第7話

「お姉様はシモン様と婚約したいですか?」


「絶対イヤよ! エルザを捨てるような男、例え王族でも願い下げよ! それに、エルザには悪いけどシモン様は昔から嫌いなの。傲慢だし、使用人への態度も冷たいし、何よりエルザを大事にしないし……。エルザがシモン様を好きなのはわかってたから言えなかったの」


「そうなのですね。お姉様、お気遣いありがとうございます。わたくしもう大丈夫ですわ。シモン様への好意はすっかり冷めてしまいましたもの。少し悲しかったのは事実ですけど、今まで学んだ事は無駄になりませんし、冒険者として生きていきますわ」


「冒険者?! そんな危険な事はダメよ!」


「大丈夫です。冒険者でも危なくない仕事もあるんですって」


「そうなの?」


「ええ、お姉様からご紹介頂いた商会で荷運びの仕事がありましたのですぐ国を出られたのですが、その時ご一緒した方が教えて下さいました。冒険者になれば身分証も手に入りますし、国の移動も自由だそうですから」


「そうなのね。危ない事はしないでね? お金は大丈夫?」


「ええ、お姉様のブレスレットのおかげで全て持ち出せたのでしばらくは暮らしていけます。ありがとうございます」


「いいのよ、わたくしにはそれくらいしか出来なくてごめんなさい。国を出たのは大正解よ。お父様がやっぱりエルザを連れ戻すなんて言い出したわ」


「え……そうなんですの?! まずいですわ! 商会の事はバレていませんか?」


「今のところは……でも、バレるのは時間の問題かもしれないわ」


「ど、どうしましょう……」


「ただいま。エルザ、鍵くらい閉めろよ」


「マックス! 大変! わたくし連れ戻されるかもしれないわ! 魔力無しを養ってやるんだからって今までより無茶な仕事をさせられるに決まってるわ! 今までだって睡眠時間は3時間だったのに! 王妃になるからって無理に頑張ってたのに、使い捨てられるだけなんて絶対嫌よ! そ、そうだ! お姉様があの最低最悪なシモン様と婚約させられるかも! お姉様は、恋人がいらっしゃるのに!」


「待て! 落ち着け!!! って、なんだよその鳥。なんかものすげえ魔力を感じるけど……?」


「はじめまして、エルザの姉のテレーズよ。貴方が妹が言っていた冒険者さんかしら?」


「エルザの姉さんって事は……公爵令嬢かよ……。はじめまして、マックスです。しがない冒険者です。エルザ様とは、商会で荷運びの依頼を受けて知り合いました。エルザ様が荷物をブレスレットに収納して、俺がエルザ様を風魔法で運びました」


「そう、貴方のおかげで妹がすぐ国を出られたわ。ありがとう」


「いえ、俺はたまたま仕事を依頼されただけです」


「仕事は終わったのに妹を気にかけてくれてるじゃない。感謝してるわ」


「それは……その」


「お姉様! マックスのおかげで宿も安全で安いところを教えて貰えました。鍵のない宿もあるんですって」


「え……?! そうなの?! ありがとうマックス様! 妹は成人したばかりでずっと王妃教育をさせられてたから、世間知らずなの。助かりましたわ」


「いえ、俺はそんなに親切な訳では……」


「お姉様にご紹介頂いた商会のおかげですぐ国を出られましたが、おそらくお父様に調べられたらすぐわたくしの居場所はバレますわ。宿まで尾行されましたもの」


「なんですって?! 尾行?!」


「わたくし全く気が付きませんでしたが、マックスが教えてくれましたの。お姉様の紹介だから手を貸してくれたけど、わたくしの居場所を探られたら即情報を売るつもりでしょうね」


「……なんて事」


「仕方ありませんわ。わたくしは勘当された平民ですもの。公爵家から要請されれば隠せる訳ありません」


「エルザ……様は、家に戻りたくないのですか?」


「絶対嫌ですわ。今までだって過酷だったのに、魔力無しで価値がないとなると、下手したら監禁されて仕事だけさせられますもの」


「実の娘ですよね?!」


「実の娘をあっさり捨てるんですよ?」


「そうでしたね……なら、俺にひとつ案があります。ご検討下さい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る