ...」

 七海先輩に半ば無理矢理口にカレーをねじ込まれたがさっきより4割増しくらいでクリーミーなっていて美味しい気がした。

「どうかな...?」

「美味しいです!こういうのって本当に美味しくなるんですね」

「...そっか。うん。よかった!」

 それにしてもである。

 何だか、明らかに普段とは違う気がする。

「...本当にどうしたんですか?何かありました」

 俺が七海先輩の目を一直線に見つめるとあきらめたのか、七海先輩は小さな声で呟いた。

「い、妹に相談したの」

「妹さんいたんですね~」

「うん。君の従妹ちゃんと同い年かな」

 ということは中学三年生だろう。

 七海先輩はやっと元に戻ってきた頬をまた赤らめさせ続けた。

「...き、君ともっと仲良くなる方法を聞いたの!」

「そうだったんですね。嬉しいです」

 七海先輩なりに色々と考えてくれていたなんて嬉しくないはずがない。

「...そうしたら、男の子はボディタッチとか接近するのが大事って言われたから」

「す、すごい妹さんですね」

 とても中三のアドバイスとは思えない。

 というか男としてこれはかなり正解に近いように思えた。

 だが、それはあくまでもそういう仲の男女に限った話だ。

 俺たちのように健全な友情を育んでいる友達という関係においてはズレているだろう。

「...でも、やり過ぎたし君も不快だったよね」

 七海先輩は申し訳なさそうな表情を俯いてしまった。

 頬を少し青ざめている気がするし、身体も少し震えている。

「そ、そんなことは!むしろ嬉しかったってい...あ」

「...ふぅ~ん?...へえ~、君も嬉しかったんだ」

 このあと、いくら弁解しても全く通じなくて死にたくなったが、七海先輩の機嫌はよかったので甘んじて受け入れることにしたのだった。


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