第8話
「案……ですか?」
「はい、エルザ様には今からこの街と、別の街の2箇所で冒険者登録をして頂きます。この街では本名で、もうひとつは偽名で登録します。国も変えた方が安全ですから、別の国に運びます。ご心配なく、俺が知ってる中でも特に安全な街にお連れします。エルザ様に透明化をかけておけば、俺が運んでいるとは気づかれません。身分証を手に入れて、別人として生きていけます。両方の冒険者登録が済んだらこの街に戻り、危険な依頼を受けて頂きます。依頼は、期限の短いものを選びます。早くお金が欲しいと言えば、多少渋られますが依頼は受けられます。受付の人に、死にますよって言われるようなヤツを受けて下さい。依頼を受けて街の外に出たエルザ様を、オレが別の街に運びます。念の為、服などを置いておき魔物にやられたように偽装しておきましょう。エルザ様の行方が途絶えてから冒険者登録した者は調べられるかもしれませんが、エルザ様が冒険者登録するより先に登録した者は調べないと思います。それから、お姉様の婚約はエルザ様が対策をご存知では? 教えてくれましたよね? 魔力を国に提供しているテレーズ様は、国に願いを叶えて貰えると。婚約を打診されてからでは間に合わないでしょうけど、今ならギリギリ間に合うのでは?」
「そ……そうよ! マックスありがとう! お姉様、あのね……」
お姉様は、すぐに部屋を抜け出して願いを申し出ました。お姉様は、魔力提供は義務だと教えられていたらしく、憤っておられました。
お姉様が魔力を提供した分も、お父様やお兄様がお金に替えていたらしいのですが、お姉様が提供した魔力は莫大で、家と縁を切って恋人と結婚するくらいなら……と認められました。
今後は魔力を提供しないと脅したそうですわ。さすがお姉様!
お姉様の恋人のお宅は、お姉様を歓迎して下さってすぐに婚姻が成立しました。
当然、お父様から抗議が来たそうですが、魔力提供の報酬は、本人しか受け取れません。お父様は、お姉様の希望だと嘘をついてお金を受け取っていましたから、国に訴えると言ったそうです。
訴えられると、いくら貴族でも捕まります。魔力提供は、それほど厳密なものなのです。お姉様は訴えない代わりに、縁切りを認めろと迫ったそうですわ。
お父様は、渋々了承しました。せざるを、得ませんでした。
訴えがなかったのでお父様は捕まりませんでしたが、社交界で噂は広まり、針の筵だそうです。
また、お姉様の訴えがきっかけで魔力提供の報酬は本人にしか渡さない事になりました。
お姉様のように家族が報酬を受け取っている家がいくつかありました。宰相様が調査したところ、本人の了承を得られていない方が何名かいらっしゃいました。
そのような家は、訴えられて貴族籍を失った方もいらっしゃるそうですわ。
お姉様は、こんな事なら早く彼と結婚すれば良かったと仰っていました。とても、お幸せそうです。
そして、わたくしはマックスの助けを借りて名を変えました。今は、エルと言う名で冒険者登録を行い、街で仕事をしております。
マックスに2ヶ月ほど色々と教えてもらいながら、家と仕事を手に入れました。今日は、マックスとお別れの日です。
「長い時間ありがとう」
「ここ1週間1人で仕事してる様子を見たけど、もう大丈夫だな?」
「ええ、問題ないわ。買い物もできるようになったし、自炊もできるようになったし、小さな家まで借りられたし、安全な仕事も見つかったしね。本当にありがとう」
「俺は報酬に見合う仕事をしただけだ。また困ったら言いな。まだお代は払い終えてないしな」
「もう充分助けてもらったわ」
「いや、エルの命をあと数回助けないと割に合わねぇ。まさか、転移や通話の魔道具作成まで出来るようになるとは……恐ろしいな、貴族の蔵書は。これ、俺と通話できる。困ったら遠慮しないで呼べ」
マックスはすべての本を写しました。最初は手書きでしたが、途中から写本の魔法が載っていたらしく、魔法で写本をしましたので、写しの本を作成するのは1ヶ月ほどで完了しました。ですが、私があまりに危なっかしかったのでしょう。マックスは本を写し終えても私の側に居てくれました。
マックスはふたつの冒険者登録を使い分けていました。私と出会った時のマックスと言う名前が本名で、もう一つの名前はモーリスだそうです。
ややこしいだろうからと、私はマックスと呼んで構わないと言われていますが、最近は名前を呼ばないようにしています。だって、ここではモーリスなのに、思わずマックスと言ってしまいそうになるのですもの。
「貴重な魔道具でしょ? いいの?」
「練習で作ったやつだから大丈夫だ。ちゃんと通じるのは確認してある。そろそろ、マックスとしての仕事もしないといけないからな。ついでにエルザの国も探ってきてやるよ。お姉さんとはよく話してるんだろ?」
「ええ、来月結婚式があるそうだけど、行けないのが残念だわ」
「そうか……流石に死んだ筈の公爵令嬢が居たらみんなビビるもんなぁ」
「仕方ないわ。お祝いくらい贈りたいけど……」
「届けてやりてぇが、一介の冒険者が貴族様を訪ねたら目立つんだよな。万が一エルザの事がバレても困るし。エルが元気なのが一番の祝いだろ」
「そうね、お姉様を安心させる為にも楽しく生きていくわ。最近、毎日8時間も眠れるの! とっても調子がいいのよ!」
「今までが異常過ぎただけだ。顔色も良くなったし、本当に良かったな」
「ありがと!」
「んじゃ、元気でな。困ったらちゃんと呼べよ」
マックスはすっかり心配性になってしまわれました。確かに、最初は買い物の仕方も分かりませんでしたからね。本当に、感謝しておりますわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます