第23話

あれからお姉様に頼まれて、結婚式が終わるまではお姉様と一緒に過ごしています。


お姉様の旦那様はとってもお優しくて、公爵令嬢をしていた頃よりも快適な暮らしをさせて頂いております。人目につくといけませんので外には出られませんが、大好きな本やたくさんの菓子など家に篭っても困らないようにして下さいました。


篭っている間、マックスには何度か会いましたが、ジェラール様とは会っておりません。ですが、少しお願い事をしました。マックスによると、ジェラール様はわたくしの頼みを嬉しそうに引き受けて下さったそうです。


マックスも、頼られて嬉しいと笑ってくれました。不思議と心が暖かくなりましたわ。


わたくしのお願いは、見事に叶えられました。


「お姉様、ご結婚おめでとうございます」


「ありがとう。今日は部屋から出せなくてごめんなさい。マックス様は、調べたい事があるらしくて明日まで戻れないらしいの」


お姉様の式が終われば、わたくしは元の平民の暮らしに戻ります。


「今日はお姉様の近くに居たかったので戻るのは明日が良いとお願いしたのはわたくしですわ。おかげでお姉様の素敵なお姿が見られました。こちら、わたくしからのお祝いです」


「相変わらず上手ね。ああ、この刺繍はいつもエルザが刺していたグラジオラスね」


「お姉様の好きな紫と、わたくしの好きなピンクをワンポイントに入れましたの。お姉様、どうかお幸せに」


「ありがとう。相変わらず上手だわ。エルザと一緒に式に参加してるみたいで嬉しいわ。本当は、エルザにも式に参加して欲しかったんだけど」


「わたくしが姿を現したらシモン様に連れて行かれてしまいますわ。本日は、シモン様もご参加なさるのでしょう?」


「立場上呼ばない訳にいかないからね。ジェラール様がシモン様と一緒に居て下さるみたいだけど」


「なら、安心ですね。わたくしはお姉様のドレス姿を拝見出来ただけで充分ですわ」


裁縫は得意だったので、マックス達に材料をお願いしてお姉様のヴェールを作りました。日数はありませんでしたが、時間だけはたっぷりあったので満足のいくものが完成しましたわ。


「エルザの作ったヴェールを被れるなんて思わなかった。本当に嬉しいわ」


お姉様が結婚する時は、わたくしがヴェールを作る。幼い頃の約束は果たせないと思っていました。だけど、叶いました。


「マックスとジェラール様のおかげですね」


「え、ジェラール様?」


「ええ、ヴェールの材料はジェラール様が手配して下さったんです。お金はわたくしが支払いましたが、良いものが揃ったのはジェラール様のおかげですわ」


「そうだったのね。お礼を言いたいけど、エルザの事がバレてはまずいし……マックス様に伝言をお願いしておくわ」


「そうですね。わたくしはここでゆっくり本を読んでおりますから、お姉様は楽しんで来て下さいませ」


お姉様との約束が果たせて、幸せな気持ちでした。それから数時間後には、恐怖に震える事になるなんて思いもしませんでした……。

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