七海先輩とお買い物

 七海先輩の家に泊まってから、約一カ月が経った。

とは言え、たまに日帰りで戻ってくることがあったのでその時は七海先輩の家にお邪魔した。

 だが、たいていの日は仕事で自分の住んでいる街に戻っているのでかなり平和に過ごせている。

 ...というか、毎日あの人が俺の家に居ることになったら間違いなく精神崩壊する自信がある。

「...今日さ、一緒に駅前の本屋さん行かない?」

「べ、別にいいですけど...どういう風の吹き回しですか?」

 今日も今日とて図書室で七海先輩と二人、雑務をしていると遊び?のお誘いをされた。

「実は司書さんから純文学作品数冊買ってこい~って言われちゃって」

 七海先輩は少し気だるげに呟いた。

「...なるほど。いいですよー。僕も新作の大衆文学とかラノベ買いたいんで」

「やった...!なら、早く仕事終わらせちゃおー!」

「はい!」

 という事で、俺たちは普段より口数を減らし黙々と手を動かしていった。

 普段は楽しく雑談しながら、やっているので少し寂しいがたまにはこういうののもありだろう。

 こうして、

 俺たちは返却本の仕分けに元も場所に戻す作業、貸出記録の整理、館内の清掃、おすすめ本を紹介するポスターなどを書き終え普段よりも一時間早く学校を出ることが出来た。



「...何度来ても凄い広いですよねー」

「だね~!なんか...圧倒されちゃうよね?」

 書店は一階から三階まであり、新作から昔から語り継がれてきた名作までかなりの冊数がある。

「取り合えず純文学作品買っちゃう?」

「そうですねー」

 ということで、純文学作品が売られている二階へエスカレーターで向かった。

「...すごいね~」

「ですね...!」

 この書店の純文学コーナーはあきらかに他店を圧倒していた。

 見渡す限りすべて純文学。

 よくある書店の4~5倍はあるのではないだろうか。

「私、これ読みたいし買っちゃおうかな~!」

 大人な印象がある普段とは打って変わって七海先輩は目を輝かせながら、本を眺めている。

「購入する本に私情挟むのはよくないんじゃ?」

「普段、激務に耐えてるんだしいいじゃん~...それに」

 確かに明らかに二人でやるには多すぎる仕事はこなしている。

「それに?」

「...君も無料で好きな本、読みたくない?」

 七海先輩は本をゆらゆらと揺らし見せつけてくる。

「君も好きなの買っちゃっていいよ~?」

「...まあ、今日ぐらいはいいかもですね!」

 そう!俺たちは悪くない!悪いのは不当に俺たちを扱う学校側なのだ。

「...陽大くんもワルよの~」

「先輩には敵いませんよ~」

 ということで欲望に負けた俺たちは各々好きな作品を3冊づつ買い物カゴに入れていき、一回のレジへ向かった。

 ちなみに俺は俺で自分のお金でラノベを買うつもりだったので、別の買い物カゴにそれらを入れている。

「君は何かったの~?」

「好きな作家のミステリー物とラノベ買いました」

「それ?ラブコメってやつだよね?」

 七海先輩はどこか物珍しそうにラノベの表紙を見つめている。

 多分、ラノベのようにイラストが前面に出されており小説を読んだことがないのだろう。

「...ふぅ~ん?...君は女の子らしい子がタイプなんだ...?」

 七海先輩はにやりと笑みを浮かべながら、俺を頬を人指し指で突いてきた。

 ちなみにラノベの表紙は胸の大きなヒロインが胸元を強調させるポーズを取っている。

「確かにそういう側面も少しはありますけど...主人公と個性豊かなヒロインたちが繰り広げる青春群像劇目当てで買ってるんで...!」

 ちなみに嘘である。

 この作品はいわゆる日常系でストーリー目当てというよりはキャラの可愛さや癒し目的で読む読者が大半だ。

「...へえ?ならさ、読み終わったら私に貸してくれないかな?私もずっとラブコメ、興味あったんだよね~」

「いいですけど」

「やった...!」

七海先輩は満面の笑みを浮かべ、さらに俺の頬をつんつんと突いてきた。

 あれこれ、話していたら前の人の会計が終わったようだった。


「これ、どうぞ」

 書店を出るなり、俺はさっき買った小説の一巻を七海先輩に手渡した。

 俺は最新五巻のうち四巻までは読んでいるので別にいいだろう。

 たまたま、バックに入っていて助かった。

「やった~ありがとね!」

「七海先輩も可愛い女の子好きなんですか?」

 俺はさっきのお返しとして少し茶化すようにそう言ってみる。

「そりゃー好きに決まってるじゃん~!」

 七海先輩は本を見つめながら笑みを浮かべた。

「それに...」

「それに?」

「...私は女の子らしくないから、羨ましいなあ~みたいな?」

 七海先輩は過去のことを思い出しているのか、茜色の空を眺めながらそう呟いた。

 女の子らしいと後輩として思うが、俺がそこまで踏み込んだことを言うのは地雷になりそうで俺は何も言えなかった。


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