友達と照れ

「で?慰めるってなんですか?」

 俺と七海先輩は二人で話せる所ということで、俺が昔るな達とよく来ていた思い出の公園に来ていた。

「君、なんか露骨に落ち込んだ雰囲気醸し出してるじゃん~?先輩にはまるわかりだよ?」

「なら、多分先輩の勘違いですね。今もパワーが有り余って従妹と喧嘩してきたぐらいですし」

「それ有り余ってるのかな...?」

 俺がベンチに座ると七海先輩も隣に座ってきた。

 だが、その距離は普段では考えられない程に近い。

 拳、一個分もないだろう。

「何があったか教えてくれないかな...?」

 七海先輩は優し気に微笑みながらそう呟いた。

 もう何もかも見透かされているような笑みの前ではしらばっくれることはもはや意味をなさないだろう。

「...ごめんなさい。」 

 七海先輩やるなから哀れまれたくないし、傷つけたくない。

 これが現状維持で意味がないことは重々承知だ。

 でも、それを受け入れてしまう程に人を傷つけたくないし傷つけられたくないのだ。

「これを話した所で絶対に解決することはできないし、七海先輩が胸糞悪い思いをするだけなんです...それに誰かが俺の為に苦しむのは哀れまれてる感じがして嫌だといいうか...」

「...そっか」

 七海先輩は否定するでも肯定するでもなくただそう呟いた。

 そして、七海先輩は何かを決意したのかこちらをじっと見つめてきた。

「私さ...中学校時代、結構荒れてたんだよね」

 七海先輩は俺の手を優しく掴み自分の耳たぶへと導く。

「...ほら、ピアスの痕あるでしょ?」

 すべすべとしていて柔らかい耳たぶには確かにくぼみがあった。

「ほんとだ」

 七海先輩は恥ずかしそうに耳を紅色に染めた。

「...なんか、照れるね~」

 それから俺が手を離すと七海先輩はまた話し出した。

「...中学の時だったかな?昔からずっと一緒にいた親友から急にいじめられちゃって。暴力とかはなかったけど、悪口とか陰口とか、変な噂とか流されちゃってさ」

「...そうだったんですね」

 俺はなんと声を掛けていいかわからなかった。

「でも、私自分んで言うのもなんだけど勉強とか運動頑張ってたから表で悪口言われても裏ではみんな励ましてくれてたんだよね。友達も私の親に言ってくれてさ?」

「親が学校に相談してくれたんだけど、状況は全然変わらなくて...本当に辛かった。でも何より私は親友に裏切られるより、表では誰も助けてくれないことよりも、誰かに気を遣われて忖度されてる感じがいやだったんだよね」

「...」

 七海先輩も同じだったのだろう。

 誰かに哀れまれ忖度されるのは、独り善がりな茶番間があるから。

 そんな惨めな思いをするぐらいなら、自分で自分の首を絞めてしまう方が幾分か気が楽だ。

 前々から七海先輩の行動の原動力がわからなかったが、同じ共通項がある同族として放っておけなかったのだろう。

「...私は君と同じだから無条件に弱みを見せろなんて絶対に言わない。今、私も勝手にだけど過去の事喋ったからこれで君とイーブンでしょ?」

「...そうですね」

 七海先輩は珍しく俯きながら自信なさげに呟いた。

「実を言うと私もまだ人が怖いんだよね。優しくされても、裏で馬鹿にされてるんじゃないかって思っちゃうし、友達が出来ても失望されるのが怖くてすぐ会わなくなっちゃう」

「...」

 七海先輩は顔をあげ、俺の瞳をまっすぐと見つめてきた。

「...だからさ、私の友達になってくれないかな...?弱みを全部って訳にはいかないかもだけど...お互いの弱さを容認し合える友達.になりたい...!」

 お互いの弱みを知っていれば、その相手を馬鹿にすることはできないし、哀れみにも忖度にも偽善にもならない。

 これが健全な関係なのかは俺にはわからない。

 人によっては共依存的な醜く歪な物に思えるだろう。

 だけど...正しいかは分からない。

 けど、俺が今色々と妥協しようとしているのは本当に正解なのだろうか。

「...よろしくお願いします」

 今、ここで何かを変えないとこのままに気がした。

 ならば、例えこれが博打だったとしても俺は七海先輩に賭けたい。

 心の底からそう思えた。

「ん...!よろしくね」

 七海先輩は俺を手を強く握ってきた。

「...君の手温かくていいな~外は冷えるし後のことはうちで話さない?」

「ですね」



 駅前から少し離れた飲食店街。

 まだ、10時ぐらいだからか人がちらちらといる。

「七海先輩、今日はありがとうございました」

 七海先輩は頬を膨らまし、俺のコートをくいくいと引っ張て来た。

「せっかくお友達になったんだから、苗字じゃなくて下の名前で呼んでほしいな...?」

 いくら友達になったとはいえ、かなりハードルが高い。

 ちさとだってクラスメイトに同じ苗字のやつがいるから下の名前で呼んでいるのであってそうじゃなかったら絶対に苗字呼びしていただろう。

「...善処します」

「...ふぅ~ん?...もしかして、照れちゃった...?」

「そ、そんなことないですよ。物事には順序ってもんがあるじゃないですか?」

 というか、俺がすぐに苗字呼び出来るようなメンタル強すぎ男だったら元カノにフラれてない...!

「...もう~君って結構可愛いところあるよね?また、拗ねられたら困るしここらで許してあげよう~」

 ということで紆余曲折は合ったものの、俺に新たな友達が出来たのだった。


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